概要
タウ粒子 (Tau) はフェルミ粒子に分類される素粒子の1つであり、標準模型において電子とミュー粒子と共に荷電レプトンに分類され、三世代構造を形成する。タウ粒子は第3世代である。記号はτであり、日本語ではτ粒子、タウオンとも表記される。英語では、粒子の慣例である "-on" が付く "Tauon" の名称もあるが、文献では "Tau" が優先される。電荷は-1e、質量は電子の約3577倍、陽子の約1.895倍とかなり重い粒子であり、レプトンでは最大、標準模型でも6番目に重い素粒子である。この為平均寿命は僅か290フェムト秒である。
名称 | タウ粒子 |
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記号 | τ- |
組成 | 素粒子 |
粒子統計 | フェルミ粒子 |
グループ / 世代 | 荷電レプトン / 第3世代 |
電磁相互作用 | 作用する |
弱い相互作用 | 作用する |
強い相互作用 | 作用しない |
重力相互作用 | 作用する |
質量 | 1.77682(16) GeV/c^2 |
湯川結合 | 0.0102156233 |
平均寿命 | 2.903(5)×10^-13秒 |
スピン | 1 |
フレーバー量子数 | タウレプトン数: +1 |
電荷 | -1e |
色荷 | 持たない |
弱アイソスピン | LH: -1/2 / RH: 0 |
弱超電荷 | LH: -1 / RH: -2 |
X荷 | LH: -3 / RH: -1 |
B - L | -1 |
反粒子 | 反タウ粒子 (τ+) |
超対称性粒子 | スタウ粒子 (τ~) |
理論化 / 発見 | 1971年 / 1975年 |
歴史
タウ粒子の存在は、1971年にユン=ス・ツァイによって予言された。タウ粒子は第3世代の粒子であるが、存在の予言はクォークに対する小林・益川理論が提唱される前である。1974年より、マーチン・パールらによる研究チームは、アメリカ合衆国のSLAC国立加速器研究所に当時存在した線形加速器のSPEARを用いて電子と陽電子の衝突実験を行い、1975年に64回の未知の粒子が介在する崩壊イベントを観測したと論文で発表した。その時点では単に未知の粒子が2つ存在する事のみが突き止められ、その時点では同時期に発見されたD中間子との区別がつきにくかった。1977年までに、未知の粒子の質量とスピンが測定され、それが未知の荷電レプトンである事が確定した。新粒子はギリシャ語の3番目を意味する "τρίτον" より "Tau" と命名された。パールはタウ粒子の発見により1995年にノーベル物理学賞を授与されている。
性質
タウ粒子は非常に質量の大きな素粒子であり、主な崩壊系列ではパイ中間子を含む粒子の組み合わせに崩壊をする。パイ中間子はハドロン (複数のクォークで構成された複合粒子) であり、レプトンでは唯一ハドロンに崩壊する素粒子である。ハドロンは強い相互作用で結びついているが、レプトンであるタウ粒子は強い相互作用をしない。強い相互作用の研究においては、強い相互作用に対して "クリーン" な粒子が望ましく、この理由でタウ粒子の崩壊は重要な観測対象である。
また、タウ粒子の崩壊は、ミュー粒子と同じく弱い相互作用が関与している。Wボソンが関わるこの崩壊の詳細な観測では、超対称性理論によって予言されるヒッグス粒子の拡張である荷電ヒッグス粒子の存在の可否が検証される。現時点において、荷電ヒッグス粒子は発見されておらず、存在領域は強い制約が課せられる事が判明している。
タウ粒子の崩壊では、ハドロンを含まない崩壊として、電子と反電子ニュートリノ、ミュー粒子と反ミューニュートリノの組み合わせがある。崩壊確率はどちらもほぼ等しいが、これはゲージ粒子の結合の強さはレプトンの種類に依存しないというレプトン普遍性の証拠の1つとなっている。
タウ粒子は質量が大きく、電子やミュー粒子と比較してより軌道電子の負電荷による影響を受けにくく、物質に対する浸透性が高いと考えられるが、一方で平均寿命が非常に短い。光速の99.99%で進んだ場合、相対論効果による時間の遅れを考慮すると、ミュー粒子は崩壊までに平均47km進むが、タウ粒子は僅か6mmしか進む事が出来ない。この為ミュー粒子はミューオントモグラフィーの用途が存在するが、タウ粒子はそのような用途は存在しない。