概要
恋愛における行動傾向や性格を示す言葉。「恋愛に縁がないわけではないのに積極的ではない、肉欲に淡々とした性格」として、2006年にコラムニスト・編集者の深澤真紀が命名した。
意味の変遷
当初は社会学・ジェンダー論方面で現代の若者を解釈するためのキーワードとして受け入れられ、例えば大阪府立大学教授・森岡正博は「心が優しく、男らしさに縛られておらず、恋愛にガツガツせず、傷ついたり傷つけたりすることが苦手な男子」と定義している。
そうした分野に携わる者の思考・嗜好もあって概ね未来志向の好ましい態度と受け止められ、「一途である」「女性を丁寧に扱う」「対等な友情関係を築ける」といった意味合いが付加されていったのがこの時期である。
しかし、大衆向けの報道が増えてきた2008年頃になると、徐々に「恋愛行動に対して消極的」という面が否定的に取り上げられるようになってきた。
そこに「ゆとり世代」を説教したい中高年や「若者の○○離れ」の原因を求める各種業界、自分達の引き立て役に使いたいリア充・芸人層といった各方面の思惑が交錯してきた結果、メディアを挙げた一大バッシングに発展。
例として挙げられる人物像も典型的なキモオタやコミュ症にすり替えられてゆき、更には対義語として「肉食系男子」が立てられて理想像とされるなど、90年代オタク叩きの再来のような状況を呈した。
それに実際にオタク叩きを受けてきたネット上の男性達が猛反発し、各地で特集記事を叩き返すようになる。そんなに……僕たちの力が見たいのか……とばかりに自身の「肉食」ぶりを誇示する者も多発し、「草食系男子」は当初の意味合いごと炎上していった。
命名者である深澤は誤解であるとする声明を出したものの(こちらの外部リンクを参照)、最初に大衆向けに舵を切ったのが女性向け週刊誌だった事もあって女性である深澤も敵認定する者が続出。
今更引けない各メディアもほとんど黙殺したため火に油を注ぐだけの結果に終わり、語意の修正は最早不可能な状態なってしまった。
現在では概ね「真面目系クズ」と同義として扱われており、ネットでは今尚最大級の侮辱と取る者も少なくない。「言葉は生き物」とは言うが、人畜無害な草食動物が誰からも嫌われる害獣に進化していった様は皮肉としか言い様の無い実例であった。
そして同時に、一連の騒動によって得られたものは「やっぱりマッチョが一番」という古いヒエラルキー観を強化したという、当初意図された事の真逆の結果のみだったのである。
余波
この一件により、元々ネットで不信感を持たれていた女性やマスコミに対する感情が悪化。
一方で語感の良さと反響の大きさから、肉食系男子以外にも「○○男子」「○○女子」といった単語がその後も続出したため、その度に使用の取り止めを求めて争いになるという不毛な恒例行事が生じる事となった。
草食系男子からの直接の派生語としては「ロールキャベツ系男子」「アスパラベーコン巻き系男子」ができたほか、意趣返しとして「絶食系男子」「残飯系女子」といった単語を男性の側から送るといった現象も生じた。
騒動が沈静化した2012年頃になると、Twitterの若い女性ユーザーを中心に「○○男子」「○○女子」を描くブームが発生。草食系男子が当初の意味に近い形で再評価されたり、自分達で新たなカテゴリ分けを考えたりと流れが変わりかけたものの、未だ警戒を解けない男性達によって「ヲチ」や「晒し上げ」の対象にされた例も多く、誤解を解くまでには至らなかった。
このように、現在でも火種を燻らせ続けている単語であり、類語も含めて迂闊に使用すればどんな敵愾心を生むか分からない状態にあり続けている事は覚えていて損ではないだろう。
主な傾向
pixivへの投稿例はさほど多くなく、「関わらない」という選択をしたユーザーが多い。「ヘタレ」や「朴念仁」など、近い意味合いで使えるタグが既に多く存在していた事も影響しているものと思われる。
2012年のブームに関連したイラストもほとんど投稿されておらず、ネットの中では比較的騒動の影響を受けなかったサイトであると言えよう。
一方で、実際に草を食んでいるイラストや草食系の獣人を描いたイラスト等にこのタグが付けられている事がある。いわゆるネタ絵である。
ちなみにR-18作品は毎日大量に投稿・閲覧されており、二次元と三次元を直接同列には語れないものの、男性達の肉欲が衰えているわけではないと推測できる。
彼らは得物を手にできていないだけの飢えた狼なのかもしれず、それだけに肉食系男子よりも獰猛である可能性さえ考えられるのである。エロ同人みたいになりたくなければ、今後も自重と尊重ある付き合い方が必要になるのだろう。
余談
ウサギがプレイボーイの象徴となっている話が有名であるように、実際の野性動物においては肉食動物よりも、捕食対象である草食獣の方が個体数が多く多産である必要があるため、生殖行動は活発になる傾向にある。
また、積極的に他の動物を襲わないだけで獰猛な種族も多く、例えば野生のキリンがライオンを蹴り殺したという実例が存在する。
獣人のケンタウロスやミノタウロスにしても、雄々しさや荒々しさの象徴として描かれており、2008年の意味の草食系男子であっても舐めてかかると手痛いしっぺ返しを食らう羽目になるのである、きっと。
別名・表記揺れ
関連タグ
ロールキャベツ系男子 アスパラベーコン巻き系男子 マスコミ 男の子牧場 男は狼なのよ