概要
マスターピースとは、敵連合の使役する改造人間・脳無の完成形であり、人体改造手術によって覚醒した死柄木弔のことを指す。
この能力を得た死柄木弔は「有史以来最凶の敵(ヴィラン)」と評される存在となり、世界の存亡を賭けてヒーロー達と対峙する。
解説
アニメ未公開の内容が含まれるため、ネタバレに注意。
悪の帝王・オール・フォー・ワンと、その共同研究者であるドクターによる「脳無計画」の最終到達点。
死柄木弔は異能解放軍のリ・デストロを下した後、地獄の苦しみとされる数か月間の改造手術に果てにこの力を手に入れた。
ドクターはマスターピースのコンセプトを「完璧な自我を保ち、無限の力を持つ人間」であると語っており、その呼称は性能に応じて「下位」、「中位」、「上位」、そして「最上位」と分類される脳無の更に上位に位置する「最高傑作(masterpiece)」であることを意味している。
ハイエンドに至るまでの脳無は、AFOらの命令通りに動く人形、もしくは死体として扱われており、基本的に自律思考はできず、ハイエンドでさえも生前の人格をわずかに戦闘に反映させる程度のものだった。
これに対しマスターピースとしての死柄木弔は、覚醒前の自身の人格を完全な状態で保っており、仮死状態となって改造手術を受けたことで、生きたまま身体を脳無化させることに成功した。
その内面には死柄木弔本人の意識と、"個性"『オール・フォー・ワン』の個性因子に取り込まれたAFOの意識が混在した二重人格に近い状態となっており、この2つの人格は、混ざり溶け合いながらも、肉体の主導権を奪うべくせめぎ合いを続けている。
マスターピースとは何かについて説明するためには、まず前提として作中における"個性"と人体の関係についてあらかじめ解説する必要がある。
作品世界における"個性"とは人が生まれ持った「超常能力」の総称であり、それと同時に人の持つ「身体機能」の一部であるとも説明されている。
ストーリーの中で登場する"個性"の多くは、科学では説明できない超常現象に近いものだが、それを扱うのはあくまでも人間の身体であるため、全ての"個性"には何らかの形で限界値や許容量が存在している。
そして、この"個性"における限界値は、身体のトレーニングを通じてある程度のレベルまで底上げすることが可能である。
爆豪を例に挙げると、彼は雄英高校の林間合宿時に、熱によって汗腺を広げた状態で爆破を繰り返す修行を行っており、後により爆発の規模を大きくすることに成功している。
これは原理としては筋力トレーニングによって筋繊維を太くすることに似ており、"個性"を積極的に使う人間は、個性因子の働きによって、それに付随する身体機能を向上させることができることを意味している。
ただトレーニングによる限界値の向上は、あくまでもアスリートが体を鍛えることと同じ類のものなので、その効果は人によって個人差があるし、通常の方法では人智を超えるような力を得ることはできない。
それを克服するためには幾つかの方法が考えられるが、最も安易かつ非人道的な手段が、脳無のような改造手術や、トリガーのような違法薬物の使用(ドーピング)に頼ることである。
マスターピースは"個性"『オール・フォー・ワン』によって、あらゆる"個性"を無限に取り込み続けることを前提として設計されているが、そのためには「"個性"と肉体の相性」と「"個性"の容量」という2つの問題を解決する必要があった。
前者の問題の代表例が青山の『ネビルレーザー』や荼毘の『蒼炎』であり、いわゆる「身体に合っていない」"個性"は、そもそも発動を抑制する機能が備わっていなかったり、使用するだけで持ち主の肉体にダメージを与えてしまう場合がある。
人間の持つ"個性"はまさに千差万別であるため、ひとつひとつの"個性"を十分に扱うためには、"個性"に応じてそれぞれ異なる身体機能に焦点を当てて強化改造を施さなければならない。
また、後者の代表例が緑谷やオールマイトの持つ『ワン・フォー・オール』であり、この問題は作中では「個性特異点」とも呼ばれている。
"個性"とは人の身体に宿った超常的なエネルギーであるため、基本的には持っているだけで多少なりとも人の身体に負荷を掛けている。
そのため、他者の"個性"を奪い続ければ、たとえギガントマキアのような強靭な肉体の持ち主であっても、いずれは肉体が限界を迎えて自己崩壊を起こすことは避けられない。
これらの問題を一手に解決するために考案されたのが、身体そのものが"個性"に適応するように、人体に対して人為的な進化を促すことだった。
マスターピースは、自身の持つ"個性"に合わせて、自らの身体を『成長』させるという人体には無い全く新しい形質を獲得している。
例えば炎を操る"個性"であれば「熱に強い皮膚」、指で触れることで発動する"個性"であれば「巨大な無数の手」といったように、自身の"個性"に合わせて無意識的に肉体を最適な形に成長させ、"個性"の持つ本来の力を最大限に発揮できるようデザインされている。
身体の形を瞬時に変化させる様は、一見「変形型」や「異形型」の"個性"のそれに近いように見えるが、この変化は"個性"による「超常現象」ではなく、あくまでも生体的な現象であるため、イレイザーヘッドの『抹消』によって打ち消すことができない(『抹消』は「"個性"の働きを停止させる」という効果の"個性"であるため)。
これはマスターピースという存在が、単なる「強い"個性"」を持った敵ではなく、生物として別次元の存在であることを示しており、言うなれば、超常能力としての"個性"に肉体を適応させた新しい型の人間であるとも言えるのである。
能力
作中では時間を経るごとに能力が進化を続けており、死柄木弔の肉体への適合率や感情の昂ぶり、人格の主導権によって形態が変化している。
初期形態(未完成)
死柄木弔が仮死状態から目覚めたばかりの姿。
体型は以前と比較するとかなり筋肉質になっており、制御スーツとエクスレスから奪った赤いマントを身に着けている。『崩壊』による右腕の負傷は回復しているが、リ・デストロにもぎ取られた左手の指は再生していない。
また、AFOが生来持っていた"個性"『オール・フォー・ワン』を継承した証として、両掌に黒い孔が出現している。
この時点では、改造による力の定着率が75%に留まっているらしく、プロヒーロー達による奇襲によって、やむを得ず不完全な状態での目覚めることとなった。
外見は人の形を保っているものの、その内実は既に人間とは全く次元の異なる生物となっており、「オールマイト並み」と評されるパワーと無尽蔵のスタミナ、そして改造による負荷と"個性"の並列処理に耐える脳を兼ね備えている。
所持している"個性"には、『空気を押し出す』、『電波』 、『鋲突』等のオールマイトとの戦いでAFOが主力としていた"個性"群に加えて、ラグドールから奪った『サーチ』、どんな傷も数秒で完全に回復させる『超再生』が含まれている。
また、肉体が強化されたことで、"個性"『崩壊』によって身体がダメージを負うという弱点が完全に克服されている。
AFOの潜在意識の影響で、対の力であるワン・フォー・オールを手に入れることに執着しており、それを察知して自ら挑んできた緑谷出久達と激しい戦いを繰り広げる事となった。
マスターピースの力は圧倒的だったが、この時点では力の制御が不安定になっていたため、体力を消耗した際には、莫大な容量を持つ『オール・フォー・ワン』の“個性”の影響か、戦闘中に何度も身体にヒビのような黒い模様が走るという現象が発生した。
ヒーロー達の必死の猛攻によって一時は完全に意識を失い敗北寸前にまで追い込まれたが、スピナーが咄嗟に「家族の手」を顔に当てたことで、死柄木の憎悪の感情が爆発し、AFOの意識が覚醒。この際、人格の入れ替わりと共に、目の無い顔に不気味な笑みを浮かべたAFOの顔貌に変化している。
自身の肉体の限界を悟ったAFOは、ギガントマキアやMr.コンプレスをその場に残し、ニア・ハイエンド達と共に敗走していった。
ここから先はアニメ未公開の内容であるため、ネタバレに注意。
スターアンドストライプ交戦時
太平洋上でアメリカ合衆国No.1ヒーロー・スターアンドストライプと交戦した際の姿。
顔つきは再び死柄木弔のものに戻っており、AFOが普段身に着けるような紳士服の上に、ぼろぼろの赤いマントを羽織っている。
また、以前よりも肉体の適合率が向上したことにより、戦闘中に感情が昂ったことで一瞬で髪の毛が伸びるという現象が発生した。
スターアンドストライプの自己判断により、先行して日本への上陸を試みたことで、死柄木は未だ不完全な状態のまま世界最強のヒーローを相手にすることを強いられた。
しかし、このときの死柄木は、彼自身の意識とAFOの意識が融合しかけたことで、自意識が極めて曖昧な状態となっていたため、スターアンドストライプの"個性"『新秩序』による制約を受けないという彼にとって最大限に有利な条件も備えていた。
つまり、この戦いは死柄木にとっての最大のピンチであったのと同時に、スターアンドストライプの"個性"を奪うことができる唯一のチャンスであったとも言える。
死柄木は幾つもの死線を潜り抜けて、スターアンドストライプを撃破することに成功したものの、その代償として『衝撃反転』を始めとしたいくつかの有用な"個性"を失うこととなった。
また、この時点でAFOは気づいていないが、混ざり合う死柄木弔とAFOの意識の更に奥底にもう一つ「志村転弧」の意思が存在していることが明らかになる。
最終決戦時
ヒーロー達との最後の戦いに現れた際の姿。
装いは赤いマントにズボンのみという非常にシンプルなものとなっている。
改造による変化がほぼ完全に肉体に定着した(AFO曰く「個性終末論を超克した」)ことで、戦闘中も刻一刻と身体の形状が変化し続けている。
これによって、『抹消』によって自身の"個性"が消滅しているにもかかわらず、対死柄木のために結集した精鋭達を圧倒した。
余談
- 原作漫画における死柄木弔の改造シーンは、全身から血を飛び散らせる非常にグロテスクなものだったが、アニメ版においては全身に電撃を浴びせられるような描画に改められた。
- 死柄木本人はマスターピースが腕を肥大化させる様を"成長"と呼んだが、これは外面的には生物用語としての"変態(metamorphosis)"にも近い。また、ドクターが人体改造について説明した際には、繭の中から羽化するようなイメージ図が描かれる等、死柄木の成長に対しては随所で昆虫のモチーフが用いられている。
- 死柄木が人体改造中にカプセル内で装着していたスーツは、劇場版第二弾のメインヴィラン・ナインが劇中で装着していたものとほぼ同じデザインとなっている。このスーツには自身の"個性"を制御するという機能があり、ナインはスーツが破壊されたことで暴走状態に陥った。
- 赤いマントと白髪、そして巨大な異形の腕という造形は、大友克洋作『AKIRA』の登場人物である鉄雄の姿を彷彿とさせるものとなっている。この類似性がどの程度意識されたものかは不明だが、実際に作者である堀越耕平氏は、アニメ公式サイトのインタビューにおいて、強い影響を受けた作品のひとつとしてAKIRAを挙げている(関連リンク)。