トイレのピエタとはマンガの神様こと手塚治虫が日記の最期のページに書いた内容である。
概要
手塚治虫は1989年に体調を崩し入院する。手塚の家族は医師から手塚が既に末期の胃がんであることを告げられるが、当時癌とは不治の病同然で家族は告知しない事を決断し手塚本人には「胃がんであることを伝えないでください」と言い、手塚本人は『自身は胃潰瘍である』と告げられ最期まで胃がんであることを知らずに死亡した。
公式には医者と家族以外ではマネージャーの松谷孝征(現・手塚プロダクション社長)のみが癌だと知っていたとされる。
しかし、死後に公開された手塚の日記には手塚は胃がんであることを知っていたとみられる内容が見つかっている。(手塚は臨床経験こそほぼ無いが医師免許を持っている)
手塚治虫は入院中も手が震えるのを医療用のモルヒネで抑えながら、意識が無くなるまで仕事と日記を苦しみながら続けていた。
手塚が病室で書いた日記の最後のページは次のように綴られている。
一九八九年一月一五日
今日はすばらしいアイディアを思いついた!トイレのピエタというのはどうだろう。
癌の宣告を受けた患者が、何一つやれないままに死んで行くのはばかげていると、入院室のトイレに天井画を描き出すのだ。
周辺はびっくりしてカンバスを搬入しようと するのだが、件の男は、どうしても神が自分をあそこに書けという啓示を、便器の上に使命されたといってきかない。
彼はミケランジェロさながらに寝ころびながらフレスコ画を描き始める。
彼の作業はミケランジェロさながらにすごい迫力を産む。
傑作といえるほどの作品になる。
日本や他国のTVからも取材がくる。
彼はなぜこうまでしてピエタにこだわったのか?これがこの作品のテーマになる。
浄化と昇天。これがこの死にかけた人間の世界への挑戦だったのだ!
手塚はこの日記のページを最後に意識を失い、二度とペンを持つことは無かった。上記の日記はグチャグチャの文字で書かれており、壮絶な現役への執念を感じさせるものとなっている。
トイレのピエタは手塚治虫が「生前にアイデアを出した」という枠組みで考えれば全手塚作品のうち最後の作品になる。(手塚は病室でいろいろ漫画を描いていたが、「生前にアイデアを出した」という日記の最期のページの枠組みまで含めると本作が最後)
映画
また『トイレのピエタ』は2015年に映画公開されたが手塚ファンからは大きく不評を買ってしまう。
その理由としては、『トイレのピエタ』の主人公は手塚自身がモデルと言われていた(そもそもだが、手塚の日記における主人公は性別はおろか年齢すらも不明)が、映画では若い青年になりオリジナルキャラクターである女子高生との恋愛映画になったことである。
監督の松永はテレビの手塚特集でトイレのピエタをチラッと見ただけで他に何も調べずに映画を作った(要するに、アイデアと名前を拝借して制作したようなもの)ことを明かし、それもファンから不評を買うこととなった。
ただし、作品の内容はともかく主演の野田洋次郎をはじめキャスト陣の演技は概ね好評である。
関連タグ
ネオ・ファウスト - 手塚が最後に執筆した漫画作品の一つ。(漫画は途中で終わるが長谷川つとむの書籍では続きの内容が明かされている。)