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サスペリア

さすぺりあ

『サスペリア』(原題:Suspiria)とは、1977年にダリオ・アルジェント監督が製作したイタリアのホラー映画。あるいは同映画のタイトルからとられた秋田書店のホラー・ミステリー系専門の月刊漫画雑誌。
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概要編集

監督ダリオ・アルジェントと当時のアルジェントの内縁の妻で俳優のダリア・ニコロディが脚本を担当したイタリアンホラー映画

「インフェルノ」「サスペリア・テルザ」と合わせて「魔女三部作」と呼ばれる。

トマス・ド・クインシーの「深き淵よりの嘆息」(「阿片常用者の告白」続編)所収の「レヴァナと悲しみの淑女」に登場する魔女(あるいは女神)「三人の母」をモチーフとしている。


イタリアンホラーによくある「物語よりも登場人物がいかにむごたらしく死んでいくか」が売りで、本作以降日本に多くのイタリアンホラーが輸入されるようになった。

本作はまだストーリーがある方だが、見る人を選ぶ内容ではある。原色を多用した鮮やかな闇の描写、閉鎖空間であるバレエ学校という舞台装置、プログレッシブ・バンド「ゴブリン」が手掛けるメインテーマを始めとした名曲の数々は、一躍アルジェントの名を世に知らしめた。

公開年の国内映画興行収入で12億円を達成、洋画部門第5位にランクインしている。

日本では「決して、一人では見ないでください」のキャッチコピーが有名になった。


なお、タイトルは19世紀のイギリスの文学者トマス・ド・クインシーの著作「深き淵よりの嘆息」に登場する3人の女神的または魔女的な存在である「涙の聖母(マーター・ラクリマルム)」「嘆息の聖母(マーター・サスペリオム)」「闇の聖母(マーター・テネブラルム)」の1人「嘆息の聖母」より取られている。(なお、この3人の聖母は後にクトゥルフ神話にも取り入れられている)


あらすじ編集

ドイツ・フライブルクにあるバレエの名門校に入学するため、ニューヨークからやってきたバレリーナ志望の少女、スージー・バニオン。夜遅くに空港に到着した彼女を出迎えたのは、激しい雨と風、そして雷だった。

どうにかタクシーを捕まえて学校に到着したスージーだったが、玄関で一人の少女が誰かに向かって叫び、入れ違いに飛び出していく。


秘密が、扉の影に、アイリスが3本、青を回して!


気を取り直してスージーはベルを鳴らすが、インターフォン越しに応対に出た女は「聞いていない、帰りなさい」の一点張り。やむを得ず待たせてあったタクシーに乗り、一夜の宿を探す羽目に。


スージーが見た少女パットは、憔悴した様子で友人のソニアが暮らすアパートに転がり込んだ。ひどく怯え、明日にでも町を出て二度と戻らないと語る彼女をソニアはなだめ、バスルームに通す。

激しい雨が降りしきる窓の外を不安げに伺うパットだったが、不意に窓を割った異形の腕に捕まえられる。ナイフで何度も心臓を刺され、首を吊られ、アパートの天窓から突き落とされるパット。助けを求めて逃げ出したソニアも、降って来た天窓の枠とガラスによって無惨な死を遂げた。


翌日、改めて学校を訪れたスージーを、教師のタナーと副校長のブランシュが出迎える。出張で不在の校長に代わり、行き違いを謝罪するブランシュをよそに、刑事たちが殺人事件の調査の為に学校を訪れ、物々しい雰囲気となっていた。

刑事達の会話を聞いたスージーは、正直に昨夜パットが出て行った事を話す。あれこれあって下宿も決まり、その日からレッスンが始まるが、やがでスージーの周りでは不可解な出来事が起こり始める。


初日のレッスンでスージーは原因不明の体調不良となり、下宿を引き上げて寄宿舎で生活する事となる。体調不良の対策として夕食後に赤ワインを口にするよう指導されたが、それを口にすると必ずスージーは深い眠りに落ちてしまうのだった。

寄宿舎の生活ではパットの元ルームメイトだったサラと友人になるが、その寄宿舎の天井から無数の蛆が降ってくるという事件が起き、一同騒然となる。

蛆の発生は、屋根裏で保管していた食材が腐敗したのが原因だった。駆除作業の間、寄宿舎の生徒達はベッドを練習場に運び、そこでちょっとしたキャンプ気分となる。

しかし夜中にサラに起こされたスージーは、不気味な鼾の音を聞く。もしかして不在の校長がここにいるのではないかと考えるサラだったが、教師達に訴えても芳しい答えは得られない。


そうした中で、盲目のピアニスト・ダニエルの盲導犬が、ブランシュの甥アルバートに噛みついたとして解雇を言い渡される。

激怒するブランシュに対してダニエルは「俺は目が見えないが耳はいいんだ、こんな忌まわしい場所にはいたくないね」と言い放ちその場を去った。しかしその夜、ビアホールからの帰り道で異様な気配を感じた直後、傍らにいた盲導犬に襲われ、噛み殺されてしまう。


サラはひどく怯えた様子でスージーに打ち明ける。スージーが学校に着いた時に追い返したのは自分であり、あの時パットから手帳を渡されたが、気がついたらなくなっていたと。

しかしワインを口にしていたスージーは意識を失い、サラは逃げようとしたが何者かに追われる。逃げ込んだ先の部屋には無数の針金があり、そこに落ちたサラは蜘蛛の巣にかかった蝶のようにもがく。腹をナイフで刺され、首を切られ、無残に殺されるサラ。


翌日、スージーはタナーから「サラが荷物をまとめて出ていき、退学した」と告げられる。

奇妙に感じたスージーは、サラの友人の精神科医フランクを訪ね、そこであの学校の歴史と「魔女」についての話を聞く。更に魔女学の権威であるミリウス教授から詳細を教えられて学校に戻ると、生徒達はサーカスを見に行って不在だという。

意を決したスージーはその夜いつも飲むワインを捨て、パットが言い残した「扉の影の秘密」の謎に挑む……


余談編集

冒頭、雨の中スージーがタクシーに乗るシーンで幽霊が映っていると話題になったが、実際にはアルジェントが自身の顔を映した演出である(あまり作品的に功を奏した様には見えないが)。

この事は後にアルジェント自身がインタビューでばらしたにもかかわらず、TVの怪奇特番では本作のアルジェントの顔が心霊映像と称して紹介される事しばしばだった。


舞台となる学校にはモデルとなった学校があり、そちらは音楽学校だった。ダリア・ニコロディの祖母はかつてそこに通っていたものの、中退したという。

祖母から「あの学校は魔女を育てており、黒魔術を教えている」と聞いたダリアはアルジェントと共に素性を隠して取材にその学校に取材に行ったが、そこで関係者と思われる女性に「おばあさんはお元気?」と尋ねられ、ぞっとしたという。

偶然なのか、ダリアの祖母は映画公開の年に亡くなっている。


終盤、スージーが学校内部を探索する際に厨房の前を通り過ぎた時、それに気づいた調理のおばちゃんが誰何する場面がある。

ロシア語で「そこにいるのは誰?(Кто эта там?/クト・エータ・ターム?)」と言っているのだが、それが「誰だ!」と言っているように聞こえるため、空耳ネタにされる。


リメイク版編集

2018年に『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノが監督・製作に携わって再構築。音楽は「レディオヘッド」のトム・ヨーク。

ダコタ・ジョンソンがスージーを演じ、オリジナル版でスージー役だったジェシカ・ハーパーもある役で出演している。

舞踊団の教師マダム・ブランをティルダ・スウィントンが演じる一方、リメイク版オリジナルの精神科医クレンペラーはティルダが「ルッツ・エバースドルフ」なる初老の男優に扮した上で演じている。全身に渡る特殊メイクを施し、この作品の為にわざわざプロフィールを作っている力の入れようである。

ちなみにティルダは終盤に姿を見せる「魔女」ヘレナ・マルコスも演じているが、こちらでも特殊メイクによってとんでもない変身ぶりを披露している。


舞台は米ソ冷戦真っ只中の1977年の西ベルリンに、バレエ学校は伝統ある現代舞踊団に変更。スージー達が踊るダンスはバレエからコンテンポラリーダンスに、登場人物が惨殺される手口は呪術要素の濃い描写となった。

物語の主軸も、スージーよりもクレンペラーに比重が置かれている。


現在ではアルジェントの著作権が切れたこともあってか、リメイク版製作の際グァダニーノが断りの一つもなく製作した上にオリジナル版を酷評したため、アルジェントはリメイク版には辛辣である。とは言え映像の美しさについては評価している。

その他にもトム・ヨークのエモーショルな音楽、オリジナル版よりも1977年の東西ドイツの政治事情や冷戦の状況を忠実に再現した演出、野性的・前衛的なダンス、舞踊に合わせて肉体を破壊されるゴア描写、オリジナル版とは違う真相と謎を含んだエンディングは見どころかも知れない。


あらすじ(リメイク版)編集

1977年、米ソ冷戦が続く中の西ベルリン。

ドイツ赤軍による連続テロ事件、通称「ドイツの秋」による不穏な空気の中、精神科医クレンペラーの元を一人の少女が訪れていた。

伝統ある「ヘレナ・マルコス舞踊団」の団員、パトリシア。彼女はひどく憔悴し、脅えながらも主治医であるクレンペラーに舞踊団の「秘密」について語り出す。

「あそこにいるのはすべて魔女。夜な夜な奇妙な悪魔崇拝の儀式が行われているの。私の中に”マルコス”がいる……」

パトリシアは怯えながらも診療所を立ち去り、後には彼女の手帳が残されていた。


そのころ、舞踊団のドアを叩く一人の少女がいた。

スージー・バニオン。アメリカ出身の、敬虔なメノナイトの家に生まれた彼女は、現代文明を否定する伝統を拒絶し、舞踊団の公演を見た事でダンサーへの強い憧れを抱いた。特に主役をつとめたマダム・ブランに惚れ込み、はるばるここまでやって来たという。

ブラン不在のままオーディションが始まるが、いざ踊り出すとスージーは卓越したダンスを披露し、教師達を驚かせた。後から駆けつけ、踊りが最高潮に達したスージーに見入るブラン。晴れてスージーは合格し、パトリシアが去った後を埋めるように舞踊団に入団する。


しかしパトリシアがクレンペラーに語ったのは、まぎれもない事実だった。

舞踊団を構成する教師も寮母も全て魔女であり、舞踊団の創始者にして最高位に君臨する魔女ヘレナ・マルコスを「延命」させる為、新たな器として才能ある少女を選定しようとしていた。


次回公演「民族」の練習がスタート。いなくなったパトリシアのパートを任された団員のオルガは激しく反発。教師達を激しく罵り、学校を去ろうとする。

スージーが主役に立候補する一方、出ていこうとしたオルガは謎の力によって鏡張りの練習室へ誘われ、閉じ込められる。激しく踊るスージーの動きに合わせるかのように、見えない力でオルガは身体を無茶苦茶に捻じられ、ありえない方向に全身を折り曲げられた。

人の形を留めない瀕死のオルガを、教師達が取り囲む。彼女達は奇怪なフックでオルガの体を次々と貫き、鏡となっていた隠し扉の先へ連れ去ってしまう。


クレンペラーは手帳を頼りにパトリシアが消息不明になった事を警察に通報し、パトリシアの元ルームメイトであるサラから彼女の話を聞く。しかし調査に訪れた警察は魔女の術で骨抜きにされ、肉体を弄ばれて嘲弄の対象となった。

一方でサラは秘密の隠し部屋に至り、そこで例のフックを偶然入手。クレンペラーに渡し、まだパトリシアが建物の何処かに閉じ込められているのではないかと語ると、その行方を探し始める。


「民族」発表当日。

赤い紐様の衣装をまとった団員達が、スージーを中心に静かに、やがて激しく踊る。サラは開幕をよそに探索を続行し、変わり果てたパトリシアを発見したが、助けを求めようとして穴に落ち、骨折してしまった。

姿を見せたブランの手で折れた足は直され、サラは自失状態のまま舞台へと戻る。しかし踊りが最高潮に達した時、彼女の足は二度目の崩壊を迎え、舞台は中止となった。苦痛に泣き叫ぶサラが連れていかれるのを、観客として訪れていたクレンペラーは茫然と見送る。


クレンペラーはかつてナチスによって妻アンケと引き裂かれ、ずっとその消息を辿っていた。魔女の影に怯えつつ行動する彼は、終盤で遂にアンケとの再会を果たす。

しかしそれは魔女が仕組んだ狡猾な罠だった。彼女達の怒りを買ってしまい、彼はパトリシア、オルガ、サラと共に「儀式」の犠牲者に選ばれてしまう。

だが魔女が集い、踊り狂う場に姿を見せたスージーによって、物語は急転直下の展開を迎える……。


関連作品編集

サスペリアPART2/紅い深淵:PART2とあるが、実際には本作の方が先に作られた。配給側がサスペリア人気に便乗してPART2なんて邦題にしたせいである。

他にもイタリアのホラー・サスペンス映画で「サスぺリア~」と付いたタイトルの映画があるが、全部配給会社が勝手につけたものですべて本作とは無関係。


インフェルノ:こちらはれっきとした続編。本作は「魔女三部作」の第2作目という位置づけで製作されたが、興行的に大失敗。最終作「サスペリア・テルザ」が作られたのは本作より20数年後になった。


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