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概要編集

元素記号はEs。アクチノイド元素の1種であり、ランタノイドのホルミウムに対応する。名前は物理学者のアルベルト・アインシュタインに因んで命名された。


原子炉や核爆発のような、ウランを出発点とする多段階の中性子捕獲によって生成される元素としてはフェルミウムに次いで2番目に重く、目に見える大きさの量が合成された元素としては最も重い。フェルミウムは水溶液の形でしか知られておらず、メンデレビウム以降は文字通り原子を数える程しか合成されていない事から、理論的にではなく実際に単体が銀白色の金属固体として確かめられた元素としては最も重いのである。

合成に困難が伴う事から、地球上では現在自然界にアインスタイニウムは全く存在しない。核爆発で生成され環境中に放出されたアインスタイニウムも、数年以内に全て崩壊してしまう。しかしながら、宇宙ではHD 101065と呼ばれる恒星でアインスタイニウムまでの重元素がスペクトル分析で発見されている。


性質編集

全ての同位体が放射性同位体であり、合成しやすく最も一般的に用いられるのはアインスタイニウム253で半減期は20.47日、最も半減期が長いのはアインスタイニウム254の275.7日である。


単体は反応性に富む、常温で銀白色の金属固体。非常に柔らかく、圧縮に対する強度ではアルカリ金属以外では最も低い値の1つをとる。密度は比重8.84、融点は860℃、沸点は996℃である。これは隣り合うホルミウムやカリホルミウム、フェルミウムなどと比べると低い値を示す。特に密度に関しては、アインスタイニウム原子はホルミウム原子の1.5倍も重いにもかかわらずほとんど同じ値である。これはアインスタイニウム自身の崩壊エネルギーが金属結晶格子を破壊している為であるとみられている。別の理由として、あまりにも小さな塊で試験を行っている為、大きな塊よりも融点が低く出てしまうエラーが影響している可能性がある。

放射性壊変による崩壊エネルギーは著しく、1g当たり1000Wのエネルギーを放出して目に見える輝きを放つ。


アインスタイニウムの酸化数は+3が最も安定であり、淡桃色となる。+2が準じて安定であるが、ほとんどのアクチノイドには見られない珍しい酸化数である。アインスタイニウムの化学的性質は、アインスタイニウム253が崩壊で1日あたり約3%の割合でバークリウム249に崩壊し、更にそこから崩壊したカリホルニウム249を含むため、不確実なところもある。


用途編集

原子炉において微量しか合成できない事 (アインスタイニウム253で年に1mg、アインスタイニウム254では1μg以下が限度) 、他元素との分離や抽出に多段階のプロセスを踏まないといけない事から、アインスタイニウムの用途は主にアインスタイニウム、及びそこから派生した超重元素の性質の研究に利用されるに留まっている。


しかしながら、比較的多量に合成可能な事、比較的半減期が長い事から、アインスタイニウム254は他元素合成のターゲットに利用されている。例えばメンデレビウムの合成にはアインスタイニウムが利用されており、近年では未発見元素のウンウンエンニウムの合成の試みにも使用されている。

また、アメリカの月着陸探査機「サーベイヤー5号」では、月の土壌を分析する化学分析分光計において較正マーカーとしてアインスタイニウムが搭載されていた。


元素についての一般向けの書物で、超重元素の利用法に「研究用」と書かれている事はよくあるが、用途がある、過去にあった、あるいは検討された元素としては最も重いのがアインスタイニウムである。曲がりなりにも真に用途が存在しないのはフェルミウム以降となる。


アインスタイニウム254は核分裂を示し、理論上は核兵器になりうる。臨界質量は単独でも9.89kg、厚さ30cmの鋼鉄製中性子反射材で2.9kg、厚さ20cmの水で2.26kgと極めて小さい。しかしながら、これらは明らかに人類が今までに得たアインスタイニウムの総量を大幅に上回っており、特に珍しい同位体のアインスタイニウム254の量は更に数桁下である。仮に大量合成する技術が将来できたとしても、そのコストは明らかに既存の濃縮ウランやプルトニウムを大幅に超えるだろう。


歴史編集

アインスタイニウムは、フェルミウムと共に1952年に発見された。エニウェトク環礁エルゲラブ島においてアメリカ軍によって実施された、世界初の水爆実験であるアイビー作戦マイク実験によって発生した放射性降下物の中から発見された。放射性降下物を含むサンゴ片を分析し、わずか原子200個分の99番元素を発見したのである。

当時冷戦下という状況の中、99番元素の発見は機密扱いであった。核実験以外では1954年にアメリカのローレンス・バークレー国立研究所とアルゴンヌ国立研究所においてウラン238に窒素14を衝突させる実験で合成に成功したが、この論文掲載時には既に「この研究はこの新元素に関する初めてのものではない」という免責事項が書かれていた。


マイク実験の機密指定は1955年に解除され、同時に99番元素の発見が公表されたが、命名に関しては一度ノーベル物理学研究所との衝突があった。ノーベル物理学研究所でも1954年に99番元素を合成していたが、当時マイク実験の機密は解除されておらず、ノーベル物理学研究所は発見が先である事を主張したためである。結局のところ99番元素 (及び100番元素) の発見と命名権はアメリカ側が取得した。マイク実験はプロジェクトPANDAというコードネームが付与されていたことから「パンダモニウム (Pandamonium)」という愛称で呼ばれていたが、著名な物理学者であるアルベルト・アインシュタインに因んでアインスタイニウムと命名する事を提案し、これを発表した。なおアインシュタインは、命名が提案した頃は存命していたが、発表された頃には死去していた。また、当初提案されていた元素記号は「E」であったが、後に現在の「Es」へ変更された。


なお、アインシュタインは核兵器に反対な姿勢であり、晩年には核兵器廃絶と科学技術の平和利用を訴える「ラッセル=アインシュタイン宣言」を策定するなどしている。そのような人物が核兵器で初めて合成された元素に名前を付けられたのは皮肉と呼ぶに他ならない。


関連項目編集

アルベルト・アインシュタイン

元素

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