概要
藤子・F・不二雄原作の漫画・アニメ作品「ドラえもん」のエピソードの一つ。
小学四年生1981年11月号に掲載された時のタイトルは「『オート・アクションプロンプター』と『脚本カセット』」で、項目名はTC第28巻に収録された時のタイトル。
演劇コンクールをやる事になったのび太達が、ドラえもんの「オート・アクションプロンプターと脚本カセット」「万能舞台装置」で劇の稽古をしようするというもの。
初出版・単行本の初期の方と現行版とで内容が一部異なる箇所がある(後述)。
ストーリー
クラス会の演劇コンクールで、のび太・ジャイアン・スネ夫・しずちゃんの4人で劇をやることになる。のび太は優勝したいということで、ドラえもんに何かないかとねだると、「またおかしなことにならないかな・・・」と不安に思いながらも、演劇道具一式を出す。
『オート・アクションプロンプター』『脚本カセット』『万能舞台装置』の3点セットがそれで、これを使えば、誰でも素晴らしい劇ができるという。
やがて他の三人も到着したので劇の演目について話し合うが、ジャイアンはスーパーマン、スネ夫はハムレット、しずちゃんはかぐや姫を希望するなどまとまらない。そこで公平に機械に選ばせることにする。
それぞれ条件として、
スネ夫→王子様
しずちゃん→お姫様
ジャイアン→超能力者
という役柄を所望する。
これに加えて、内容面としては、お客の頭の程度をのび太に合わせることにする(その主な根拠は「のび太に分かれば誰でもわかる」から)。
この条件に整うお話があるのか・・?
提出された演目とキャスト
人魚姫
人魚姫:しずちゃん
王子様:スネ夫
魔女:ジャイアン
隣の国の王女様:のび太
上記の条件に当てはまる話をカセットが選んだ結果、この題目に決まった(ジャイアンは「魔女=超能力者」という解釈)。
しかし、人魚姫のデフォルト衣装は上半身裸だという理由でしずちゃんが拒絶したので、新しいカセットを探すことに。
現行版では貝殻をブラジャーにした外観になり、初版よりも劇を進められるようになったが、魔女に人間にしてもらう段階で魚の尻尾の代わりに足が2本生えてくる=少なくとも下半身が丸出しになることに気づいたしずちゃんが憤激。
そのままはだかの王様のくだりへと進む。
ちびくろサンボ(初版のみ)
サンボ:しずちゃん
トラ:その他全員
トラは全員着ぐるみになっている(スネ夫とジャイアンは「幼稚園みたい」「機械をのび太に合わせてるからだ」と不満を漏らしたが、しずちゃんは「かわいらしくていいじゃない」ととてもご満悦である)。
ジャイアントラがこうもりがさ、ドラえもんトラにはくつ、スネ夫トラにはシャツ、といった具合に衣類を差し出していくが、最後ののび太トラが「つぎはぼく」とうれしそうな顔で催促すると、だったら結局裸になってしまうことに気づいたしずちゃんは猛烈に腹を立て、「わたし帰る!!」とまで言い出してしまう。
はだかの王様
王様:しずちゃん
家来:その他全員
たったひとりの女優がいなくなると困るので、ドラえもんたちはしずちゃんのリクエストに応じ、宝塚のような豪奢な男役ができる脚本をオーダーした。
当初しずちゃんは大変満足していたが、タイトルを聞いた途端最後は裸で町を歩くことに気づいてしまい却下。
……と、なぜかしずちゃん(の役柄)がヌードを強制される作品ばかりであることに疑問を持つドラえもん。
不思議に思いつつまた脚本を選ぶと……
星の銀貨
女の子:しずちゃん
乞食:その他全員
上記の作品群よりやや知名度が低い(実際、その場の誰も知らなかった)作品が提出された。
しずちゃんが「ねんのためどんな話かを聞かせて」とドラえもんに頼んだので、「星が銀貨になってふってきて、やさしい親切な女の子がしあわせになる」というとてもロマンチックな話であると説明している。
今度は「強制ボタン」を押して、終わりまでやりとおすという条件で劇を始めた。
「お父さまもお母さまもなくなって、わたしはひとりぼっち。残っているのはパン一個だけ。でも、わたし泣かないわ。神さまがまもってくださるから」と、星のきれいな晩歩いていると、ジャイアン扮する男の人が「おなかがすいて…」と訴えるので、パンをあたえた。
しばらくすると、ドラえもん扮する人物が「さむくてこごえそう」というので、服をあたえている。この時点で嫌な予感を覚えるしずちゃん。
そしてスネ夫扮するみすぼらしい女の子がスカートをねだってきたことで、しずちゃんは結局この話も服を脱がせる話だと感づきショックを受ける。
嫌な予感は的中し、のび太扮する貧しい女の子は「は、は、肌着を…」と言いだす。抗おうにもプロンプターの力で動けず、機械の強制ボタンを押しているので、止めることもできない。
しずちゃん扮する女の子は泣きながら「か、か、神さまのおめぐみが…」と言いつつ、 最後の一枚をのび太に渡してしまう。
結末
結局、ドラえもんが巨大ハンマーでプロンプターを破壊することで事態は収まった。
あまりの恥ずかしさに泣きじゃくるしずちゃん。ジャイアンとスネ夫が慰めるなか、のび太は
「なんでそんなエッチな機械を出したんだ!!」
と、ドラえもんに激しく抗議したが、ドラえもんは
「忘れないでほしいな。あの機械は、
きみの見たがるような劇を選んだんだぞ!!」
と、スケベなのび太が見たい内容を機械が読み取ったからこうなったと糾弾。
かくしてのび太は「おまえのせいで劇がめちゃめちゃだ!!」と全員に追い掛けられることになった。
余談
初版と現行版の違い
本作では「ちびくろサンボ」を演じているのだが、現在刊行中のてんとう虫コミックスでは、このシーンはまるまるカットされている。
刊行された80年代初期に「黒人差別をなくす会」問題が起きて、世の中から「ちびくろサンボ」が消えてしまう事態が発生。その煽りを受けて、本作では該当シーンをカットし、「人魚姫」のシーンを伸ばす形での別バージョンが作られた。今のてん虫コミックには、そちらが収録されている。
大全集では初出版と改訂版の両方が収録されているので、もし違いを楽しみたい場合は、購入して読み比べるのも一興だろう。
なお、「黒人差別をなくす会」問題の藤子作品への余波としては、「ジャングル黒べえ」がお蔵入りとなる大きな影響を被っている。
またこれ以外にも、当初はしずちゃんが服をのび太に渡す前の段階でプロンプターを破壊したのだが、単行本化した際に裸を描ききってしまった。