WRC
わーるどらりーちゃんぴおんしっぷ
概要
ラリーは公道を封鎖してタイムアタックを行って総合タイムを競う競技で、WRCはその最高峰である。国際自動車連盟(FIA)が主催し、世界各国でレースを開催する。
ラリーは公道で行うという性質上、車両はレース専用の車(いわゆるワンオフ)ではなく、市販車両を改造したものを用いる。
またドライバーだけでなく、道順を読み上げるナビゲーターの2名が車に乗り込む点も他の競技とは異なる。
ホンダしか勝ったことのないF1とは対照的に日本メーカーが数多くの成功を収めており、トヨタ、スバル、三菱が年間チャンピオンを獲得しているほか、日産とマツダもイベントでの総合優勝、スズキは下位クラス(ジュニアWRC)チャンピオンの記録を持っている。ただし日本での開催は2019年末現在までで僅か6回と少ないため、人気ではF1に譲る。
2020年現在はトヨタが参戦している。
公道バトル系の漫画・アニメではWRCは強いドライバーやマシンの代名詞で、特にランエボ・インプがその代表選手として猛威を振るうのがお決まりのパターンである。
競技
競技は通常金曜日から日曜日までの3日間で行われるが、レース前の事前の準備期間が存在する。 水曜日にはレッキと呼ばれる「下見走行」(一般車両でコースを走り、ペースを確認する)を行い、その夕方から木曜日にかけてシェイクダウン(車両の最終チェック、
専用のコースを競技車両を走らせる)を行う。テスト後車検を受け、規定外のパーツの装着がないか確認が取れると、競技車両はパルクフェルメと呼ばれる車両保管所(ここに保管されている車両は誰も触ることは出来ない)に置かれる。
レース中の一日を細かく分けるとスペシャルステージ(SS)とタイムコントロール(TC)、そしてリエゾン(ロードセクション)に分けられ、SS区間でのタイム合計が一番速かったチームが勝者となる。
競技は一斉にスタートするサーキットレースとは異なり、アイテナリーと呼ばれるタイムスケジュール表に沿って進められ、各チームのスタート間隔は2分置きである。
まず最初はロードセクションから開始する。この競技は閉鎖されていない一般公道なので、現地の交通法規に則り一般車両に混じって走行する。この競技は、主催者から示されるコマ図に従って走行するという、ラリー競技当初の姿が現在も残っている。 ここまでは閉鎖されていない公道で行われるため、事故やドライバー達のミスのため、ガス欠や法律上走れなくなって棄権したり、ナビゲーターがハンドルを握るという事態も発生する。
TCに入る時間は各々指定され、交通渋滞などで遅くなった、もしくは早く着いてしまったなどのロードセクションで生じた誤差を正すのが目的で、遅くても早くてもペナルティ(SSでのタイム加算)が発生する。
SSのスタート地点はTC内に設置されており、この区画は一般公道を閉鎖して作られたタイムトライアル区間であり、この競技の華となる区域である。
この区間内は速ければ速いほど良く、各ドライバーは持てる力の全てを出し切って挑む。
1つのSSの距離はSSによりばらつきがあるが、SS数は各イベントでおよそ20前後で、イベント毎のSS区間の合計距離は400km程度となる。
ただし、ロードセクションなどの距離はこれ以上あるため、全ての競技の総走行距離はこの限りではない。
たまに一般公道を閉鎖して使用するSSとは異なり、人工的に作られたサーキットコースのような特設会場で行われるスーパースペシャルステージ(スーパーSS、SSS)も存在する。
各DAYの最後のSSが終了したら再びTCに入り、ロードセクションを通過してサービスパークと呼ばれる本部に戻る。サービスパークでは競技中の整備や給油等が許可されるものの、作業の制限時間があり、時間を超過した時や、SSを欠場してマシンの修復を行う場合などもペナルティとしてタイムが加算される(以前はレース中だとどこでも車両は修理可能であった)。
一日の競技が終わった車両は再びパルクフェルメに保管され、次のDAYの競技開始を待つ。
競技が行われる環境
競技開催地ごとに使用される道路の環境は千差万別であり、舗装路、未舗装路、積雪路、凍結路等ヨーロッパを中心としたあらゆる路面状況で競技が行われる。
それぞれの環境や路面にあった仕様にマシンが改造される点も見所の1つである。
競技の主な特徴
市販車両をベースとしているため競技車両の外装はともかくとして、中身はほぼ別物となっている。車両はスポンサーの広告などで派手になってはいるが、外観はベースモデルと大差はない。
また、多くの自動車競技が1人乗りなのに対し、WRCはドライバーとドライバーをサポートするコ・ドライバーの2人乗りを原則としている。
コ・ドライバーが読み上げるペースノートの指示に従って走行するのがWRCの特徴だが、コ・ドライバーがペースノートの内容を誤って読み上げたり、ペースノート自体が間違っていると走行にミスが生じる事もある。
また、夜間のナイトラリーの際にフロントライトの故障により無灯火状態に、雪がフロントガラスに被さる等のアクシデントにより無視界状態となっても棄権せずペースノートのみを頼りにそのまま走行を続けることもある事から、F1等の他の競技のドライバーからは敬意をこめて「クレイジーだ」と言われている。
このレースにプライベートで出場するには比較的簡単に取得できる競技ライセンス=国際C級レース除外を取得して規定に合致した車両を用意し、抽選に通れば実際にプライベーターとして出場することもできる上、上位入賞も可能である。
ちなみに、コドライバーも(トラブルでドライバーが運転できなくなる場合ハンドルを握る必要があるため)ドライバーと同等の競技ライセンスが必要である。
観客
サーキットで行われる競技とは異なり、観戦者はコースを間近で見る事ができ、熱心なファンは足繁く絶好の観戦ポイントに出向くことが可能であるが、車両がコースオフし客席に飛び込む恐れもあるために観戦には危険も伴う。
観客達が大きくコースオフした車両をコースに戻したりすることも多々あるが、本来ドライバー、コ・ドライバー以外の人間が競技車両に触れることはルール違反なため、ドライバーはペナルティを受けてしまうことが多い。また、逆に悪質な観客が競技の妨害を行うこともあり、たとえば雪道のラリーでは観客が嫌いなチームの競技車両に雪などを投げつける事もある。更に広大なステージでは観客がプロに代わって「カメラマン」として活躍することさえある。
イベント概要
各国を転戦するWRCだが、各々の国で行われる競技を「イベント」と呼ぶ。1990年代中頃まで、年間の開催イベント数は8~10戦程度で、イベント数の増加を望むFIAの意向によりイベントの簡素化が進められ、それに対応するようにイベントの数が増やされてきた。
2004年シーズンからは全16戦となっているが、他のモータースポーツよりもオフが少ないと参加者側から問題提起され、2009年シーズンより、年間12戦のローテーション制を取る事となり、2009年、2010年の2年間で合計24のイベントが開催される事となった。これにより、2009年はとうとう伝統のモンテカルロからの開催とならず、またラリージャパンも2010年に回っている。
なお、映画の題材となるなど、日本でよく知られているケニアのサファリラリーはその改革の犠牲となり、2002年の開催を最後にWRCからは外されていたが、2020年に復活することが内定している(が、その代わりにフランスのツール・ド・コルスが外されてしまった)。
2018年現在は年間13戦で毎年モンテカルロが開幕戦になるように戻されている。
クラス
2012年までは使用する車両によってWRC、PWRC、SWRC、JWRCに分かれていたが、エントラントの減少や車両規定の細分化から、2013年にクラス再編が行われた。JWRC以外のサポートカテゴリーは全てのWRCイベントへの参加が可能になっている。
WRC
WRCの頂点に位置するクラス。使用車両であるWRカーはベース車両からの大幅な改造が認められている。エンジンにはグループB時代のハイパワー競争とそれに伴う悲劇を教訓とし、吸入口径制限により最大出力は抑えられているものの、最大トルクでは技術の進歩によりグループB時代を遥かに超えている。また、先にF1で採用されたパドルシフトも現在のWRカーでは標準的な装備となっている。
1997年までは市販車に近いグループA・クラス8規定が適用されたが、戦闘力の高い4WDの市販車を量産することはメーカーにとって負担が大きかったため、1998年から大衆車を魔改造できる『WRカー』規定に移行した。
WRカー規定は一時多数のメーカーを集めたもののコストの増大を招いたため、2011年に下位クラスの『スーパー2000』規定を基にコストを抑え、1,600ccターボを採用する『S2000+』へと移行。これも一時はメーカー数を増やすことに成功するものの、地味だったためファンからの人気低下が懸念された。そこで2017年からは派手なウィングを装着し、馬力も30上げて「現代のグループB」と形容されるような迫力あるマシンとなっている。
WRC2
WRCの直下カテゴリ。かつてはグループR5/R4、スーパー2000,グループNなどWRカー未満の戦闘力の四輪駆動車を用いたが、現在は戦闘力に優れるラリー2(旧称グループR5)のみで争われている。
シュコダ、フォード、シトロエン、ヒュンダイなどがワークス参戦して育成プログラムを展開。また近年はトヨタ育成の勝田貴元、新井大輝もスポット参戦している。
2019年はワークスチームは『WRC2プロ』というクラスに分けられていたが、2020年からは逆にWRC2プロがWRC2を、プライベーター向けのWRC2はWRC3を名乗るというややこしいことになっている。
WRC3
前項目の通り、ラリー2車両のプライベーター部門。しかし明らかにセミワークスと思われるチームも普通に参加している。そのためチーム部門がないのが、WRC2との最大の違いと言える。
元々はJWRCに代わるWRCの二輪駆動部門の名称で、グループR1〜R3車両が参戦可能であった。フォード、シトロエン、プジョー、ルノーの他、稀にTMGの開発したトヨタ・86のR3マシンも走っていたが人気・プロモーションともに貧弱で、2018年を最後に一旦消滅していた。
JWRC
WRCの育成カテゴリ。28歳以上のドライバーは出場できない。FIAが指定する、グループRの前輪駆動車1車種のみが参戦できる。
かつては『スーパー1600』が人気を博して多くのメーカーが参入したが、その後競争の激化やプライベーターの減少により、育成カテゴリとしての本来の在り方を失った。そのため2011年シーズンよりタイヤ・マシンがワンメイク化された。なおJWRCのワンメイク車両は旧WRC3の規則にも合致していたので、両クラスに同時エントリーが可能であった。
使用車両の歴史と変遷
この項目では使用された車両の形式に関して解説する。
WRC草創期からグループB時代(1973年 - 1986年)
1973年のWRC創設から1980年代初頭までは、グループ2やグループ4といった規定で競技が行われていた。 各メーカーは、市販車を強化した特別仕様車を販売し、その車両をベースに競技用車両を開発していた。グループ4の当時の生産義務が「連続する24ヶ月間に400台」と少ないことを利用し、ランチアがラリーのためだけに開発したスペシャルモデル、ランチア・ストラトスは例外的存在である。
当時のラリーカーはほとんどが二輪駆動であったが、1981年、フルタイム4WDとターボエンジンを採用したアウディ・クワトロが登場してラリーを席巻し、その後のラリーカーの方向性を決定づけた。
その後、それまでのグループ1 - 8規定を廃止し、1983年シーズンから新規定に移行することが発表される。1982年は新旧両規定に基づいた車両が使える移行期間であった。
グループ1~8と複雑になっていた規定がグループN、A、B、C、D、E、F、Tに簡素化され、このうちラリーの世界選手権はグループBにかけられることとなった。
グループBは、連続した12ヶ月間に20台の競技用車両を含む200台を生産すればよいというもので、名目上は「より幅広いメーカーの参戦をうながす」ものだったが、実際はより高性能なラリー専用車の製作が可能となった。
グループB規定によりラリーカーのスピードは劇的に向上したが、安全面やドライバーの技術がその進化に追いつかず、多くの事故と犠牲者を生み出すこととなった。
また、これを上回るグループSの仕様を認めようとしたが、グループBの時点で死亡事故が多発したためなかったことになり、結局グループAのカテゴリで開催することになった。
ただし、グループB車両の全てが出場できなくなったわけではなく、300馬力以下のB車両は1987年以降も出走は可能だった。実際、小排気量のグループB車両はポイント対象外ながら、ホモロゲーションの切れる1990年代までプライベートチームが走らせる姿を見ることができた。
グループA時代(1987年 - 2001年)
1987年に世界選手権はグループA規定に移行し、ベース車両は継続した12ヶ月間に5,000台(1993年から2,500台)以上の生産を義務づけられたほか、さまざまな改造規制が加えられ、ラリー車は市販車に近いものとなった。しかしハンドリングの向上とタイヤの性能が進化したことによりマシンの能力は落ちるどころか、年をおうごとに上がっていき、3年後にはグループBのマシンを凌駕する速さを身につけることとなる。
ラリーで勝利するためにはフルタイム4WDと2,000ccのターボエンジンはもはや必須の装備であったが、そのような高性能なスポーツ車両を生産し販売できるメーカーは少なく、参戦メーカー数は非常に少なくなった。 ランチアはいち早く小型車デルタをベースにラリー車を製作してグループAに対応し、グループA時代を牽引していくことになる。
しかし、そのランチアに対し真っ向から勝負を挑んだのが日本車勢である。日本の自動車市場は4WDスポーツ車が順調に売れる世界的に見て珍しい市場であり、日本車メーカーはこぞって高性能な4WDスポーツ車を販売し、1990年代中盤には、それまでWRCの中心を担ってきたヨーロッパの自動車メーカーに代わり、トヨタをはじめ、スバル、三菱、日産、マツダといったメーカーがWRCを席巻した。
WRカー時代(1997年 - 2010年)
グループAの特例として1997年シーズンから導入されたWRカーは、継続した12ヶ月間に25,000台以上生産された車種の「ファミリー」をベースに、ワイドボディ化、4WDへの改造、リアサスペンション形状の変更、同一メーカー車に搭載されているエンジンへの換装やターボの付加など、大幅な改造を認められたものである。
このWRカー規定により、グループAの生産台数規定に参戦を妨げられていたヨーロッパの自動車メーカーが相次いでWRCに参戦し、メーカー数が増加してラリーは一時的に活況を呈することとなる。
しかしながら、世界的不況の影響による自動車会社の経営不振、度重なる仕様変更、WRカーの開発費用および車両価格の高騰、またレース自体のイベント数の増加による負担増などの諸要因により徐々に撤退するメーカーが増え、2009年の時点でメーカー単位で正式に参戦しているのはシトロエンとフォードの2社のみとなってしまった。
S2000 WRC時代(2011年 - )
グループA車両をベースにしたWRカーは高コストであるため、新規ワークスの参入はほぼ絶望的であると言える。そのため、WTCCにて既に導入されているスーパー2000(S2000)規定を導入しようという考えがある。これは2,000ccのNAエンジンのみで、ボディ補強など最低限の改造のみで競技車両を製作するという規定でPWRC規定の車両と近い。2007年現在、PWRCにおいてはこのS2000規定の車両の出場も認められている。また、インターコンチネンタル・ラリー・チャレンジ(IRC)においてもS2000規定の車両が活躍している。
その後、2010年からは新規格のWRカーの導入が検討された。これは名称こそ「WRカー」という名称が引き継がれるが、2008年12月のFIAが発表した内容では、S2000をベースにボルトオンキットで簡単にWRカーにできるようにする、というものだった。これにより、競技車両のコストダウンを図り、またすでに多く出回っているS2000車両をほぼそのままWRカーとしてエントリーさせることができる、というのがFIAの狙いである。ところが、S2000車両を持たないスバル、三菱にとってはFIAに見捨てられた形となる。グループN車両とS2000車両とではマシンそのものの性能が異なるため、仮にグループN車両で参戦できたとしても、S2000プラス規定の車両に対する競争力は目に見えて劣る。特に2008年まで参戦していたスバルはベースモデルとなり得る車両をラインナップに持たないため、2010年以降の参戦は非現実的であった。スバルのWRC撤退はこのFIAの決定を見て行われた、という見解すらある。
しかし、その後FIAの中でも意見が二転三転し、S2000プラスはなかったことにして、2011年以降はS2000自体をメインカテゴリーにするという話が浮上した。これによると、WRカーに替わるS2000はエンジンの回転数を8,500rpmに、純粋なS2000は8,000rpmに制限する2種類のS2000が存在する事になると言うものであった。
このように迷走しっぱなしなFIAに対し、新規定が早く確定しないと時間上の問題で開発が出来なくなるWRカーでワークス参戦していたシトロエンとフォードからは不満の声があがっていた。
最終的には、WTCCなど他のカテゴリーと共通の規定の元に製作される1.6L 直噴 ターボエンジンをS2000車両に搭載したS2000 WRCに変更することを決定した。
2017年には規制が緩和され、グループB時代を彷彿とさせるような派手な外観のWRカーが見られるようになった。
テレビ放送
ヨーロッパ圏内において絶大な人気を誇るこのカーレースはテレビ放送も盛んに行われている。また、FIAとしてもテレビ放送から得られる収入は無視できないものとなり、スーパーSSなどテレビ放送向けにイベントを組んでいる。
ラジオ放送(競馬じゃないんだから)も行われており、日本でもインターネット経由で聞くことが出来る。日本においては2009年にはJ SPORTS(CS放送局)が全クラス完全放送を行っており、いくつかのラウンドでスーパーSSのライブ中継を放送している。
また、BS放送局であるBS日テレでもダイジェストで放送していたが、スバルのWRC撤
退によるスポンサー撤退により2008年12月25日で放送を終了。しかし2019年4月から放送を再開している。
地上波ではテレビ東京系列でダイジェスト放送が行われたことがあるが、2006年のラリージャパンに関しては、テレビ東京系列局がない地域の日本テレビ系列局(ほか)でも放送された。
その他のテレビ局に関しては日本におけるこのスポーツの人気上報道は消極的であり、それは日本で開催されたラリージャパンも例外でなく、2004年の初開催以降、ラリージャパン開催時期でも地上波テレビ局ではニュース番組でも殆ど触れられることはなく、過去にWRCの放送経験があるテレビ東京系列の他は日本テレビ系列やNHKで多少触れられた程度である。
その後トヨタが再参戦を果たした2017年と、その翌年の2018年には、テレビ朝日と名古屋テレビで、「地球の走り方 世界ラリー応援宣言」という紹介番組が放送されていた。なお、件の番組はTVerを通じて関東地方と東海3県以外の地域でも視聴することが出来た。さらにはラリーをテーマとした映画「OVERDRIVE」に絡んだ、この番組の番外編的番組が、2018年5月下旬から6月上旬にかけて逐次テレビ朝系列(24)局ばかりかTBS系列局約3局、日本テレビ系列局約2局、フジテレビ系列局約3局でも放送されている。