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概要編集

グリム兄弟が編纂した童話のひとつ。

初版と第二版以降では収録される話が異なっており、同名の話が二種類存在している。

あらすじの大部分は共通しているが、登場人物の設定や顛末が異なる。


共通するあらすじは「願ったことが何でも本当になる力を持った王子が、女の子をなでしこの花に変えて城へ持ち帰り、再び元の姿に戻して結婚する」というもの。

物語中に登場するなでしこはあくまで人間の女の子が姿を変えられたものであり、どちらの話も「なでしこ」という表題でありながら本物のなでしこの花は登場しない。


女の子はどんな画家でも描けないほどの美しい容姿をしていたとされる。

彼女の生まれ持った美貌は花の姿にも反映され、その正体を知らぬ者すら魅了するほど特別に美しいなでしことなって咲き誇っていた。

この女の子の美しさや王子との純愛などから、この物語がナデシコの花言葉(思慕・純愛・女性の美など)の由来になったとされる。


あらすじ編集

両方の話に共通する描写を箇条書きで記述しています。

片方の話でのみ見られる描写や設定については、登場人物の項を参照のこと。

  • 子供のいない王と王妃の間に「何でも願いの叶う王子」が産まれる。
  • 王子の力を利用しようと企む悪人によって、生後間もない王子が誘拐される。王妃は王子を食べた濡れ衣を着せられ、塔に閉じ込められる。
  • 誘拐された先で、王子は美しい女の子と仲良くなる。やがて成長した王子は狩人となり、女の子とは恋仲になる。
  • 王子は願いを叶える力を行使し、自身を誘拐した悪人を報復としてに変える。さらに女の子も同様になでしこの花に変えてポケットに入れて城へ持ち帰る。
  • 王子は素性を隠したまま狩人として王に仕官し、狩りの際に願いを叶える力で獣の動きを操って目覚ましい成果をあげたことで王の信頼と褒美を得る。
  • 最終的に、実の父である王の前で王子は素性を明かし、なでしこの花を元の女の子に戻してみせる。王妃は塔から出され、王子はなでしこの花に変えて持ち帰った女の子と結婚する。

登場人物編集

  • 王子
    • 主人公。「何でも願いが叶う」力を与えられ、その力に目を付けた悪人によって物心着く前に誘拐される。
  • 初版における王子
    • 「何でも願いが叶う」という力は、生誕後に彼の名付け親(乞食のような老人)が教会で祝福することによって後天的に与えられた力。王子自身このような力を持っていることは自覚していなかった。誘拐されてからも自身の素性や身分は知らぬまま、預けられた家の一人娘の女の子と一緒に育てられる。
    • 数年後、成長してから女の子から秘密を打ち明けられる形で、初めて自身の素性や力のことを知る。それから間もなくして自身を誘拐した悪人がやってきたので、彼の姿を見つけるや否や犬に変え、ついでに秘密を教えてくれた女の子もなでしこの花に変える。そしてそのまま城へ帰ることを決め、犬を否応なしに同行させ、なでしこの花もポケットに入れて持って行く。
    • 城に着いてからは狩人として王に仕え、成果をあげたことで王から褒美を与えられる。このとき褒美として王子は自分だけで過ごせる小さな部屋をもらい、以降は自分が部屋に一人のときだけ女の子を元の姿に戻して彼女と一緒に過ごす。ただし出かけるときは女の子をまたなでしこの花に変えて部屋に置いていき、さらに自分が部屋にいない間はなでしこの花に変えた女の子を(皆に見えるように)窓際に飾っておくのだった。二人きりで過ごすときは人間に戻していることから女の子のことは恋人として愛していたようだが、普段は花に変えておくことで彼女が見つからないように隠していたと捉えられる。
    • 最終的に、花の姿のまま王に献上されてしまった女の子を取り戻すために自身の素性を明かし、王と親子の再会を果たす。
    • 物語中で披露した力は「人間を別の物に変えたり戻したりする」「狩りの際に獲物を操る」の二つ。
  • 第二版以降における王子
    • 「何でも願いが叶う」という力は、彼の誕生前にによって先天的に与えられた力。王子自身も幼い頃から力を自覚しており、使いこなしている。
    • 成長した後はその力を恐れた悪人により命を狙われる。しかし女の子の機転により救われ、逆に悪人を犬に変えて報復する。
    • 城に帰る際、女の子本人に同行の意思を尋ねる描写が追加されている。当初は女の子には人の姿のまま一緒に来てもらうつもりだったようだ(結果的に女の子が同行を渋ったためなでしこの花に変えて持っていくことにした)。なお、女の子を花に変えている間は常に自分の身に着けて大事に持ち続けており、花になった彼女を独りにすることは一時もなかった。
    • 帰路中に王妃が閉じ込められている塔に立ち寄り、母と会話する場面が追加されている。城に到着した翌日には王に正体を明かし、自分の命を助けてくれた女の子を王に紹介する。
    • 物語中で披露した力は「建造物を創造する」「人間を創造する」「人間を別の物に変えたり戻したりする」「狩りの際に獲物を操る」「他者の思考を操作する」など多岐にわたる。

  • 女の子
    • ヒロイン。この物語の標題になっている「なでしこ」とは、王子の力で花に変身させられた彼女のこと。初版と第二版以降で設定や扱いの差が特に激しく、初版ではやや理不尽な扱いが目立つが、第二版以降では全体的に扱いが良くなっている。
  • 初版における女の子
    • 誘拐された王子が預けられた家の一人娘で「リーゼ」という名前が付けられている。個人名が判明している唯一の人物。生粋の人間の女の子で、生まれつきの容姿に恵まれた美少女。物語中では父親も登場する。
    • 王子よりも先に、彼の素性や力の秘密を知っていた(父親から聞かされていた可能性が高い)。成長して恋仲になった王子にその秘密を教えたところ、なぜか悪人への報復のついでに「なでしこの花になるように」と願われ、そのまま城まで持ち運ばれて家族とは離れ離れに。
    • 城に着いてからもしばらくは基本的に人間ではなく花として扱われ、普段は花の姿に変えられたまま水の入ったコップに挿されて部屋に飾られている。一応、王子が部屋にいるときだけは一時的に元の人間に戻してもらえるが、王子が部屋を出るときはまたなでしこの花に変えられる。そのため王子がいない間は一切自分の意思で動けない。こうした扱いに対して女の子自身の心情は描かれていないため、本人がどう感じていたかは読者の想像による。あんまりな扱いにも見えるが、王子のことを愛しているが故に(彼と一緒にいるためには)どのような扱いでも受け入れていたとも捉えられる。
    • 終盤、いつものように花の姿で部屋に飾られていたところ忍び込んだ狩人に盗み出されて王に献上されてしまう。正体が人間だとは気付いてもらえるはずもなく、あまりにも美しい花だったため王はこの花を気に入って手放さなくなるが、王子が彼女を取り戻すために素性を明かしたことで無事返却される。その後は王子の花嫁に迎えられて、再び人間として生活できるようになる。
  • 第二版以降における女の子
    • 正体は普通の人間と異なり、王子の願いによって「美しい女の子」として創造された存在。その出生上、家族や故郷は元々持たない。他の登場人物と同様、個人名も登場しない。
    • 王子を殺すように命令され従わなければ自分も殺される状況でも王子を庇うなど、明確に自分の意思を主張する描写がなされる。彼女がなでしこの花に変えられたのも、王子が城へ帰る際に見知らぬ土地に行くことを不安がり同行を躊躇する意思を見せたことが原因とされている。ただし城まで運ぶための手段としてあくまで一時的に持ち運びやすい形にされただけで、城へ到着した翌日には王に紹介するため無事元の姿に戻してもらえた。(結局は見知らぬ土地へ強制的に持ち運ばれることになったが、実は女の子も本心では王子と離れたくなかったので結果オーライ
    • 王に紹介される際は、王子から「自分を助けてくれた娘を(花の姿で)紹介する」と前置きがされたうえで、まずは花の状態のまま王の食卓に置かれた後、「娘の本当の姿をお見せする」として王の目の前で元の姿に戻される。花への変身は1回だけで、以降は再び姿を変えられることはなくそのまま王子と結婚する。

  • 悪人
    • 王子の力を利用しようと企み、王子を誘拐する悪役。後に報復で犬にされる。
  • 初版における悪人
    • 職業は「庭師」。
    • 女の子の父親とは知り合いで、誘拐した王子を預けて育てさせる。
    • 報復として犬に変えられて以降、生涯犬の姿のままではあるが最後まで生存する。
  • 第二版以降における悪人
    • 職業は「料理番」。
    • 女の子に対して王子を殺すように命令し、さもなくば女の子の命はないと脅すなどなかなかに悪辣。
    • 犬にされるだけでなく「金の首輪を嵌められ、喉から炎が飛び出てくるまで燃えている炭を食べさせられる」という過激な報復を受ける。さらに、最終的には王の前で元の姿に戻された後で処刑されてしまう。

  • 王・王妃
    • 主人公の両親。王子が誘拐された際、王は「王妃が王子を食べた」という嘘を真に受けて王妃を塔に閉じ込めてしまう。
  • 初版における王・王妃
    • 最終的に王子を後継にした後、二人とも物語の最後まで生存する。
    • 王はなでしこの花を欲しがり駄々っ子のような一面を見せるが、その花の正体が息子の恋人が変身したものだと知るとすぐに返却し、元の姿に戻った彼女を王子の花嫁として認める寛大な面も見せている。
  • 第二版以降における王・王妃
    • 王妃が塔に閉じ込められていた期間は7年間とされる。この間は白いハトの姿をした天使が食べ物を運んでくれたという。
    • 王妃は塔から出された後、三日後に亡くなってしまう。王も妻を喪った悲しみで、後を追うように亡くなってしまう。

漫画版編集

甘美で残酷なグリム童話~なでしこ~(もろおか紀美子版)編集

出版:笠倉出版社


初版の話をベースにした漫画作品。基本的には元の童話に忠実に漫画化されているが、一部オリジナル要素が含まれている。(成年向けのため過激なシーンも存在する)


この作品では王子に「フランソワ」と名前が付けられている。女の子は童話と同じく「リーゼ」。


王子(フランソワ)が城へ帰る際に、女の子(リーゼ)の両親が見送る場面が追加されている。

元の童話では王子がいきなり一人娘をなでしこの花に変えたうえ何の断りもなく連れ去ってしまう形になっていたため、一応のフォローがされている。

なお、王子が城へ帰ったのは誘拐されてから13年後とされている。


王子が城で自室を入手した後、リーゼを人間に戻しておく用事がないときは王子が部屋にいる間でも花に変えている。作中ではリーゼを元の姿に戻してから一緒に食事を楽しんだり、裸にしてスキンシップを堪能したりするのだが、用事が済んだら(脱がした服すら着せぬまま)またなでしこの花に変え、そのまま花瓶に挿して窓際に片付けている(そのせいで、最終的に人間の姿に戻されたリーゼは王の目の前で全裸を晒す破目になった)。


リーゼが変身したなでしこ以外に、背景として本物のなでしこの花も登場している。

本物のなでしこには雄蕊がはっきりと描かれているのに対し、もともと女性であったリーゼは花の姿に変えられても性別はのまま、雄蕊を持たない雌花になっている。


関連イラスト編集

この物語のヒロインはどんな画家でも描けないほど美しい女の子ということで彼女の姿をイラストで表現するのは至難の業と思われたが、現代の絵師は見事描いてみせるのだった。

なでしこセンシティブな作品


関連タグ編集

グリム童話 なでしこ 植物化

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