葉足動物
ようそくどうぶつ
始めに
「葉足動物」という言葉には多少の曖昧さがある。混乱を避けるため、本記事は以下の定義に従って葉足動物について記述する:
- 「葉足動物」は「古代の有爪動物(カギムシ)」とも紹介されてきたが、これは21世紀以降から否定された旧学説に基づいた説明である。全ての葉足動物が有爪動物の系統に近い訳ではなく(系統関係を参照)、葉足動物が有爪動物に含まれるわけでもない(系統的にはむしろ有爪動物が葉足動物に含まれる方がマシ、ただし「2」を参照)。
- 稀にその末裔であるクマムシ(緩歩動物)とカギムシも広い意味で葉足動物と紹介されているが、主流ではなく、ここは一般通りにクマムシとカギムシを葉足動物から除外する。
- パンブデルリオンやケリグマケラなど節足動物の系統に近い「鰓のある葉足動物」については、節足動物扱いされる傾向が強い。ここは便宜上、節足動物である同時に葉足動物ともされる。オパビニアは広い意味で「鰓のある葉足動物」に含めるが、葉足動物の特徴は不明瞭で、一般的にも葉足動物扱いされないため、ここでは葉足動物から除外する。
概要
葉足動物(学名:Lobopodia、カナ転写:ロボポディア)とは、カンブリア紀の海に栄えた古生物のグループの1つ。
多くのメンバーは、カギムシとは多少似ているものの、そのシルエットを更に洗練されたような、「脚の付いた蠕虫」とも言える姿をした柔らかい動物である。
名前(lobos 葉状 + pous 脚で Lobopodia 葉足動物)はその柔軟な、往々にして丸みを帯びた葉状の輪郭を持つ脚「葉足」に因んでいる。(カギムシとクマムシの脚も「葉足」と呼ばれる)
葉足動物の中には、ハルキゲニアやディアニアの様に、硬い棘や甲皮などを持ち、鎧を武装したような「Armoured lobopodians」(装甲のある葉足動物)と、パンブデルリオンやケリグマケラの様に、体の両筋に数多くの鰭が生えて、頭に1対の大きな触手を持つ「Gilled Lobopodians」(鰓のある葉足動物)と呼ばれるものがいる。
主な種類
典型的な「脚付き蠕虫」の姿をした種類。寸胴で体表がいぼいぼ、口周りが突起に囲まれる。カナダ(バージェス動物群)から発見される。
- ハルキゲニア(Hallucigenia)
細長い触手と7対の棘がある。かつては上下前後とも逆さまに復元されたことで有名。カナダ(バージェス動物群)と中国(澄江動物群など)から発見される。
- ミクロディクティオン(Microdictyon)
肩パッドのような網目状の甲皮がある。世界中から甲皮が発見されるが、全身は中国(澄江動物群)のみから知られる。
- オニコディクティオン(Onychodictyon)
全身毛むくじゃらで、頭部から羽毛状の触角と丸い吻が突き出す。中国(澄江動物群)から発見される。
- ディアニア(Diania)
脚が太くて小さな棘が満遍なく生えている。故に「歩くサボテン」とも呼ばれてきた。中国(澄江動物群)から発見される。
- ルオリシャニア(Luolishania)
前肢が長い羽毛のように伸びている。中国(澄江動物群)から発見される。
- コリンシウム(Collinsium)
背中は毛むくじゃらで棘だらけ、パワーアップしたルオリシャニアのような姿。中国から発見される。
- コリンソヴェルミス(Collinsovermis)
ぼっちゃりな体型を持つ。通称「コリンズ・モンスター」(コリンズの怪物)。カナダ(バージェス動物群)から発見される。
- アンテナカンソポディア(Antennacanthopodia)
短い脚と2対の触角をもつ。中国(澄江動物群)から発見される。
- メガディクティオン(Megadictyon)
頭には1対の丈夫な触手を持つ。触手や盲腸の構造は原始的な節足動物とよく似ている。中国(澄江動物群)から発見される。
- パンブデルリオン(Pambdelurion)
頭の触手から長い突起が伸びて、脚の上には鰭が並んでいる。口が鋭い歯に囲まれる。グリーンランド(シリウスパセット動物群)から発見される。
- ケリグマケラ(Kerygmachela)
パンブデルリオンとよく似ているが、長い尾が生えて口が小さい。グリーンランド(シリウスパセット動物群)から発見される。
系統関係
葉足動物はカギムシ(有爪動物)やクマムシ(緩歩動物)、節足動物(クモ、甲殻類、昆虫など)と同じく「汎節足動物」であり、そしてカギムシ、クマムシと節足動物は、いずれも葉足動物の系統から進化したグループだと考えられる。例えば、アンテナカンソポディアなどはカギムシの祖先に近い、そしてパンブデルリオンやケリグマケラなどは節足動物の祖先に近いと思われる。
アンテナカンソポディアは、太い触角や短い肉球状の脚などによりカギムシとの類縁関係を示唆される。ハルキゲニアの爪はカギムシと似た多重構造で、これを基にハルキゲニアをアンテナカンソポディアの次にカギムシの祖先に近いとする考えもあったが、確実性が低い。何故ならこの特徴は他の葉足動物での有無は不明で、単にもっと原始的な葉足動物の名残の可能性が充分ある。
パンブデルリオンやケリグマケラなどは節足動物のような硬い外骨格を持たないが、盲腸の構造は節足動物と共通し、脚の上に鰭を持つという構造も、節足動物の鰭と脚で枝分かれた肢の雛形に見える。両者の特徴を兼ね備えた原始的な節足動物オパビニアとラディオドンタ類(アノマロカリスなど)は、その類縁関係を更に強くリンクする(これらは鰭・触手・盲腸だけでなく、節足動物で一般的な複眼・外骨格・関節も兼ね備える)。
なお、クマムシの祖先に近い葉足動物については、未だによく分からない。アイシェアイアやオニコディクティオンが候補として挙げられることがあるが、特に目立った共通点はなく極めて確実性が低い。
汎節足動物
┃
┃?━アイシェアイア
┃
┣━有爪動物の系統
┃ ┣━アンテナカンソポディアなど
┃ ┗━有爪動物(カギムシ)
┃
┣━緩歩動物の系統
┃ ┣━?
┃ ┗━緩歩動物(クマムシ)
┃
┗━節足動物の系統
┣━メガディクティオンなど
┗┳━パンブデルリオン
┣━ケリグマケラ
┗━他の節足動物