概要
V-22とは、アメリカのベル社とボーイング社が共同で開発した軍用垂直離着陸機である。
ティルトローターという機構が特徴的であり、翼両端にある回転翼の向きを上向きから前向きにまで変えることが可能。
それにより、ヘリコプターのようにも固定翼機のようにも飛ぶことができる。
現時点では海兵隊仕様のMV-22(輸送機)、空軍仕様のCV-22(特殊戦用輸送機)が存在する。
pixivでは「オスプレイ」タグの方が多く使われている。
また、この航空機のみならず、それっぽいもののイラストにもタグが付けられる。
V-22の先駆者
ベルXV-3
1955年、垂直離着陸機という形で研究が始まった。
だが、当時の技術的な問題で実用化はままならず、実用化は放棄された。
(プロペラ羽の異常振動、安定性の低さ、操縦性の悪さなど)
ベルXV-15
1971年、陸軍とNASAが共同で『垂直および短距離離着陸機研究』を開始。
この計画にベル社の「モデル300」が採用され、
1973年には改良が加えられた「モデル301」へと発展した。
本機は「V-22の縮小版」といえるほどよく似ており、
1977年に初飛行(初ホバリング)、1979年には通常の飛行にも成功した。
JVX計画
1981年、当時の国防長官が4軍統合で使う「新型の垂直離着陸機」の開発計画を発表した。
この計画が『JVX計画:Joint-service Vertical take-off/landing eXperimental(統合垂直離着陸研究)』で、
固定翼機(通常の航空機)と回転翼機(ヘリコプター)のいいとこ取りを目指していた。
この設計は複雑になることが予想されており、
コンピュータが使えるようになった事が計画推進の決定打となった。
このJVX計画で開発されるのが、のちの”V-22 Osprey"(オスプレイ)である。(1985年命名)
1988年、陸軍は予算の都合により計画から離脱。
以降は陸軍の装備を搭載する事は想定していない。
V-22のあゆみ
当時新発明であったヘリコプターと飛行機の利点を掛け合わせた新たな航空機の可能性を模索していた。
オスプレイは紆余曲折を経て1986年に試作機が完成し、1989年に初飛行が行われた。
だが、その後のテストで乗員や民間人まで死亡する深刻な墜落事故が発生した。(1991年と1992年)
そのために、問題点が改善され本格的な運用が始まった2000年代においても「未亡人生産機(widow-maker:widow(寡婦) maker(作り)別名「後家作り」)」と呼ばれていた。(そのせいでいろいろありすぎたので最近は呼ばれない)
「未亡人生産機」自体はV-22に限った呼び名ではなく、かつてはB-26(マローダー)やF4U、F7U、F-8、AV-8B(ハリアーⅡ)、航空自衛隊でも運用していたF-104スターファイター(栄光)などがそう呼ばれていた。
現在、アメリカ当局は『技術的問題は殆ど解決された』との結論に至っており、
1994年には量産に踏み切った。
その後事故は何度か起きているが、オスプレイの根本的な欠陥によるものではないとして、アメリカ国防省は「オスプレイの安全性」を一貫して主張し続けている。
2008年にはオバマ大統領自身も、オスプレイに乗り込んで安全性をアピールしている。
(事故は他航空機でも起きるものである。その事故リスクの評価はここでは省く)
2012年に沖縄のアメリカ軍基地への配備に関連して、日本で注目を浴びている。
pixivでも、投稿されたイラストは2012年のものが多い。
オスプレイの性能
- 特性
ティルトローターという極めて斬新な機体構成である。
これは固定翼機としては短めの主翼の両端にそれぞれエンジンを収めたナセルを取り付け、飛行形態に合わせて角度を調節するというもの。
主翼内には両エンジンを繋ぐ動力伝達用のシャフトがあり、片肺になった際には接続を行うことで片方のエンジンで両方のプロップローターの駆動が可能となっている。
この機構もあってエンジンに十分な最大定格出力を持たせている。
エンジンナセルに取り付けられた特徴的な太いプロペラはメーカーではプロップローターと呼ぶが、実際に運用する軍では単純にローターと呼ぶ。
離着陸時およびホバリング時はエンジンナセルを90°にしてヘリコプターモードに、巡航時はエンジンナセルを0°にして燃費と高速性能に優れる固定翼モードにする。
これによってヘリコプターと固定翼機の飛行領域の大部分をカバーする極めて広いフライトエンペローブを実現している。
なお、ヘリコプターモードと固定翼モードの転換には最短で12秒ほどかかる。
ちなみにプロップローターはヘリコプターのローターより径が小さいため、ヘリコプターに備わっているオートローテーション(エンジンが停止した場合にローターをフリーにすることで揚力を発生し着陸する緊急手順)は通常のヘリと比べて高度など可能となる条件が厳しい。
(ちなみに同軸二重反転ローターの場合はティルトローターほどではないが同じように条件が厳しく、普通のヘリコプターであっても離着陸中の低高度低速度という条件ではオートローテーションを行うことは出来ない)
また固定翼モードではプロップローターの回転半径が降着装置より下を通る(要するに地面に当たる)ため、固定翼モードでの離着陸はできない。(もちろん、緊急の場合などで、ローターの破損を覚悟した上でなら固定翼モードのまま着陸可能。)
エンジンナセルを転換モードにして短距離離着陸を行うことができ、垂直離着陸が出来ない最大積載量近くまで積んだ場合には滑走しての離着陸を行う。
短距離離着陸の場合は1,600フィート(約487.68m)程の滑走距離を必要とする。
- 輸送能力
人員であれば25名輸送可能(機体左右に向い合せになった長椅子型が24席+指揮官用が1、さらに操縦席2席に加え予備員席が1)。
また担架なら上下に3段重ねることで12床設置可能で、長椅子と組み合わせて設置できる。
機内に車両を自走搭載することもでき、また野戦砲など機内に収まらない物でも吊るして運搬することが可能。
滑走しての離陸が可能なので、同クラスのヘリより最大積載量を高くすることが出来る。
前述のように陸軍はプロジェクトから離脱した為、陸軍の装備の輸送は考えられておらず、例えばHMMWV(ハンヴィー)は機内に搭載することは出来ず、元から大型汎用輸送ヘリでしか輸送できない榴弾砲といった重量物の吊り下げも考えられていない。(中型汎用輸送ヘリでも輸送可能なように軽量化がされた軽量榴弾砲の吊り下げは可能)
- 移動性能
航続距離は954km(強襲揚陸作戦)である。これは従来の輸送ヘリ(CH-53)の約2倍にあたる。
その上スピードも従来機の約2倍(最大565km/h)となっており、ここでもヘリコプターを遥かにしのぐ飛行能力を誇っている。
- 武装
ドアガンとして後部ランプドアに機関銃を取り付ける事が出来る程度。他は敵に撃たれたミサイルを探知したり撹乱する自衛のための装置を装備しているだけ。まぁ輸送機だし。
BAE Systemsが開発したリモートガーディアンと呼ばれる電子光学/赤外線(EO/IR)センサーとアナログジョイスティックで制御する汎用の自動機銃を腹部に搭載する研究もされている。
側面ドアにドアガンを設置しようとすると有効な射角が得られない欠点があったが、このシステムによりその問題を解決する事が出来るといわれている。
パイロットではなくガンナーにより操作される。
現状一部の機体で試験運用をおこなっている段階で、これが大々的に運用されるかは不明。
派生型
オスプレイは基本的には輸送目的だが、救難機仕様もある。
また、配備される組織や運用形態によってそれぞれ名称が異なる。
- MV-22B: 米海兵隊向けの輸送型。
・揚陸強襲作戦の支援
・地上での作戦行動の維持
・自軍の展開に用いられる。
360機が装備される予定とのこと。
戦闘捜索・救難、
艦隊兵站支援(艦艇どうしの補給)、
特殊作戦に用いられる。
48機が装備される予定である。
- CV-22B: 米空軍向けの特殊作戦型。
MH-53Jの後継とされ、
・長距離特殊戦活動、
・不測の事態での作戦、脱出および海洋特殊作戦に用いられる。
53機が装備される予定。
- CMV-22:米海軍向けの艦上輸送型。
C-2(愛称 グレイハウンド)の後継機になるものと見られる。
陸上~空母間の輸送を主な任務とし、空中給油装置付き外装燃料タンクを装備することで艦載機に空中給油を行える。
44機が装備される予定。
構想段階
現状具体的な開発、調達計画はないものの、考えられている仕様。
- 攻撃機型
攻撃ヘリのように機首に旋回式の機銃をつけたり、スタブウイングを追加してそこに機銃などを懸架し近接航空支援機とする。
また、自衛用に機首側面に前方発射型ミサイルを取り付け、運用する実験も行われている。
- EV-22: 早期警戒機型
イギリスで提案・研究されており、軽空母等で運用を行う。
主翼上部にレーダーを搭載する。
カーゴランプ部に対潜レーダーを搭載する案もある。
- KV-22(仮称):空中給油機型
カーゴベイ内に増槽及び給油装置を設置して空中給油母機とする計画。
機首を流用すればコストダウンが狙えるし、特殊な飛行特性のオスプレイにはオスプレイで給油する方がやりやすい、というのも。
登場作品
特攻野郎Aチーム 先述したリモートガーディアンに似た武装を搭載して登場。
トランスフォーマー 実写版で米軍に運用されている。ローター四枚の架空の派生型もわずかにだが登場した。