概要
山鳥はむによって、2012年8月16日より小説家になろうへ順次投稿されていた小説作品。2020年からはカクヨムでの掲載も始まったほか、2019年にはKADOKAWAの新文芸で書籍(ライトノベル)版が発売されている。
ライトノベル版の挿絵はtoi8が担当。
貴き石の精霊(以下ジュエルスピリッツ)ジュエルと契約した錬金術師クレストフ・フォン・ベルヌウェレが、富と名誉を求めて秘境『宝石の丘』を目指す物語である。
世界観
- 術師
魔術を扱う者。
「魔導技術連盟」に属する者は誰でもこの括りに入る。
- 魔術
この作品の魔術には、まず最初に、魔力と魔導回路の二つが必要となる。
魔力は魔術の素材、魔導回路は魔力から魔術を作る機械のように考えれば良いだろう。
魔力というのは、元来、人間の体などには存在しない。
魔力は特定の「異界」にのみ存在し、魔術を用いる時には、その異界から魔力を引き出して用いることになる。
異界というのは、この作品においては、現世とは異なる世界のことで、現世の上下に積み重なるようにして存在しているイメージで語られる。
現世から上下に離れるほど法則が歪み、様々な差異が出てくることが分かっている。
魔力の引き出しに際しては、無数に存在する異界の中でも「エネルギーと情報のみの世界」が重要になってくる。
人間の脳の内部には、魔力とは別に「魔導因子」が存在し、異界への門を開く。
この際、現世よりも、より高い位置にある異界に門を開けるのが肝要で、そうすると、水が高い場所から低い場所に落ちてくるようにして、現世に魔力を引き出すことができる。
次に、魔導回路は魔力を流し込み、魔術を発生させるものだ。
貴石、半貴石、肌などに刻み込むことで効力を発揮する。
ただし、魔導回路はあくまでも使い捨てであり、何度も使うと刻み込んだ物体が砕け散って、魔導回路も破損し、使用不能になってしまう。
一般人にその出費はきついものがあり、また、魔導因子を流し込むにもそれ専用の手術が必要なためかなりマイナーな方式である。
それに対して魔導回路を肌に刻み込む方式は、たとえ酷使に耐えかねて魔導回路が破損したとしても、人体の再生機能で自然に魔導回路が復活する。
また、魔導因子を外部に流し込む必要がなく、すべてが体内で完結するため、前述の手術の必要がなく、専門の教育を受けていない人間にも簡単に魔術に使えると、本当にいいことづくめである。
しかし主人公のクレストフは肌に魔導回路を刻み込むということをせず、すべての魔術を使い捨ての魔導回路で発動している。
ちなみに、魔力の引き出しに使われている「エネルギーと情報のみの異界」には、魔力が無限に存在するという学説が主流だが、実際のところはわからない。
- 騎士
一般的な定義とは異なり、この作品における騎士は、「闘気」を発動できて「騎士連盟」に騎士として認定された者のことを言う。
そのためたとえ闘気を使えても騎士連盟に属していなければ騎士とは言わない。(そんなバカはなかなかいない、といのがクレストフの言である)
- 闘気
闘気というのは魔術とは異なり、言うなれば身体能力の強化に振り切った魔術である。
すさまじい防御力を誇り、また、身体能力を増強する。
一流の騎士ともなれば斬撃を飛ばし、刃を肌で受け止め、魔術すらも受け流すほどとなる。
対抗できるのは、騎士、あるいは熟達した術師のみである。
その才能は血筋に大きく依存する。
シリーズ二作目の「ノームの終わりなき道程」においては魔術的なアプローチでもその発動が確認されている。
- 精靈
基本的には「火水風土」の四属性で区分されるが、他にもマイナーな属性も存在する。
マイナーな属性については、マイナーなこと以外に言及がなく、あまりわかっていない。
精霊そのものが異界への門のようなものであるため、常に膨大な魔力が供給されており、うまくやれば半永久的に魔力を生み出す「精霊機関」の作成も可能である。
ちなみに「精霊機関」の作成はかなり難易度が高く、それさえできれば一生食っていけるとまでいわれている。
登場人物
- クレストフ・フォン・ベルヌウェレ
本作の主人公。
後述の風来の才媛いわく、極めて面倒くさがりで最低限の努力で最大の結果を出そうとする人物。
二十にも満たないうちから独自の工房を持ち、魔導技術連盟においても高い地位についている。
まさに順風満帆といった具合であったが、後述のジュエルにより金庫に入っていた数々の、子供の頃からコツコツと溜めていた宝石をほとんど食われてしまい、その贖罪として世界最高峰の宝石が大量に存在するジュエルスピリッツの故郷「宝石の丘」への道案内を受ける契約を結んだ。
一度は騎士を目指していたために、闘気や騎士に対して強いコンプレックスを抱いている。
- ジュエル
宝石を喰らうジュエルスピリッツ。
伝説級の存在のはずだがかなり俗な性格で、端的に言って威厳の欠片もない。
宝石の丘という数々の宝石が集まる秘境の出身で、クリストフの宝石を食らった結果、贖罪のために彼をそこに案内することとなった。
非常にオヤジくさく、配達に来た猫の獣人の胸を弄んだりとセクハラのバリエーションには事欠かない。
また、数々の盗み食いにより無事信頼をどん底に落とした。
倫理観が欠如していて、拷問を楽しむ。
また前述した宝石喰らいをはじめ非常に食い意地が張っていて、宝石や半貴石、はたまた黄鉄鉱など、金属宝石関わらずあらゆる採掘物を貪る。
少しでも目を離すと、鉱山開発で稼いだ金がパーになるほどの悪食らしい。
また、宝石を食らうだけあってその体はとてつもない硬度を誇り、本編中に彼女、物理的な損傷がついた事例は一切存在せず、精霊の殺害に特化した魂魄方面のアプローチによるもののみだったため、彼女に限らず、ジュエルスピリッツの防御力は折り紙付きだ。
- ビーチェ
かつての流行病により家族を失い、また、潜伏期間といったことを知らない学のない村人達から、彼女も病気にかかっているのではないかと疑われ、数年経っても差別されていた。
クレストフの鉱山を勝手に根城にしようと画策した山賊たちが洞穴に潜む悪魔を名乗り、生贄を求める手紙を村に出したため、厄介払いも兼ねて洞穴に連れてこられたが、当の山賊たちがすでに魔物たちにより勝手に壊滅していたため、なんやかんやでクレストフが拾うこととなった。
また、魔眼を所持しており、目を合わせた相手に威圧感を与える。
オオカミのような弱い魔物ならば容易に追い払える。
相手が強者となるとあまり効くことはないが、相手の不意を突く形で使えば、一瞬の隙を作り出すことも叶う。
- 風来の才媛
かつてクレストフとともに仕事をしていた女性。
年齢差はたったの一歳ながら、一級術師として魔術師の最高峰に名を連ねており、一級術師を目標としているクレストフはそのことへの劣等感的なコンプレックスから、彼女を名前で呼ばなくなってしまった。
舞台女優のような整った顔立ちをしていて、背がたかい。 "術士然とした恰好からは遠い、身体にぴたりと吸い付くような革のつなぎを着ており、胸は豊かで腰はくびれ、舞台女優のように整った顔立ちをしている。"
登場人物(ネタバレあり)
- セイリス
初登場時には自称騎士で、闘気を発現し騎士となることを目指し、修行目的で主人公の鉱山へと侵入した。
過去には騎士を目指し、しかし闘気を発現できなかった主人公を様々な勘違いの末、「他者の力頼りの魔物使い風情」と罵倒してしまったことで逆鱗に触れ、術師である主人公に剣術のみでコテンパンにされたことで心境に変化が訪れ闘気が覚醒した。
前述の通り闘気と騎士にコンプレックスを持つ主人公の嫉妬により一度は殺されそうなるが、葛藤の末に見逃されることとなった。
騎士を多く輩出する名家の出。
いわゆるお嬢様ではあるものの、基本的にはネタキャラで、ひどいにおいのする茶色いなにかを全身にかぶってしまったりとかなり抜けているなところが目立つ。
が、主人公を師匠と慕い、また、その最後を思えば本編を通して最も成長したキャラクターともいえるだろう。