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禁酒法

きんしゅほう

酒の醸造、販売、飲用などを禁止する法律。特にアメリカ合衆国で1919年から1933年にかけて全国で施行されていた禁酒法を指す。
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概要編集

かつて米国全土で施行されていた禁酒法はボルステッド法とも呼ばれ、0.5%以上のアルコールを含有する飲料の製造、販売、提供などを法の定める特例を除いて禁止したものである。

ただし、飲用そのものは規制されておらず家庭などで醸造した酒を自宅で飲む事は許可されていた。


禁酒法の歴史的背景編集

州単位では、米国において古くから禁酒運動は見られた。

1658年にマサチューセッツ州は度数の高い酒を不法と認定していた。また1800年前後には10以上の州に禁酒運動組織が成立していた。1840年代にメソジストに代表される敬虔な宗派がさらに禁酒運動を拡大する。バプテスト諸派、長老派教会、クエーカーといったプロテスタント各派が合流し、これに労働者の環境改善を考える労働活動家と、販売拡大を狙うソフト飲料メーカーが合流して、ついには全米規模の大規模な禁酒運動が連邦政府の政策に影響を及ぼすことになった。かくして1919年、ウィルソン大統領拒否権発動を押し切って連邦議会はボルステッド法を可決、再可決し、禁酒法が全米で発効した。


禁酒法の施行編集

禁酒法が成立した後、当局の定めた通り多くの醸造所が酒類の醸造を停止した。

特に大きな影響を受けたと言われるのが当時黎明期にあったアメリカのワイン醸造所で、醸造した酒の販売が禁止されたため多くの醸造所で高品質のぶどうが収穫できる木を家庭醸造用の長持ちはするが品質が低い品種に植え替える、廃業するなどして大打撃を受けた。

またワインに限らずこの法律の失効後に再開した醸造所は半分以下であるという報告もあり、アメリカにおける酒文化そのものに大打撃を与え、多くの技術を失伝させたとも言われる。


上述した通り酒類を堂々と販売することができなくなり、飲酒による悪影響は人々から消え去り。より良い社会が実現されるかと思われていたが、実際にはその真逆のことが起こる。

酒が合法的に入手できなくなったことにより、反社会勢力であるギャングたちが酒の密造に乗り出し密造酒を販売することにより利益を得だしたのである。当然合法ルートでの供給が途絶えた酒は飛ぶように売れ、ギャングたちはそれまでのギャンブルや盗品の売却益の比でない膨大な金を安定的に手に入れることができるようになり、急速に力をつけていった。

ギャングの代名詞として名が上がる事も多いアル・カポネやそのライバル、バグズ・モラン等の多くのギャングがカナダメキシコからの密輸や密造に手を出し、その利益を巡ってギャング同士、またはそれを取り締まろうとする警察が衝突し多くの死傷者が出た(特に警察では500人以上が殉職、巻き込まれた市民や労働者では2000人以上が死亡した)。


トンプソン・サブマシンガン-米国禁酒法時代・シカゴマフィアモデル


カポネの逸話にはバスタブを利用した密造酒の製造によって富を得た話もある。

ボルステッド法を施行する為に組織された酒類取締局は、こうしてギャングなどの巨大犯罪組織と戦うことになった。

中でもエリオット・ネスが率いるシカゴ酒類取締局特別捜査班は、カポネ側による買収の試みを失敗させてアンタッチャブルの異名をとり、ギャングと戦うヒーローとしてメディアの寵児となった(ただし、エリオットが自伝で主張するカポネ逮捕への功績には懐疑論もある)。


余談ではあるが、当時氾濫した度数が強いだけでまずい密造酒に対して何とか少しでもマシな味にして飲もうとする人々が増加したことによりアメリカ国内で強い酒を用いたカクテルが多数生まれたとする説もあり、事実として禁酒法の撤廃後はウォッカの生産量が増加しウォッカ等をカリフォルニアのフルーツで作ったジュースで割って作ったカクテルがブームとなったほか、禁酒法により失職したバーテンなどがヨーロッパに渡ったことで「マティーニ」や「マンハッタン」等アメリカ生まれのレシピで作られるカクテルを筆頭にブームを引き起こし、世界中へとカクテル文化が広がっていくこととなった。


禁酒法の結末編集

酒を禁止することで社会をより良くするという理念の元に執行されたボルステッド法は

  • ギャングへの資金の流入、資金を得たギャングの影響力の増加
  • ギャングによる警察への脅迫/買収行為の横行。警察組織の腐敗
  • 莫大な利益を巡る争いの頻発、またそれによる死亡者の増加
  • 酒類による税収が消滅したことによる資金難(税収は5億ドルにのぼった)
  • 禁止されたことでかえって酒の消費量が増加し、飲酒運転による事故が増加する
  • より強い酒を密造されるようになり、粗製酒による死者が出る場合もあった
  • 酒類取り締まりに使われる膨大な資金への批判
  • 市民による法律の軽視、ギャングへの資金提供
  • 市民による密輸の増加(外国へ旅行し、酒を隠して持ち込む人々の増加)

等、様々な具体的不利益や混乱をもたらしたことで人々に不興を買うようになる。


1932年に行われた大統領選挙ではこの法律の撤廃・軽減が争点となり、改正(軽減)派であったフランクリン・ルーズベルトが勝利したことにより1933年に軽減、年内に撤廃された。

しかしこの法律に賛成していたキリスト教系団体等の影響が強い州では依然として効力を持ち、中でもカンザス州では1987年まで飲食店で酒類を提供することが禁止されていた。

この他にも、そうした風潮が強い街では街や地区単位で今日でもこうした規制がなされる場合がある。


反社会性力の台頭、それに伴う混乱や事件の増加などをもたらした禁酒法は失敗であったことが半ば社会によって判断されたような形で失効し、アメリカでは酒類の醸造が再開された。

(この事を差して、この法律が「高貴な実験」であったと揶揄される場合もある)また、この禁酒法を例え(前例やテストケース)にした酒類に限らない規制の法律によって起こりうる悪影響は何かを推測する場合もある。


しかし、上述したとおり酒類の醸造所のうち営業を再開できたのは閉鎖した内の半分程度であり、アメリカから既に出て行って外国で営業している醸造所や廃業し、従業員たちが失業してしまった醸造所や農家も非常に多かった。

なお、現在でも酒瓶には密輸の名残とされているものには薄型の瓶が存在しており、今でこそ旅行等での携帯に適しているデザインであるが、これは当時は隠し持つ事を目的とした為であった。


禁酒法の時代編集

この時代はアメリカ社会の転換期でもあった。自動車映画ラジオといった新技術が席巻する。また、ルイ・アームストロングらによってジャズが発展し、アール・デコといった文化が華開く。一方でギャングの台頭やそれに伴い、多くの事件が引き起こされるなどアメリカ社会の明暗が激しく表面化した時代である。

1920年台を題材とした小説・映画などでも禁酒法とその時代が取り上げられることが多い。

特にこの年代のギャングたちを描いた映画などでは必ずと言っていいほどこれらの法律やそれによって醸造された密造酒の販売、それを巡る衝突などが描写されている。


アンタッチャブル


そしてこの時代ならでは施設といえば、代表的なのが「スピークイージー」、いわゆる潜り酒場である。酒が大変に儲かる商品でありながら合法的に提供できない、それ故にこの時代の酒場は設備にも運用にも多数の工夫が凝らされていた。

例えば、目立たない小さな店構えや看板などの排除により営業が発覚しないようにする、ドアマンを採用して、条件を満たす者以外の入店を拒否する、店内ではいっけんは通常の食堂のような営業を行い、酒の注文には合言葉を使うなど。

このスピークイージーはギャングとギャング、ギャングと酒類取締局の対峙する舞台でもある。

また禁酒法時代以前の酒場といえば荒っぽい男たちの溜まり場であり、女性が飲酒する機会は稀であったが、そもそも違法なスピークイージーは男女とも歓迎した。

実はこの時代以降、女性の飲酒文化はむしろ浸透したという。

店を大きくできず回転率を上げなければいけないので、酒に添える料理にも工夫がある。

フランス料理のカナッペを元にしたフィンガーフード(一口サイズでつまむ料理)だ。

禁酒法廃止の後もフィンガーフードは人気があり、パーティ料理ともなっていく。


禁酒法時代のファッション編集

禁酒法時代のファッション文化についても触れよう。当時のギャングの服装といえば、定番はロングコートを着てソフト帽を被ったスタイル。

第一次世界大戦が終わったばかりの当時は戦場で用いられていたトレンチコートなどのロングコートが民間にも持ち込まれて流行していた。

またソフト帽は、英国流の山高帽よりも気楽な帽子として一般的に愛用されていた。

どちらも実はギャングに限らず流行のファッションであったのである。

次いで、当時のギャングの定番武器といえば、トンプソン・サブマシンガンである。

元は軍用に企画され圧倒的な火力を持つこの銃は、当時の一般人はもちろん当初は警察にすら普及しておらずギャングに火力の優位をもたらしていた。

スピークイージーに出入りする女性の定番ファッションといえば、ハイヒールミニスカート、肩を露出したシンプルなドレスであるが、

これは当時の一般的な露出の少ないドレススタイルに比べると、ご両親卒倒モノであったようだ。


禁酒法時代を背景にした作品の一覧編集


関連タグ編集

アメリカ合衆国 禁酒 

イスラム教:アルコールが宗教的タブー

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