間黒男
はざまくろお
来歴
幼少時に不発弾の爆発事故に遭遇して母と死別。父は愛人を作って海外へと逃げた。そのため身寄りのない孤児として育つ。
上述の事故により全身がバラバラになるほどの重傷を負うが、恩師・本間丈太郎の神懸かり的な手術と強引なリハビリで回復。過去を語る事は少ないが、首だけ動けるようになった頃に手にスリッパを履き、這う所から始めると言う壮絶なリハビリを成し遂げ、最後の試練として東京~大阪間を徒歩で移動するという地獄のハイキングにより(なお、この修業は本間医師により書籍化された)歩けるようになり、その経験から外科医を目指した。
事故により学校から離れていた事、母との死別と父の裏切り、退院後も体中に残った多くの傷跡などが災いし、社会に復帰した後も他者から避けられる(時にいじめ迫害にまで発展した)ことが多く、退院後から現在まで基本的にぼっちな人生を歩んでいる。
それでも時には数少ないものの心許せる友人と出会う事もあった。だが、その友人とは様々な理由で離別する運命にもあったりする。
そんな経験ゆえか人間それ自体を忌避するような態度を多く垣間見せている。
本間医師の手術に救われた経験により事故後から本間医師と同じく医者を目指すことを志す一方で、中学・高校時代は母と自分を破滅に追いやった人間たちへの復讐の方にウェイトを占める事が多く、そのために隠し投擲武器としてダーツの腕を磨いた。
だが、それが原因となって唯一、心を許していた友を傷つけ大切なものを奪うという悲劇を引き起こしてしまい、その一件をきっかけに将来医者を目指すという志をより一層強めることとなった。
大学は地方三流私大(現代的に言えばFラン大)のポン骨大学(『ヤングブラック・ジャック』では「ポン骨」は通称で「本越大学」が本来の名前だとなっている。ちなみに、この大学だが手塚が取材したモデルとなった大学が存在する)の医学部に進学。ここでも、こじらせた「ぽっち体質」は相変わらず。
それでも大学の先輩・同期・後輩には「医者のボンボン」が多く、現在において何名かは自家を継いでおり、それゆえにブラック・ジャックに力を貸す者もいる。
なおインターン時代に遅い初恋を経験しているが、やはり、とある悲劇に見舞われて悲恋に終わっている。
大学卒業と共に医師国家試験に挑むが、様々な理由(後述)から免許を取れずに終わる。
後に免許を取れぬことに開き直り、あの岬の崖の上に自宅を兼ねた診療所を開設する。しかし、その最中、建築を請け負った大工の棟梁が広島原爆に起因する白血病を発症。その治療に挑むも力及ばず苦い敗北を味わう。
以降、試行錯誤を繰り返しながらも学生時代から鳴らした驚異の腕をもって、世界一の技術を持つ無免許医師として現在に至っている。
世界一の腕を持つと自負する一方で、自分に匹敵しうる技術の持ち主がいないことに孤独感を抱いており、自分と互角に渡り合えるほどの手術の腕前を持つ者を探し求めつつ、それが叶わぬと知った時には人知れず孤独をかみしめている。
外見
頭髪の半分が白髪、残りが黒髪という特異な容貌。これは、当初は髪の艶の表現であったが、のちに「爆発事故の恐怖で半分が白髪になった」と設定された。
幼少期の手術痕が体中を走っており、顔の皮膚は一部分だけ色素が濃い(原作では青だが、アニメ伴など多くの媒体では褐色のまま)。これは、手術の際、顔の皮膚が足りず、黒人ハーフの友人が皮膚を提供してくれたため。(実際には新陳代謝で本人の皮膚として定着するため、提供者の色が残り続けるということはない)
傷跡と顔の色で嫌が応にも目立つため、周囲からは再手術で痕を消すことを薦められているが、恩師と友人への感謝の印として、絶対に治そうとしない。指摘されるのも嫌がる。
傷を除いた「素顔」は一応設定上は美形なようで、患者や女医など、関わった女性から思いを寄せられることも多い。顔のパーツがほぼ一緒なジョナサンを治療して傷跡を全て消した際には「男前になったじゃないか」と皮肉を叩いている。
法外な医療費
「そうですね、ケースにもよるが500万から3000万…」(本人の発言)
患者に法外な報酬を請求することで知られるが、弱者からは最終的に一銭も取らないことが多々ある。ただし初めから請求しないことはまれで、受け取らなかったり後で返したりする場合が多い。
この法外な報酬は、本人曰く「技術に対する正当な対価」であり、患者が法外な請求を払ってでも生きる意欲を見せようとするかどうか、試しているということらしい。
(とある犯罪シンジゲートの調べによればざっと100億ドルは稼いだとかいう噂。
このブラック・ジャックの気分次第でころころ変わる報酬設定はそのまま彼の悪評に繋がっており、真面目な医者からはゴロツキ扱いされることも多々ある)
実際、ブラック・ジャックは生きることを簡単に投げ出そうとする相手に対してはほとんど厳しい態度で臨むことが多く、死ぬと分かっていてヘラついている患者に対し激怒することもあった。一方で、生きる意欲を投げ出さずに頑張ろうとする患者に対しては優しい。
また、父親に捨てられて母に早くに死なれ孤独な幼少期を過したため、母親への思慕を持ち続けている。そのこともあって、母親が病気になって苦労している人や、患者とその母親の間に何かしらの問題があったりする場合なども、影ながら真摯に面倒を見る話も多い。
そういった件もあってか、父に再婚相手の手術を依頼された際、医師としての矜持を保ちつつ医者ならではのやり方で復讐を果した。
腹違いの妹もいるが、彼女の去就は原作と派生作品で大きく異なる。
篤い友情等にも手術代を奢って報いる事があるが、これは少年期の頃、手術の痕を気味悪がって近寄らなかったクラスメイトが多く、あまつさえいじめにさえ晒されて人間の醜さを実感する中にあっても、少数だが親友と言える人物たちに恵まれた事が大きい。
その事もあってか、同窓会には元クラスメートたちに悪態を吐かれながらも、数少ない友人に会うために出席する場合が多い。
なお法外な医療費の使い道についてだが、大まかに言うと
- 「自由診療ゆえの薬や医療器具の代金」
- 「恩師や友人たちなど過去に恩を受けた人々への恩返し」
- 「自身と母をこの運命に追い落とした人間への復讐のための資金」
- 「大がかりな自然保護のための土地などの購入や管理費」
などが本編上で挙げられている。金には困っていないのだが彼自身は私生活を質素に済ませており、診療所も年季の入ったぼろ屋のままである。(これは棟梁の回復を待ち続ける、というゲン担ぎの意味合いも強い。台風で完全に倒壊してしまった回もあるが、その後も元に戻っているのを見る限りでは、棟梁の工事が中断した状態をそのままそっくり再現して保存している模様。)
身体能力
爆弾事故を引き起こした「5人の男たち」に復讐するために学生時代はダーツを猛特訓しており、その腕前を活かして常に黒いコートの中に隠し持ったメスを投擲することを得意としている。その技術は神業的で、首を吊った老人のロープだけを斬り落としたり、四方八方から飛びかかってくる人食い鮫を迎撃したり、相手の向けたライフル銃の銃口に突き刺したりするほど。
仕事柄悪人に襲われることも多いため、格闘技術もチンピラ程度なら簡単に圧倒するほど高く、一週間何も食わされていないズタボロの状態でも隙をついてゴロツキ二人を倒している。傷だらけの外見とは裏腹にタフネスであり、半殺し同然に打ちのめされても手術を行えるほどである。
医師として
無免許医であるために誤解されやすいが、彼自身の医療知識そのものは正規の医科教育をキチンと受けた上で身に着けている。原作では一貫して、地方私大である「ポン骨大学」の医学部の卒業生(派生作品では中退者だったり別の大学の卒業生だったりと一定していない場合がある)である。
免許を持っていない理由については、医局との軋轢であったり、とある病気を前にするとトラウマで手が震えてメスが持てなくなる体質のためであったり、あるいは復讐のためにあえて取らずにいたりと、時期によって様々。研修医として救急病棟で勤務していた時代もあり、どの時点でモグリ医者となったのかは不明である。
上記のように友情には篤いため、世話になった大学の同期や、その関係者、あるいは恩師らに対しては、なんだかんだと言いながらも世話を焼く事が多い。そのためポン骨大学の出身者からは悪態を吐かれながらも(自身も吐くことがあるのでお互い様ではあるが)いざという時には手助けをしてもらえる場合がある。
医師免許への執着が皆無というわけでもなく、世界医師会連盟から特例で免許を交付すると言われた時は、珍しく鼻歌を歌うほど浮かれており、それが諸事情でお流れになった時は気落ちしていた。
また、彼自身は本間丈太郎のような理想の医師像とかけ離れた自分に対し、少なからず後ろめたく思っている節があり、「金がもらえるなら悪人でも直すんだろう」と子供に言われた時はムキになって反論している。時に彼の持つ技術を信望して弟子入り志願にやってくる若手医師もいるが、その際にも「私みたいな医者にはなるな! 誰かに軽蔑されるような医者にだけはな!」と必死さのあふれた苦渋の表情で叫び、追い返した。
一方で、あるエピソードでは「私のような立場の医者も必要なんだ」と発言しており、自分の医者としてのあり方を恥じつつも、自分の様な立場の人間だからこそできることがあると自覚している。あえて憎まれ役を演じている節もあり、アウトローだからこそできるやり方で裏社会の住人にも救いを与えたり、悪党たちに制裁を加えることもある。
世間の評価はまちまちであり、天才的な外科技術に敬意を表されることもあれば、モグリのゴロツキとして軽蔑されることもある。やっていることは犯罪なのだが、規定の医療の枠組みに囚われない存在であるため超法規的存在としてその活動を黙認されている。いわばグレーゾーンの医師として認知されており、何度か警察沙汰になっても最終的にはおとがめ無しになっている。
一人の人間として
高い技術を持ちつつも医療行為の超法規的なスタンスゆえ医師としての評判は賛否両論ではあり、自身もそんな在り方を恥じている部分がある。
反面、弱者に対する思いやりや狭義心、恩義をかけてくれた人への義理固さ、そして権力を武器に弱者を踏みにじったり、人としての良心を持たない真正の悪党と言える人間には激しい怒りを見せる。
医者としてのふるまいは褒められたものではないものの、一人の人間としてはまっとうな性根の持ち主である。
嗜好など
好物はカレーライスとお茶漬け、ラーメン、寿司。仕事先には海外が多く、豪華な料理を食べることも多いので日本の(質素な)家庭の味が好きらしい。
「ボンカレーはどう作ってもうまいのだ」
タバコを嗜む描写も多く、たまにパイプで吸っていることもある。
これは作品発表当時、タバコの健康に対する害については軽視され、あまり注目されていなかったため。むしろ当時は、これを声高に叫ぶ事は「大げさ」と忌避し、タバコは「程度を守れる、できる大人のたしなみ」とする社会背景があった。
タバコの煙害が注目されだしたのは作者死後の1990年代後半で、それが本格的になったのは2000年代からである。そのため「医者なのにタバコ」という非難については、原作品で描かれる時代背景から言えば見当違いなので注意。
ただし、2000年代以降に作られた派生作品では、禁煙を是とする風潮に考慮して修正される場合が多い。
担当声優
手塚スターシステム
どこに出しても目立ちすぎるため大抵「単なる作者の遊び」的なモブとして登場することが多いものの、『ミッドナイト』においては本編と同一人物という設定で登場する。
また、『火の鳥 望郷編』では間ロミという女性が主人公(「間」は言わずもがな、「ロミ」はピノコのモデルになった少女と同じ名前)なのだが、彼女が故郷・地球へと帰還した最終章では暴走族のボス・フォックス役で登場し、余命いくばくもないロミを美しい湖畔に誘っている。
前述した通り手塚アニメでは度々登場しており、『鉄腕アトム』アニメ第2期では原作そのままの役回りで登場。「ブラックジャックの大作戦」なるサブタイトルであり、手塚本人が書いた突拍子もないシナリオになっている。