概要
12族に属する金属元素。常温で液体の金属。身近なところでは体温計や蛍光灯に使われている。
過去には様々な用途に使われていたが生物に対し中毒(特に有機水銀化合物)を起こすため、使用が忌避され代替品に取って代わられつつある。
性質
融点 | -38.83℃ |
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沸点 | 356.7℃ |
様々な金属と混和しアマルガムと呼ばれる合金を作る性質がある。水銀の比率が多い場合は液体、少ない場合は固体となる。白金、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、タングステンに対しては混和しないので保管には鉄製の容器が使われる。また、この性質を利用して金を水銀に溶かして金の採掘や精錬を行うことがあるが、この方法で採掘・精錬を行う場合は水銀による自然界などへの汚染に対する注意や対策が必要となる。
余談だが、超伝導の発見は水銀の冷却中に見つかった現象でもある。
毒性
水銀単体については誤飲した場合、消化器による吸収は殆ど行われずに排出されるため急性中毒の可能性は低いものの、一部が腸内細菌の活動による化学反応によって生成され有機水銀化合物として吸収されてしまい中毒症状を起こすのではないかといわれている。
水銀蒸気を吸引してしまった場合、ヘモグロビンや血清アルブミンと結合し毒性を示す。歴史上では奈良の大仏が完成するまで厄病が続いたと言われており、この「厄病」が大仏に金めっきをする際に気化した水銀蒸気を吸引したものによる中毒によるものではないかといわれている。(当時の方法は金と水銀の合金を塗りそれを熱して水銀を蒸発させる方法しかなく、更に当時は水銀中毒どころか重金属中毒さえ知られていない時代のため防護も当然なされていなかった)
有機水銀化合物については無機水銀化合物(または水銀単体)に比べ非常に毒性が強く、特にメチル水銀は中枢神経系に対して非常に強い毒性を示し、感覚や運動、言語の障碍を起こし、重度の障碍になると狂騒状態から意識不明に陥ったり、さらには死亡にいたる。
この症状と原因となった有機水銀化合物のメチル水銀は水俣病の発生によって明らかになった。
自然界には、水銀化合物(有機・無機ともに)を処理して水銀の単体に変化させる菌がいる。そのため、環境浄化の手段として応用されている。
自然界での姿(鉱物として)
鉱物としては、液体としての水銀単体や、赤色硫化水銀であるシンシャ(別名を賢者の石)、硫化アンチモンとの化合物であるリビングストン鉱として存在している。
用途
産業
大電力用整流器(水銀整流器)
高速動作用リレー(※1)
金の採掘・精錬・めっき
灯台の投光機(※2)
医療
体温計
医療用血圧計(※3)
歯の詰め物(※4)
赤チン(※5)
防腐剤
日用品
蛍光灯・水銀灯
顔料
電池(※6)
また水銀は古くは不老不死をもたらすとされ、古代中国では辰砂が薬として飲まれるほか水銀がミイラ作りにも利用されていた。
注釈
※1・・・チャタリング(接点の断続時に起こる振動。電子機器では対策しないと複数回のON/OFFとみなされてしまう)がほとんど皆無。
※2・・・滑らかに回す為、投光機を水銀の上に浮かべて回していたが、地震対策のため水銀を使用しないものに代替されている。
※3・・・現在でも広く伝統的に使われている。血圧と眼圧の単位はSI単位系の適用外となっていて、[Pa]ではなく[mmHg]が使用されている。1[mmHg]≒133.3[Pa]。
※4・・・銀・錫・銅などとの合金は、詰めた後固まるまで時間の猶予があるため使われていたが、現在は別の方法に代替されつつある。
※5・・・有機水銀化合物であるが皮膚からの浸透性が低く濃度も薄いため、消毒薬(外用剤)として使われてきたが現在では殆ど使われていない。
※6・・・一次電池としては優れた特性を持っていたが水銀の使用廃止の流れに伴い、代替品に取って代わられた。一部の電池では起電圧が若干異なるため、古い機器を使用する際は細工や工夫が必要になることがある。
常温またはその付近で液体になっている他の金属
ガリンスタン
ガリウム68.5%、インジウム21.5%、錫10%の共晶合金。独ゲーラテルム・メディカル社の登録商標。体温計の水銀の代替品として使用されるが、ガラスに対して付着する性質が高いため、ガリンスタンとガラスの接触面のコーティングが必要となる。また、ガラスに対する付着だけではなく、金属に浸透して脆化させてしまうため保存には注意が必要。
製造する際に材料として使用するインジウムやガリウムが非常に高価なので大量に使用される用途には使われない。
ナトリウムカリウム合金
ナトリウムとカリウムの合金で(高速増殖炉などの)熱媒体や化学合成の際の脱水剤に使用されるが、化学反応しやすく空気や水と反応して発熱、発火、炎上、爆発する。消火も困難で注水消火は当然不可能。しかも二酸化炭素から酸素を奪い、燃焼や爆発を続けるため二酸化炭素消火もできない。また毒性も高いため劇物に指定されている。
ちなみに、略称は「ナック」という。
ガリウム
融点が29.76℃と低く、手の上に乗せるだけで融けてしまう。毒性は少ないものの、皮膚やガラス、金属に対してよく付着・浸透してしまうので注意が必要。