概要
2006年より製造されてきたE233系の後継車両にして発展型と呼ぶべき車両であり、E233系を踏襲しつつ、登場後の技術開発を反映した形になっている。
最大の特徴は車内広告のほとんどをデジタルサイネージ化したことで、その他、炭化ケイ素半導体を制御装置で採用したり、走行しながら機器類や地上設備の状態を監視する装備も採用している。
量産先行車
2015年3月23日、第1編成にあたる量産先行車11両編成×1本が(うち10号車は既存のサハE231-4600から改造編入)、総合車両製作所新津事業所から出場し試運転が実施され、Twitterのトレンドにも浮上した。
その見た目からアップルウォッチ、ヤテップルウォッチ(山手線の電報略号ヤテとアップルウォッチをかけたもの)と呼ばれたり、あるいは電子レンジに例えられたりしたほか、ツイッターでは「山手線クソコラグランプリ」というハッシュタグでさまざまなコラが投稿されるに至る。
その後も試運転が繰り返され、同年11月30日より営業運転を開始した。
営業開始直後のトラブル
営業運転開始の5分後(2駅目)、早速のオーバーラン。
その後もトラブルが続き、終いには30分にわたって乗客を閉じ込める事案までが発生した。
当然その後の運転は打ち切りとなり、翌日以降の営業運転も未定になる幸先の悪いスタートになってしまった。
原因は車載の情報管理システム(INTEROS)の不具合のためで、ソフトの修正などの対策が行われた。(中には混雑時の荷重を再現するため客室内に水タンクを満載してテストを行うなど、徹底した対策が行われていた。)
何かと不具合が強調されがちだが、新技術の初期不良というのはどの分野に於いても起こらない方が珍しく、事実としてJR東日本も苦い経験をしている。
同年12月27日より試運転が再開され、2016年3月より営業運転へ復帰した。
山手線向け量産車
2016年6月8日、量産投入計画が発表。2017年春から2020年春にかけて49編成を製造することとなった。これにより既に営業運転中の量産先行車を含めて計50編成(現行の52編成から2編成減)となる。また一部編成は、サハE231-4600の改造スケジュールの問題もあったためか、2編成については改造編入なしのフル新造となることも合わせて発表された。(対象となるのは第04、05編成)これによりサハE231-4600は4両が余剰となる見込みである。
なお多くの鉄道界隈の予想通り、捻出されるE231系500番台は中央・総武緩行線への転用となることも正式に発表された。そして押し出される中央・総武緩行線のE231系、209系500番台は武蔵野線、八高線・川越線へ転用され、各路線に残る205系を置き換える予定(205系はさらに海外へ譲渡の予定)。
???:「解せぬ」
横須賀・総武快速線
旧型になった横須賀線・総武快速線のE217系の置き換えを目的に、導入されることが2018年9月に発表された。11両編成を51編成、4両編成を46編成の計745両を2020年より導入予定。
車両設計
車体
E233系から設計を大きく変更。
総合車両製作所の「sustina」シリーズの設計を全面的に採用。雨どい部分の出っ張りがなくなり、すっきりとした外観となった。レーザー溶接の適用と構造の見直しにより、見映えの向上と構体質量の削減を図っている。また、新たにオフセット衝突対策も適用された。
前面は、これまでの白地に黒と帯の入ったデザインから一転し、ラインカラーが下地となり、巨大なスクリーンのような平面と下部のグラデーションが近未来感を演出している。
前面ガラスは、行先表示器周辺と乗務員室部分とで分割され、破損しても交換しやすくなり、また平面ガラスとしたことでコスト削減が図られた。
走行機器
主電動機は新形式・MT79形。E233系のMT75形と性能面で互換性を持たせつつ、全密閉構造とすることで内部清掃を不要とし、軸受の交換を分解なしで可能にしたことで、メンテナンス性を向上させた。また、損失の少ない材料を用いて、効率を向上させている。
1時間定格出力140kw、定格電流108A、定格回転数2380rpm。
制御装置は、炭化ケイ素(SiC)適用型半導体素子を使用し、小型化・高性能化を図った最新のVVVFインバータを採用。制御単位は従来通り1C4M。
形式はSC104形。原設計は三菱電機。スイッチング素子にSiC-MOSFET、還流ダイオードにSiC-SBDを採用し、小型化とスイッチング損失低減を実現している。高速域でも多パルススイッチングを行うことで、モータの高調波磁束を低減させ、効率向上を図っている。
量産先行車は、比較用としてSC105形も搭載する。原設計は東芝。スイッチング素子にSi-IGBT、還流ダイオードにSiC-SBDを採用した、ハイブリッドSiCと呼ばれる構成となっている。SC104形よりもヒートシンクが大きく、また磁励音が異なる。
いずれも、従来の1つの制御回路で2台のインバータを制御する2群構成・ユニット方式から、制御装置を各電動車に搭載し、全てのインバータが制御回路を持つ1群構成・独立電動車方式に変更。回路の切り離しを従来のユニット単位ではなく、電動車1両単位で行うことが可能になり、故障時の性能低下を低減。また、電動車を1両単位で増減することが可能になり、最適な電動車比率を実現できるようになった。
台車はE233系のDT71/TR255がベースの改良型、DT80/TR264である。歯車箱が分割構造に変更され、メンテナンス性が向上。外観では、従来は装備されていた軸ダンパが準備工事措置となっている。
歯車比は14:99=1:7.07で、E233系の6.06よりも低速寄りとなった。
空気圧縮機は、これまでのスクリュー式から、オイルフリーのレシプロ式に変更。騒音は少し大きくなるが、メンテナンス性が向上する。
設備面
前面・側面の行先表示器は、従来よりも解像度の高いフルカラーLEDを採用。走行中は簡易的なイラストを表示することができる。
車内設備も大きく変化。
まず、従来は各ドア上部に2台ずつであった液晶ディスプレイを、ドア間座席上部の荷棚の上に3台ずつ、貫通扉の上に1台ずつ増設し、車内広告のデジタルサイネージ化を推進している。当初は、紙媒体の広告を全て置き換える方針であったが、広告会社からの要望により、荷棚上の広告枠を廃止し、中吊り広告を6箇所に減らした上で存続することとなった。
座席は、209系以来の形状を基本としつつ、袖仕切りが新しいデザインとなった。
また、従来は1編成当たり2〜3箇所に設けられていた車椅子スペースは、「フリースペース」に名称が変更され、全車両に1箇所ずつ設けられた。
ドアエンジンはラックアンドピニオン方式を採用。
これは、従来の空気式は保守がやや面倒、スクリュー軸式は挟まった荷物を引き抜きにくい、リニアモーター式はドアがきっちりと閉まらないという難点があり、電気式でありながら空気式のように常時お互いの扉が押し付け合う構造で、挟まった荷物を引き抜きやすく、ドアがきっちりと閉まるようになっている。
INTEROS
従来のTIMSに代わる新しい車両制御システム・INTEROSを採用した。
演算装置は両先頭車に搭載され、各車両にはセンサーとデータの転送装置が設置される。
力行・減速の指令、空調、案内表示などは全てこのINTEROSを介して行われる。また、GPSや乗車率、運行ダイヤの情報を元に、省エネに最適な力行・減速のタイミングを割り出し、運転士に指示することができる。
車両間の通信にEthernet、地上設備との通信にWiMAX、そのほかもIEC国際規格の「電気鉄道設備・列車内伝送系」に準拠するなど、汎用性の高い規格を採用することで、開発やメンテナンスが容易になり、かつ高性能化を図ることを可能にした。
線路設備・架線設備のモニタリング装置との連動に対応し、検測データを地上設備に送信することができる。
模型化
Nゲージでは早速大手二社によって模型化されている。
TOMIXでは初心者向けの3両セットシリーズやレールとセットにしたスターターセットでリリースし、各種増結セットと組み合わせた。それに加えて、限定品でオール新製の04編成を製品化したほか、月毎の後部表示も交換パーツによって(増結セットと限定品に付属)再現している。
ほぼ同時期にKATOでも製品化されたがこちらは03編成をモデルとして、ボディーマウント新型KATOカプラー(下にフックがないタイプ)標準装備、前面・側面行先表示印刷済となった。
ただし、こちらは月毎の後部表示はなく、交換用パーツとして「品川・東京方面」「池袋・上野方面」が付属。
最大の特徴の再現についてはTOMIXに一歩遅れるかたちとなった。