戦後の混乱の最中、首都復興の名目を隠れ蓑にして巨大な学術機関を極東に設立した。その名も学園都市。かつてイタリアはシチリア島にて散った夢の欠片を集め、徹底的にオブラートで包み込んで科学の形に擬態させた、テレマの僧院そのものである。
───────新約とある魔術の禁書目録21巻より
テレマ神秘主義と近代科学
現実の神秘思想(近代魔術)にアレイスター・クロウリーのセレマ神秘主義がある。実践的なセレマイト───セレマ思想の信徒───は、1904年に到来したというホルスの新時代の魔術───クロウリーはMagickと表記する───を実行したり、聖なる守護天使の知識と対話し、神人合一・すべての調和を果たすという。
セレマの「実践分野」はカバラやヘルメス、薔薇十字、神智学、錬金術、占星術などの多数の思想は勿論、統合された黄金の夜明け団の魔術体系をも下地にしており、〈大いなる業〉───ヘルメス主義や錬金術の作業───の名で称される。
本作の学園都市は形を変えたテレマ僧院。20世紀に実在したクロウリーがシチリアに創設し、「たった一つのアクシデント」が祟ってムッソリーニにより閉鎖に追い込まれた施設の思想を継いだ都市である。
概要
とある魔術の禁書目録とスピンオフ作品群における科学サイドの主な舞台。その正体は先述した通り「テレマ僧院」の形を変えた姿。
第二次世界大戦の終了後、魔術師アレイスター=クロウリーにより「復興」の名目を掲げて日本に創設された。この学術都市は東京都西部に位置する、多数の学術研究機関、先端技術企業の集合体である。
総人口は約230万人でその8割が学生。日本国の一部ではあるが、高度な「自治権」と日本及び世界各国の科学サイド諸勢力に強大な影響力を持つ。
特に「超能力」という科学分野の開発に力を注いでおり、思春期の少年少女を誘致し、かつてのテレマ僧院のように薬物や暗示をも利用して「叡智」への接近を目指す。
テレマ思想や学園都市に蔓延している問題点は当然ながら伏せられ、研究のためという名目のもと能力に憧れる多くの子供が全国から集められている。
命名の由来は日本各地に実在する学園都市。アニメにて描写されている街並みは東京都の立川駅前などがモデル。
なぜ今さらテレマ僧院を作ったのか
クロウリー曰く「上条当麻を誘致して活躍させる為だけに用意した箱庭」。
上条当麻の能力を存分に発揮させ、彼に宿る「何か」の成長を促す材料として悲劇が起こりやすくなっている。
「超能力」があるのも、警備・セキュリティに穴があるのも、治安が悪いのも、悲劇が蔓延っているのも、全ては上条をいかに活躍させるかが基準となって開発されたから。もし上条が将棋や料理、スポーツに特化していれば学園都市はまた違った形に生まれていたらしい。
クロウリーはこの第2のテレマ僧院を拠点にして「計画(プラン)」を進めている。
地理
東京都西部(多摩地域)を中心に埼玉県・神奈川県・山梨県に跨がるとされている。市域は合わせて東京都の3分の1程度。全域が内陸に存在し、海には接していない模様。周囲は強固な外壁で囲まれ、専用ゲートか空港経由でなければ侵入は困難。後述する都市外部への持ち出し厳禁の先端技術を、技術流出から厳重に警護している。
内部は23の学区に区分され、ほぼ平地からなっている。土地利用は主に教育施設と学生居住区域、工場、商業施設などで植物は公園ぐらいにしか見られない。例外的に第21学区は山岳地帯であるが標高は200m程度。
教育
学園都市と外の世界では科学技術のレベルが数十年は違うとも言われ、その他の学術、科学技術についても高等教育機関が林立する。中には繚乱家政女学校のように家政学・メイド養成を専門とする機関もある。
子供たちにとっては超能力者になれる!という夢のような街であるが、学園都市上層部にとっては子供を集めて能力開発の実験体にしているに過ぎない。
子供たちの出身地は多くが都市外部のため、学生寮暮らしが一般的。学生には奨学金が支給されるが、それを利用して入学後に親が蒸発してしまう「置き去り(チャイルドエラー)」の社会問題も多発している。孤児を保護する施設も存在するが、彼らに身寄りがないのを利用して非人道的な実験に用いる暗部組織についての噂も囁かれている。
能力開発の名門は中学では常盤台中学、高校では霧ヶ丘女学院。高校では長点上機学園も能力開発の名門だが、無能力者でも能力開発以外の教育課程で活躍できる模様。上条当麻らが在籍する「とある高校」は、むしろ平凡な高校であるようだ。
政治
学園都市を運営しているのは統括理事会で、12名の理事からなる。その上に理事長のアレイスター=クロウリーが君臨し、第7学区の窓のないビルから都市全体に指示している。
学園都市が独自に定めた法律はあくまでも条例とされ、日本国の法律が適用される。が、実際はほぼ独立国であり、独自の軍事力を有し独自に諸外国とも外交を行っている。また、世界各地に学園都市の協力機関が存在して、資源の調達を始めとして学園都市を支える役割に携わっている。
過酷な教育から脱落した(元)学生たちが街の各所でスキルアウトと言われる武装集団と化しており、裏通りの治安は悪い。各学校の教師たちからのボランティア志願者が組織する警備員(アンチスキル)が治安維持の中心で、主に学内では学生の能力者からなる風紀委員(ジャッジメント)がこれを補佐する。
風紀委員は警備員の補助が本来の仕事で、学外でも犯罪者退治に奔走しているこの人はやり過ぎの類で始末書の常連。
しかし、学園都市の規格外の科学力とその悪用の横行はこういった表の組織だけでは統制しきれず、学園都市の暗部には様々な暗部組織が存在する。暗部組織の多くは統括理事会の理事たちが各々の思惑によって援助(利用)している。
経済
外の世界での最先端にまで型落ちした技術とその製品を輸出するのが主な産業。外の世界では大変魅力的な商品となる為、学園都市の経済は豊かである。例えば学園都市の象徴である超能力者(レベルファイブ)にしても経済学的には希少な人的資本であり、その人体実験から得られたデータは多くの技術開発に貢献している。
産業は自動化が進み、工業における自動化工場ばかりか農業についても人工栽培、人工飼育の工場で自動生産されている。食料はほぼ自給でき、その他エネルギー等のインフラも学園都市内で自給する能力がある。学園都市の各所で回る風車にしても、風力発電に用いられて学園都市の主なエネルギー源となっている、らしい。
学園都市の日用品や食品は、先端技術の見本市のようなものであり、独特な製品が多い。例えば自販機には、いちごおでん、ヤシの実サイダー、熊のスープカレー等の不思議な飲料が販売されている。
設定の背景
以上のような学園都市の設定により、物語の主人公の行動の制約になりがちな「親」を違和感なく排除することに成功している。今作がきっかけというわけではないだろうが、2010年代のSF・ファンタジーライトノベルでは学園都市が描かれているものも多く、ライトノベルの一つのテンプレートとなっている。
実際には表面的な部分はカモフラージュに過ぎず、その深層には「セレマ」という近代魔術に分類される衝撃的な正体が隠されていたわけだが。