※この記事は僕のヒーローアカデミアの最大級のネタバレになります。未読者の方はご注意ください!
今なら どんな困難にも立ち向かえる気がする。
概要
超越者「マスターピース」として目覚めた死柄木弔のことを指す。
史上最悪の敵「オール・フォー・ワン」が目指した存在、その理想そのものである。
監獄タルタロスにて
「君が正義のヒーローに憧れたように 僕は悪の魔王に憧れた」
作中で初めてその言葉が登場したのは物語の第116話。
「神野の悪夢」を経て、遂に捕らえられたオール・フォー・ワンが、獄中でオールマイトと面会するシーンである。
超常能力"個性"の出現によって、この世界にヒーローという職業が生まれた。
作中の言葉を借りるなら、『架空は現実となった』。
とは言え、この世界で「魔王」という存在が、あくまでも空想上の産物であることには変わりない。
作中における個性犯罪者は、一般的には「敵(ヴィラン)」と呼ばれており、「悪の魔王」とは超人社会においてさえ余りにファンタジーな存在であると言わなければならないだろう。
ただその対話を通してオール・フォー・ワンは、自分が目指したものも、オールマイトが目指したものも、所詮は幼稚な空想の延長線上にあるものに過ぎないのだと淡々と告げていた。
そしてオールマイトによって夢を阻まれたオール・フォー・ワンが、自身の夢の後継者として全てを託した存在。
それが死柄木弔だったのだ。
しかし神野での激闘の果てに、オール・フォー・ワンはオールマイトに敗れた。
彼の後継者である死柄木弔は多くの財産を失い、更にはオール・フォー・ワンという強力な後ろ盾までもを失うことになった。
死柄木弔と敵連合は確実に追い詰められていた。
それでも尚、オール・フォー・ワンはオールマイトの前で不敵な笑みを浮かべ、どこか言い知れない不安を残して二人は面会を終える。
ワン・フォー・オールの面影
次にその言葉が登場したのは第193話。
緑谷出久の意識世界の中での1シーンである。
ここで緑谷は、思いがけない形でワン・フォー・オールのルーツの一端に触れることになる。
秋が終わりに近づいたある日、緑谷は夢の中で"個性"ワン・フォー・オールの中に残された初代継承者の記憶を辿る―――。
ワン・フォー・オールの初代継承者と、その兄が生まれたのは超常黎明期、「"異能"(後に"個性"と呼ばれる)」の出現により、それまで人間社会を形成していたあらゆる常識や社会規範が崩れ去り、世界中が大混乱に陥った時代だった。
従来の治安機構はもはや機能していない中、彼の兄―――後に「オール・フォー・ワン」と呼ばれることになる男は、いち早く"個性"を持った集団を統率し、人々を支配しようとしていた。
「あの日お前と読んだコミックの世界だ」
自らの手で監禁した弟を前にして、愉悦を滲ませながら彼はそう言った。
彼が憧れた「魔王」とは、彼自身が子供の頃、弟と共に読んだコミックスに登場するキャラクターのことだったのである。
幼少期のオール・フォー・ワンは、物語の世界の中で、「全てを思うがまま」とする魔王に対して歪んだ憧れを抱いていた。
そして彼は今、他者の個性を奪い与える『オール・フォー・ワン』の力によって、幼い日の憧れを現実に手に入れようとしていた。
「魔王に支配された世界を 正義のヒーローがもがき苦しみ そして最後に救い出すんだ」
他人の"個性"を奪い与える力によって、人々を支配するオール・フォー・ワン。
しかし唯一、弟だけは彼の思い通りにはならなかった。
自身に根差した揺るぎない正義感を信じ、兄の作り出した歪な秩序を否定する。
弟は力でも頭脳でも劣るにもかかわらず、兄は決して彼の心まで支配することは叶わなかった。
そんな弟を屈服させる方法を思案した兄は、彼に対してひとつの"個性"を与えることとした。
このときオール・フォー・ワンは、自分の思い通りにならない弟に力を与えることで、彼を堕落させ、自分の側に引き込もうと考えていた。
しかしそうしたオール・フォー・ワンの思惑とは裏腹に、彼の与えた「力をストックする"個性"」は、弟が生来持っていた「"個性"を与える"個性"」と混ざり合うことで、「ワン・フォー・オール」という新しい"個性"が生み出された。
つまりワン・フォー・オールとは、言うなればオール・フォー・ワンの弟に対する歪んだ執着心が切っ掛けで誕生したものだったのである。
―――緑谷が見た記憶はここで途切れ、ワン・フォー・オールに残された初代の面影は、不意に緑谷に対して語り掛け始めた。
その現象は余りに唐突で、オールマイトでさえも経験したことのない不可解なものだった。
「大丈夫、君は一人じゃない」
初代継承者は、このとき明確な意思を持って緑谷に対して警告を発していた。
彼は緑谷にひとつのメッセージを伝えると、再び緑谷の意識の奥底へと消えてゆく(詳細はワン・フォー・オールの記事に移動)。
蛇腔病院地下研究室
泥花市での異能解放軍との抗争を経て、死柄木弔は自身の記憶を取り戻すと共に、"個性"「崩壊」の真の力を開花させた。
死柄木弔は異能解放軍に勝利、ギガントマキアを屈服させたことで、正式にドクターからオール・フォー・ワンの後継者として認められることとなった。
ドクターは死柄木に対して、オール・フォー・ワンと自身の研究の全容を明かした。
人間の肉体で扱うことのできる"個性"の強度には限界がある。
そして、人の手を限界を超えた"個性"は、いずれこの世界を終末へと導いてしまう。
それは『超常特異点』という古い学説、そして現在では俗に『個性特異点』と呼ばれている終末論のひとつだった。
70年前、ドクターがその学説を発表した当時、その学説は周囲の学者達によって「根拠の無い暴論」であると否定され、彼はその数年後に学会を追放されることとなった。
その後の彼の行方を知る者は無く、公式には亡くなったとされているが、実際は彼はまだ生きており、当時ドクターはオール・フォー・ワンと出会っていた。
個性特異点における「身体の限界」は、複数の"個性"を操るAFOにとって、差し迫って直面していた深刻な問題だった。
目的の一致した彼らは、ひとつの壮大な計画を立てた。
「個性の複製技術」「怪人脳無」「ナイン」といった存在は、全て研究の副産物に過ぎない。
彼らの研究の真の目的とは、個性特異点による人体の限界を凌駕した人間『マスターピース』を作り上げること―――それはすなわち「魔王」を生み出すための研究だったのである。
「乗り越えた時 全てはおまえの掌の上となる あのワン・フォー・オールすらもな」
このとき死柄木弔は、自身の因縁の宿敵である『ワン・フォー・オール』の存在を知る。
新たに組織された超常解放戦線が革命を起こすための準備を着々と進める裏で、死柄木は長い休眠期間に入ることとなった。
そしてその4か月後―――かつてオール・フォー・ワンが夢焦がれた「魔王」は、遂に現実のものとしてこの世界に現れる。
オール・フォー・ワンの面影
「終わってしまう!!!魔王の夢が!!」
物語の第269話。
蛇空病院の地下研究所に、ドクターの狂気の叫びが木霊する。
ヒーローと超常解放戦線の全面戦争の最中、死柄木弔は仮死状態から目覚めようとしていた。
夢と現実の境目で、死柄木は再び己の原点へと還る―――。
意識世界の中で、死柄木は壊れかけた自身の記憶の面影と出会う。
そこに現れたのは、かつて「志村転弧」として幼少期を共に過ごした家族の姿だった。
嘘を吐いたことを謝るはなちゃん。
まだヒーローになりたいのか尋ねる母。
転弧を叱りつけようとする父。
優しかった祖父母。
そして、子供の頃の憧れの存在だった志村菜奈。
彼らは死柄木を再び引き留めようと、彼の身体を掴む。
「もう 俺を否定するな」
オール・フォー・ワンの面影が、死柄木弔を手招きした。
かつての優しい家族との思い出の残滓を粉々に断ち切り、死柄木弔は全てを崩壊させるために歩みを進める―――。
魔王の誕生
覚醒した死柄木弔は描写すらなく、眼銃ヒーロー:エクスレスを殺害。(アニメではエクスレスが放ったレーザーを素手で握りつぶし、彼の顔面に触れた末に崩壊させている。)
彼のマントを奪い取るや否や、自身の"個性"「崩壊」を発動。
全てを呑み込むその一撃は、多くのヒーローと罪のない人々を死に至らしめ、大地に巨大なクレーターを出現させた。
「今ここから―――」
「―――全てを壊す」
見渡す限りの荒涼とした世界の中心に、死柄木弔は立っていた。
「人間を超越した力」と、「この世界に息づく全てを破壊する揺るぎない意志」を持った存在―――死柄木弔は新たな「魔王の器」として、ヒーロー達の前に立ちはだかる。
タルタロス襲撃
物語の第297話。
激闘の末、ヒーロー達との戦いに敗走した死柄木弔は、AFOの肉体が収容された特殊刑務所『タルタロス』へと向かう。
その精神の中では、彼自身の意識と"個性"『オール・フォー・ワン』に残されたAFOの意識がせめぎ合いを続けていた。
「勘違いするな弔!君は大切な大切な―――…次の僕さ。」
AFOは死柄木弔に夢を託した。
しかしそれは決して死柄木のためではなく、全ては自分自身のため―――死柄木弔はただ「次の自分」の器としてAFOに選ばれたに過ぎなかったのである。
死柄木の肉体を乗っ取ったAFOは、マスターピースと脳無達の力によってタルタロスを襲撃・陥落させ、最深部に幽閉されていた自らの肉体を解放した。
劇的な復活を遂げたAFOは、超人社会に名だたる凶悪敵達の前で高らかに宣言した。
「これから始まる空位時代により完璧な魔王が生まれる…… 」
「これは僕が最高の魔王になるまでの物語だ」
降りしきる雨の中、AFOの支配する暗黒の時代が再び始まろうとしていた。