オリエント急行の殺人
おりえんときゅうこうさつじんじけん
1934年発表。邦題としては「十二の刺傷」「オリエント急行殺人事件」とも。
エルキュール・ポアロの事件の一つ。
トルコ最大の都市・イスタンブールとフランスの港町・カレーを結ぶ長距離寝台列車「オリエント急行」の車内で起きた殺人事件に、灰色の頭脳を持つ名探偵・ポアロが挑む。
あまりの知名度に鉄道物推理の定番になっている程に有名であり、ポアロの代表作。
著者であるアガサ・クリスティは、実際に起きたリンドバーグ愛児誘拐事件をもとに、本作の着想を得たという。
名前 | 職業 |
---|---|
エルキュール・ポアロ | ベルギー人の私立探偵 |
ブーク | 国際寝台車会社の重役 |
メアリ・デブナム | イギリス人の家庭教師 |
アーバスノット | イギリス人の大佐 |
ラチェット | 金持ちの紳士 |
ヘクター・マックィーン | ラチェットの秘書 |
エドワード・マスターマン | ラチェットの執事 |
ハバード夫人 | アメリカ人の婦人 |
コンスタンティン | ギリシャ人の医師 |
ドラゴミロフ公爵夫人 | ロシア人の富豪 |
ヒルデガルデ・シュミット | 公爵夫人のメイド |
アンドレニ伯爵 | ハンガリー人の外交官 |
アンドレニ伯爵夫人 | 伯爵の妻 |
サイラス・ハードマン | アメリカ人の私立探偵 |
グレタ・オールソン | スウェーデン人の婦人 |
アントーニオ・フォスカレッリ | イタリア人のセールスマン |
ピエール・ミシェル | フランス人の車掌 |
舞台は、厳寒の季節にもかかわらずいつになく混んでいるオリエント急行。
大雪のためにユーゴスラビア(現在のクロアチアとボスニア・ヘルツェゴビナの間)で立ち往生した列車の一室で、アメリカ人の乗客ラチェットが刃物で12箇所以上も刺されて殺されているのを発見された。
状況から犯人はこのトルコのイスタンブールからフランスのカレーまでの客車の乗客12人と車掌1人のうちの誰かだと思われるが、殺人が起こったとされる午前0時から2時の間には全員に何らかのアリバイがある。
たまたまシリアでの仕事を終えて乗り合わせた名探偵エルキュール・ポアロが、当列車会社の重役で友人のブーク氏から委任されて事件解決に乗り出す。
以降、ネタバレ要素が含まれる記述がされています。 |
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ポアロはわずかな手がかりから、ラチェットと名乗っていた被害者が、以前世間を騒がせたアームストロング誘拐事件の犯人カセッティであることを突き止める。
数年前、カセッティとその部下は、アメリカに移住した裕福なイギリス人のアームストロング大佐の赤ん坊デイジーを誘拐した。
その赤ん坊は身代金が支払われた後に死体で発見され、次の子供を妊娠していたソニア・アームストロングは死産の末に命を落とし、犯人の一味と誤解されたメイドのスザンヌは自殺し、そして一連の悲劇に疲弊したアームストロング大佐も自ら命を絶ってしまった。
ラチェットは、正義の名の下に殺されてもやむをえないような人物だった。
かといって、このまま殺人犯を見逃すわけにもいかない。
乗客は国籍・年齢・階層とも実に多種多様にわたっている。ポアロ、ブーク、そしてギリシア人医師コンスタンティン博士は全員と会見し、犯行推定時刻当時の様子を聞く。
彼らの証言から、乗客の中にはアームストロング家と縁のある人々が大勢いることが判明する。
名前 | 職業 | アームストロング家との縁 |
---|---|---|
メアリ・デブナム | イギリス人の家庭教師 | デイジーの家庭教師 |
アーバスノット | イギリス人の大佐 | アームストロング大佐の友人 |
ヘクター・マックィーン | ラチェットの秘書 | ソニアを昔から崇拝していた。彼の父はアームストロング事件の検事を担当 |
エドワード・マスターマン | ラチェットの執事 | アームストロング家の執事 |
ハバード夫人 | アメリカ人の婦人 | ソニアの母、リンダ・アーデン |
ドラゴミロフ公爵夫人 | ロシア人の富豪 | リンダ・アーデンの友人、ソニアの名付け親 |
ヒルデガルデ・シュミット | 公爵夫人のメイド | アームストロング家の料理人 |
アンドレニ伯爵 | ハンガリー人の外交官 | ソニアの妹の夫 |
アンドレニ伯爵夫人 | 伯爵の妻 | ソニアの妹 |
サイラス・ハードマン | アメリカ人の私立探偵 | メイドのスザンヌの恋人 |
グレタ・オールソン | スウェーデン人の婦人 | デイジーの乳母 |
アントーニオ・フォスカレッリ | イタリア人のセールスマン | アームストロング家のお抱え運転手 |
ピエール・ミシェル | フランス人の車掌 | メイドのスザンヌの父親 |
全員の証言を聞いた後、ポアロは一同を食堂車に集めて、2通りの解決案を提示する。
ひとつは、列車の停車中に外部より、マフィアと思われる犯人が侵入し、犯行に及んだとする外部犯行説。
もうひとつは、アームストロング家の被害者の関係者が恨みを晴らすために計画し、カセッティと同じ列車に乗り込み関与したとする内部犯行説。
二つの説のどちらかを現地の警察当局に報告する判断はブークに委ねられる。
明らかにおかしな点が見られる推理だが、今回の犯行には正当性があるとして、ブークは外部犯行説を支持。
コンスタンティンも賛成し、自分の診断にはいくつか間違いがあったと口裏を合わせてくれることになった。
こうして事件の真相は隠され、犯行に関与した彼らは警察に突き出されずに済んだのだった。
過去に2度、実写映画化されている。どちらも邦題は「オリエント急行殺人事件」。
2017年版
ケネス・ブラナーが監督・主演(ポワロ役)を務めた。
2010年版 名探偵ポワロ「オリエント急行の殺人」
イギリスの人気長寿テレビドラマ『名探偵ポワロ』では原作出版から75周年を記念して映像化され、イギリス本国では第12シリーズ第3話として2010年12月25日(米国では先立つ同年7月11日)放送。日本ではNHK BSプレミアムにて2012年2月9日放送。また放映に先駆け、ポワロ役のデヴィッド・スーシェが案内役として、物語の舞台となるオリエント急行で旅をするドキュメンタリー『名探偵ポワロと行く オリエント急行の旅』 (DAVID SUCHET ON THE ORIENT EXPRESS) も制作された。日本語吹き替えもドラマ版と同じく熊倉一雄が務めている。
映画作品と同様、イギリスの演劇界の有名キャストが起用されている。本作は過去に作られた映画やドラマと異なり、(後期の『名探偵ポワロ』に多い)全体的に暗い内容となっている。
冒頭では別件の事件推理の最中に追い詰められた犯人がポワロの眼前で銃を奪い自殺。ポワロをイスタンブールまで送る船の上で、ポワロを送る兵士の1人が軍のために真相を究明したポワロに上官からの感謝を伝えつつも、「善人が誤って犯した行為に対して不当な代償だった」と、ポワロの厳しい糾弾を非難するシーンから始まる。また、その後にイスタンブールの街頭で姦婦への石打ち刑(名誉の殺人)が行われて乗客の女性がショックを受ける(そしてポワロはそれを「地元の正義が行われたまでのこと」と評した)など、「法と正義とは何か」を問うシーンが追加されている。
そしてポワロが真相に至った後、クライマックスで列車の暖房が停止し、牢獄を思わせる寒さと闇の中で法と正義との板ばさみとなり、遂には神にすがるという、原作には無かった彼の苦悩に重きが置かれている。
最終的にポワロは「正義と罪の均衡」を受け入れられず、無念のまま犯人たちの犯行を見逃さざるを得なくなるというラストとなり、事実上ポワロの完全敗北を描くこととなった。
なお原作の登場人物のうち、探偵サイラス・ハードマンがカットされ、コンスタンティン博士に役割が統合されている。
ポワロの吹替を務めた熊倉一雄さんも、そんな本作を「シリーズ70本の中でもトップでしょう」と評した。
2016年に AXN ミステリーが長篇作品を対象におこなった視聴者人気投票でも、最終回「カーテン 〜ポワロ最後の事件〜」を3位、複数の出演者もお気に入りとして挙げる「ABC殺人事件」を2位に抑えて、1位に選ばれている。
2015年版 「オリエント急行の殺人」
フジテレビ開局55周年企画として1月11・12の二夜連続スペシャルドラマとして放送。脚本は三谷幸喜。
舞台がヨーロッパから日本の昭和初期になっており、名称もそれにあった物になっている。
- オリエント急行→特急東洋
- エルキュール・ポワロ→勝呂武尊
- アームストロング大佐→剛力大佐
- ドラゴミロフ公爵夫人→轟侯爵夫人.etc
第1夜は原作ほぼそのままの「オリエント急行の殺人」を描き、第二夜は犯人たちによる事件の準備や事件中の視点を描くオリジナル展開となっている。
好評を博し、勝呂武尊シリーズとして不定期に製作されている。