海上保安庁
かいじょうほあんちょう
略称は海保、JCG(Japan Coast Guard)。2000年まではMSA(Maritime Safety Agency of Japan)の略称を使っていた。
主な任務は海上警備、海難救助・消防、海洋情報の調査・測量、海上交通の管理、密輸や密出入国の取り締まりなど。
司法警察権を持つ海の警察であり、消防でもある。国境警備隊の機能を兼ねる。
海上自衛隊ほどの装備ではないが、かなりの武装をしている。1948年創設以来、日々日本の最前線で戦っている。
なお、ハーグ条約を中心に、国際法上では警察と国軍は一応区別されている。警察は軍隊と異なり民間人である為、戦争中も攻撃対象から外される権利を有する。その代わり民間人であるので、敵兵を合法的に殺傷する交戦者の資格を持たない。後述するような準軍事組織であっても、軍隊に編入した事を敵国に通知しないで交戦者として振舞うと国際法上の疑念が生じることになる。要するに、海保の武器使用はあくまでも警察官として許される武器使用に限定されているということになる。
海上自衛隊との違い
海上自衛隊とのわかりやすい違いでは平時では海保が、有事では海自が出動する。他国の軍艦が来たならば海自が、海賊や不審船が出現すれば海保が相手にし、海保の手に余る場合は海自に出動要請をする。
なお、自衛隊には警察権は無く(警務隊は司法警察官であるが隊内の犯罪に対してしか行使できない)、「海上警備行動」の際には内閣総理大臣の承認により一時的に「行政警察権」を得ることが出来るが強制力を持たない任意の確認のみ可能な程度となっている。(ただし出動中の部隊に同乗した海上保安官が司法警察権を行使すれば海保同様の行動が可能となる)
海上保安庁は警察組織である為に司法警察権を持ち、強制力のある捜査・逮捕・逃亡防止の為の武器使用を行うことが出来る。
しかし、
- 日本には海賊を取り締まる法律がない(刑法により強盗や殺人として扱われる)。
- 警察官職務執行法に縛られる為に警告や威嚇・正当防衛・自衛の範囲でしか武器の使用が出来ない。
- 刑法の適用範囲の関係で法が適用できる船が限られて外国船を救助することが出来ない。
といった問題があったが、法律解釈や新法案により問題を回避している。
しかし、ソマリア沖等への海外派遣に関しては下記のような問題があり、海保は適さない為に海自が派遣される事になる。
- 船舶の海上補給・給油能力が無い為に長時間海域にとどまることができない。
- 海外派遣に適した船の数が少ない為に派遣してしまうと通常の任務で船が足りなくなる。
- 警察組織の為に他国の海軍と共同作戦や情報の共有が行えない(海自と海保の間には協定がある為、情報の共有は出来る)。
- そもそも軍と協働することを想定していない組織である。
ただし、軍艦である海自の船と比べて火力や連射速度が低い為に対海賊に適しているという利点がある。
(武装漁船程度の海賊船相手では76mm等の単装速射砲や20mmのCIWSでは過剰火力であり、海賊船を粉砕してしまう)
威嚇射撃しかできず軍事的に無力だと評価されることもあるが、九州南西海域工作船事件では、巡視船「あまみ」「いなさ」が北朝鮮の不審船からの銃撃に対する正当防衛射撃に踏み切り、銃撃戦の末に不審船を自爆に追い込んでいる。
国際法においては、沿岸警備隊や国境警備隊のような準軍事組織は、事前に敵対勢力に通知すれば軍隊に編入して軍事力として活動させることが許されている。しかし、海保は、海上保安庁法上はいかなる戦争行為にも加担しないと明記されているので、法律的に軍隊として活動できない仕組みになっている。
海上保安庁のシンボルであるコンパスマークは元々商船学校の校章であり、東京海洋大学の前身の一つである東京商船大学にも引き継がれた。現在でも商船高等専門学校や航海訓練所も使用されている。
旧海軍との関係
海上保安庁の担当する業務の多くは、かつて海軍の担当するものであった。戦後処理のため旧軍を改組した省庁である復員庁が廃止される際、掃海業務はじめとする実務や、資料整理部による海軍再建研究を海上保安庁が引き継いだ。その後これらの業務は海上保安庁の下部組織として発足した海上警備隊に引き継がれ、海上警備隊は保安庁(現防衛省)に移管される形で独立、海上自衛隊となった。
よって、組織としての脈絡を一度完全に断たれた海上自衛隊に対し、旧軍の後身たる復員庁より人員と任務を直接受け継いだ海上保安庁こそ、大日本帝国海軍の伝統を受け継ぐ直系の組織であるといわれることもある。
海上保安庁、海上警備隊の両組織とも旧海軍出身者を中心として組織されていたが、海上警備隊は海軍兵学校出身者が大多数を占めていたのに対し、海上保安庁は高等商船学校(現東京海洋大学海洋工学部および神戸大学海事科学部)出身者で占められていた。旧海軍において両校出身者の不仲は慢性的なものであったが、太平洋戦争において両者の溝は決定的なものとなる。
高等商船学校出身者は予備士官として沿海警備や船団護衛などの任務に就いていたが、決戦兵力を優先していた旧海軍においてこれらの任務は比較的軽視されており、結果として高等商船出身者の戦死率は海軍兵学校出身者のそれを大きく上回ることとなった。これにより高等商船学校出身者の中に「日の丸の下では喜んで死ぬが、海軍旗の下では死にたくない」と、海軍や海軍兵学校出身者に対する大きな怨嗟が残されていた。
上記理由から海上保安庁と保安庁警備隊を前身とする海上自衛隊の関係は余り宜しいとは言えぬ状態が長く続いた。戦後の1952年、警備隊(海上自衛隊の前身)の海上警備隊移管の際、海上保安庁も「海上公安局」として保安庁移管となる予定であったが、海上保安庁側の猛反発により、喧嘩別れする形で運輸省(現国土交通省)の管轄下に残ることとなった。
海上公安局は、海上保安庁の後継組織として実際に海上公安局法まで制定されたのにもかかわらず発足にまで至らなかった幻の国家機関である。組織としては、保安庁の内部部局として保安隊や警備隊と並ぶ防衛組織となる予定であった。
海上保安庁の最大の誤算
海上保安庁の最大の誤算は上記の理由により、設立当初より旧海軍の関係者を敵視していたことであった。海保は朝鮮戦争の際、GHQ指令で特別掃海隊を派遣していたが、その内の一隊が損害の発生と現地司令部の不手際が重なった末に帰国を判断。掃海隊指揮官の命令の体を取ってはいたものの、国連軍の指令には従わなかった形で日本へ戻ってきたのだ。
この行為はGHQ関係者を激怒させ、時の総理である吉田茂を叱責。吉田自身も恥をかかされた格好となったため、正式な海軍の必要性を認識。皮肉な事に、彼らの判断が戦後には彼らは戦争のプロとして負けたのだから、大人しく郷里で芋でも作ってればいいと旧内務の関係者が物笑いの種にしていたはずの日本軍の生き残りらの復権の道を開いた形になったのである。
その後、海上自衛隊の前身である警備隊の設立を決める会議では、海保は大日本帝国海軍の元高級将校らが委員会の大半を占めることに反発し、旧海軍将校らを敵視し、会議の度に元将校らを牽制した。だが、アメリカ海軍からすれば単なる派閥抗争でしかなかった。海防の素人が口を挟むな。我々はジャパニーズ・インペリアル・ネイビーと話しているのだ!!と言わんばかりに、海保は相手にされなかったという。頼みの綱だった吉田茂総理も海防の専門家同士のほうが話が進むんだよねと海保の意見を聞かなかった。(そもそも、この会議そのものが大日本帝国海軍の元将官と佐官級の将校らを事前に抱え込んでの吉田茂総理公認の日本海軍の復興という内閣の方針の公式決定をする場を兼ねていたため、当時の実働海上組織であったはずの海保の意見は通るはずがなかった。)その結果、海保は会議で添えもの扱いされ通しとなったばかりか、旧海軍正規将校、あるいは元下士官・兵だった者の大半を警備隊に取られる形になった。そればかりか、警備隊設立後の人事抗争にも事実上敗れ、(現場幹部が旧海軍士官で占められた)設立時に生存していた元将官らの集まりが影響力を保持するに至った。これが最大の誤算であった。その顛末への意趣返しか、法律まで制定済みであった海上公安局の設立を潰したのであった。
近年の動向
1990年代以降に北朝鮮の不審船事件が相次いで発生したり、近隣国の公安船による日本領海への領海侵犯が続発するようになると、海上保安庁は海上治安維持の最前線に立たされた。戦後初の実弾射撃の経験も挟んだ2000年代には海猿ブームがあったものの、少子化に伴う人員不足が海自とともに顕現化した。2010年代前半以降、法的な関係で違法漁船などに強硬な姿勢が取れないために、漁業関係者などから顰蹙を買ってしまうなどの不幸、日本国そのものの財政難も重なり、巡視船の世代交代はスローペース気味である。(ごく一部には昭和後期建造の老朽船も残留しているという)また、一応は装備の更新は進んだものの、現場は多忙を極めており、法的な縛りに加え、巡視船や人のローテションなどに四苦八苦しているという。
各管轄区域
海上保安本部 | 本部所在地 | 管轄 |
---|---|---|
第一管区海上保安本部 | 北海道小樽市 | 北海道全域 |
第二管区海上保安本部 | 宮城県塩竈市 | 東北地方全域 |
第三管区海上保安本部 | 神奈川県横浜市 | 小笠原諸島を含む関東地方全域,静岡県,山梨県 |
第四管区海上保安本部 | 愛知県名古屋市 | 東海地方全域 |
第五管区海上保安本部 | 兵庫県神戸市 | 大阪府,兵庫県(瀬戸内海側),和歌山県,徳島県,高知県 |
第六管区海上保安本部 | 広島県広島市 | 広島県,岡山県,山口県(東部),香川県,愛媛県 |
第七管区海上保安本部 | 福岡県北九州市 | 福岡県,佐賀県,長崎県,大分県,山口県(西部) |
第八管区海上保安本部 | 京都府舞鶴市 | 京都府(日本海側),福井県,島根県,鳥取県 |
第九管区海上保安本部 | 新潟県新潟市 | 新潟県,富山県,石川県,長野県 |
第十管区海上保安本部 | 鹿児島県鹿児島市 | 鹿児島県,熊本県,宮崎県 |
第十一管区海上保安本部 | 沖縄県那覇市 | 沖縄県全域 |
水上警察
海上保安庁とは別に、警察庁管轄で各都道府県警に属する「水上警察」という組織も存在する。
活動域は海面に限っているわけではなく、むしろ河川や湖など海上保安庁の出動できない内水面における警察活動が主になる。海上活動は湾内が大半であり、公海はもちろん陸上警察と同じく原作的には所属する都道府県を越えた活動も出来ない。
海賊の拿捕などは完全に海保の管轄となる。主に湾内に侵入した(軽武装・非武装の)違法船舶などの摘発、水上交通整理などを行っている。
要は「海の上まで追いかけてくるおまわりさん」というだけであり、その活動は必ずしも海保と一致しない。
また、基本的に水上警察の武装は乗りこんでいる警官の武装(拳銃など)と船舶にある放水銃などに留まるとされ、海自はもちろん海保と比べても大幅に劣る。交通巡視用のパトカーが機関銃を装備していないように、水上警察の足として利用するような小型船舶(概ね4~40トン)がほとんどである。
大阪府警・神奈川県警・兵庫県警では専任の管轄警察署である水上警察署が存在するが、その他の都道府県では沿岸部の警察署の水上安全課によって管轄される。
内陸県でも例えば滋賀県警では琵琶湖における水上交通警備(プレジャーボートの事故防止や指導など)や密漁船取締りを行っている。
上は創作だが現実にもこんな感じでモーターボートや水上バイクを使ったりもする。
階級
序列 | 階級名 | 海上自衛官の階級 | 警察官の階級 |
---|---|---|---|
- | 海上保安庁長官 | 統合幕僚長 | 警察庁長官 |
1 | 海上保安監 | 幕僚長たる海将 | 警視総監 |
2 | 一等海上保安監(甲) | 海将 | 警視監 |
3 | 一等海上保安監(乙) | 海将補 | 警視長 |
4 | 二等海上保安監 | 一等海佐 | 警視正 |
5 | 三等海上保安監 | 二等海佐 | 警視 |
6 | 一等海上保安正 | 三等海佐 | 警視、警部 |
7 | 二等海上保安正 | 一等海尉、二等海尉 | 警部 |
8 | 三等海上保安正 | 三等海尉 | 警部補 |
9 | 一等海上保安士 | 海曹 | 巡査部長 |
10 | 二等海上保安士 | 海士長 | 巡査長 |
11 | 三等海上保安士 | 一等海士 | 巡査 |