「 地底のビジョンは地獄の物なのか
――感度の上がったメリーのアンテナが、日本の真実を想像する。 」
(「伊弉諾物質」CDパッケージ付属帯より)
概要
同人サークル「上海アリス幻樂団」による「 音樂CD 」のシリーズ作品である「ZUN's Music Collection」の第七弾作品。
正式名称は
ZUN's Music Collection Vol.7
「伊弉諾物質(いざなぎぶっしつ) ~ Neo-traditionalism of Japan.」
となっている。
2012年8月11日(土) コミックマーケット82 二日目
東シー28a「上海アリス幻樂団」で頒布された。
同年9月8日(土)より各同人ショップにて委託販売開始予定。
pixivでは多くの場合、このCDに収録されている音楽やブックレットの内容の
イメージイラストや漫画にこのタグが付けられる。
「ZUN's Music Collection」
「ZUN's Music Collection」は上海アリス幻樂団主宰のZUN作曲による音楽を収録したものであり、同じく上海アリス幻樂団作品である「東方Project」の各作品(ゲーム・書籍付属CD等)で使用された楽曲またはそのアレンジ(セルフアレンジ)と、各CDのために新たにつくられた楽曲の二種類からなる。
さらに「ZUN's Music Collection」では同梱のシートまたはブックレットにて、それぞれの楽曲の項目に並んでZUNによる独自のストーリーが語られている。
本作はストーリーが前作「鳥船遺跡」からほぼ直結しており、「衛星トリフネ」でのとある出来事のためにマエリベリー・ハーンが「 信州のサナトリウム 」で「 療養という名の隔離治療 」を求められていたというエピソードから始まる。
そして退院の際に迎えに来た宇佐見蓮子とともに、そのまま「 信州観光 」を行うことにする。作中では善光寺が登場し、その歴史の一部もエピソードに絡められている。
メリーは療養中に「 地底奥深くの不思議な世界 」を体験し、その恐ろしい世界から石片を持ちかえってきた。石片はメリーに様々なイメージを与え、作中ではそれから得られるインスピレーションがメリーを動かしていく。
一方の蓮子もまたそんなメリーが問いかけることに応じて一緒に謎に挑もうとするも、「 メリーの能力の高まり 」に、複雑な心境を抱くのであった。
本作ではメリーの様々な感情の動きや蓮子の心配や寂しさなどが二人の言葉やあるいは言葉にはしないそれぞれの心の内の両側面から語られるなど、二人の心の揺れ動きが特に描かれている。
しかし一方で共に隠された世界の不思議へと臨もうと思考錯誤したり発見やアイデアに喜びあったりする二人の姿も描かれるなど、生き生きとした蓮子とメリーの様子もまた語られるものとなっている。
「 私には見えるもん。
2500万年前に伊弉諾が創った日本の姿が 」(メリー、「伊弉諾物質」、アンノウンX)
なお本作タイトルでもある「伊弉諾物質」は、作中では「 イザナギオブジェクト 」と呼称され、相当するマテリアルが登場する。そしてこれらのマテリアル等を通して、メリーと蓮子の二人の物語が更に加速していくのである。
葡萄と筍と桃
本作ブックレット表紙には、葡萄、筍、桃の三つが描かれている。
これらは「日本神話」のイザナギによる黄泉降りと黄泉からの逃走において、イザナミの追手をかわすためにイザナギが用いたアイテムである。葡萄、筍はイザナミ配下のヨモツシコメからの逃走時、桃は死後のイザナミの身体に発生した八つの雷神を払うために使用された。このときのイザナギとイザナミに関連したエピソードなどの詳細は「黄泉比良坂」、「緑のサナトリウム」も参照。
メリーはサナトリウムで療養中に見た光景の一つについて、地獄とともに「黄泉比良坂」も連想している。
収録曲
No | 楽曲名 | 出展 |
---|---|---|
1 | 緑のサナトリウム | オリジナル |
2 | 牛に引かれて善光寺参り | オリジナル |
3 | ハートフェルトファンシー | 東方地霊殿 |
4 | 六十年目の東方裁判 ~ Fate of Sixty Years | 東方花映塚 |
5 | アガルタの風 | オリジナル |
6 | イザナギオブジェクト | オリジナル |
7 | 妖怪裏参道 | 東方神霊廟 |
8 | アンノウンX ~ Unfound Adventure | 東方非想天則 |
9 | 日本中の不思議を集めて | オリジナル |
10 | 素敵な墓場で暮しましょ | 東方神霊廟 |
蓮子とメリーのデザイン
本作では蓮子・メリーともに全体的に薄着・涼しげな装いとなっている。
本作に特徴的なものとして、蓮子とメリーの間に二人を分けるように長い曲線が描かれている事が挙げられる。線は本作では金色の太いものと白色の細いものが絡み合うようなデザイン。
本作では向かって曲線の手前に描かれているのがメリー、曲線の奥に描かれているのが蓮子である。
これまでの作品では二人の間に「夢違科学世紀」などでテーブルを挟むような、あるいは「卯酉東海道」で向かい合う席の都合で発生するような自然な空間が空く事はあっても、不可解な距離感が描かれることは無かった。
例えば「蓮台野夜行」、「大空魔術」では二人は非常に近い位置にいる。
一方が完全に両眼を閉じているデザインも本作が初である。
その一部がメリーの足に絡むような曲線に隔てられた両者の様子は、ファンなどの間でも様々な想像を呼び起こす要素ともなっている。
宇佐見蓮子
茶色の風合いのある髪は頬ほどまでで、本作以前のデザインよりも短めな髪の長さとなっている。
本作では帽子はかぶらず口元付近に寄せた右手でその鍔を下方向に向けてつまんで持っている様子となっている。
さらに風が斜め前方向からそよいでいるようで、髪が後ろ方向に流れている。瞳の色は濃い茶色と黒色。
なお、蓮子が帽子を脱いでいる様子が描かれているのは、イベント限定配布作品である「未知の花 魅知の旅」を除くと本作のみである(ただし、本作が最新作の現在時点)。
衣装は白色の半袖ブラウスと黒のスカート。ブラウスの襟元、袖口、裾にそれぞれ黒色、スカートの裾に白色の波縫い状のデザインがそれぞれみられる。
上着の模様が黒色で表現されるのは本作が初(以前の作品では主に赤系統の色による波縫い状のデザイン)。スカートは髪と同様に風を受けて後方にたなびいている。
足元の黒色の靴と折りたたんだソックスの様子はこれまの作品で見られた衣装と類似している。
先述のように帽子をつまんだ右手を口元に、左手は腰にまわすようにし、両足をクロスさせて佇んでいる。
その表情から具体的な感情を読み取ることは難しいが、一方のメリーが満面の笑みであることから、非常に対比的なものとなっている。また、初登場以降何らかの形で必ず所持していた本が、本作ではみられない。
立ち位置は向かって右手側(メリーの背後と思しき位置。曲線の後方)。
マエリベリー・ハーン
短めの髪の蓮子とは対照的に、金色のウェーブかかったその髪は少し長めである。
サナトリウム入院時の不自由も影響しているのだろうか。
前作「鳥船遺跡」同様、フリルのついた帽子をかぶっている。
服装は薄い青、水色のブラウスと紫色のスカートのツーピース。上着には柄が入っている。
また襟元、ブラウス裾、スカート裾に線状のデザインが入っている。ブラウス側の線模様は濃い青で、スカート側の線模様は白色。このデザインはこれまでの衣装に襟や裾などに入っていた赤色の線模様と類似したものである。
さらにブラウス袖口、スカートの裾口には絞りが入っている。スカートは腿付近をゆるやかな頂点としたふくらみがある。
足元には黒い靴と膝下付近まで伸ばしたソックスをはいている。
ソックスは口部分に紫系統または青系統のストライプ柄が入っている。
両眼を閉じて微笑みを浮かべ、足を少し開いて腕組みをした自信たっぷりな様子は、しかし先述のようにその後ろに佇む蓮子と対照的である。
左足にゆったりと触れる金と白の二本線は曲線を描きながらメリーの背後を通り蓮子の正面を弧を描きながら通過し、メリーの頭上で渦を巻くように留まる。
本作のデザインはこれまでのシリーズと様々な点で異なっているが、それ以外の特筆的な点として、先述のように蓮子はほぼ正面方向から風を受けている様子が描かれているが、メリーにはその様子が無い。髪の流れ方が逆方向、または無風状態(自然な髪の流れと見る場合)のものとなっているのである。
両者の間に空間があるとはいえ物理的には遠くないところに位置しているにもかかわらず、この対比は特徴的である。
これまでの作品では二人は同じような風の流れや目線の交錯、接触など自然な空間環境を共有していたが、本作では両者がそこにいる環境さえも、ともすれば共有してないと見る事も出来る演出となっている。
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宇佐見蓮子(蓮子) マエリベリー・ハーン(メリー)
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