概要
とあるダンジョン。その入り口近くに、小さなゴブリンの集落が住み付いていた。
人間の集落からは離れているため、彼らは別に襲撃なども行う事無く、自由気ままに生活していた。
しかしある時、一人のゴブリンである主人公=君は、森の中で狩りをして戻ってきたら、自分の集落の仲間たちが惨殺されているのを発見する。虫の息の仲間に聞くと、四人組の冒険者パーティがこのダンジョンに攻め込んで、一方的に殺していったと伝え、絶命した。
復讐に燃える君だが、一介のゴブリンである自分には戦いを挑んだところで勝ち目など無い。だが君は、集落に伝わるヒスイの事を思い出した。それは自分たちゴブリンにのみ通用する魔法がかかっており、ゴブリンをより強いモンスターに進化させる作用があると言う。
かくして君は、復讐のために故郷を後にするのだった。ヒスイを集め、強力なモンスターに進化し、仲間たちの仇を取るという誓いを胸に秘めて。
「モンスターの逆襲」とは山本弘氏の著作であるゲームブック。
当初は、ゲームブックマガジン「ウォーロック」の3号から6号に駆けて、全四部掲載された後、1988年に単行本化され発刊された。
本作は「モンスターが主人公」という特徴がある。
単に倒される側のモンスターを主人公に据えたことによる、新奇性をてらっただけの作品ではなく、
:モンスターならではの、「人間とは異なる価値観・思想」、
そして、
:「モンスターとはいえ、人間側が一方的に戦い殺す事は、果たして正しい事なのか?」という問題提起
これらを、作中で行ってもいる作品である。項目は、全450。
一つの部ごとに、仇の四人組パーティを、一人ずつ追い詰め倒していく……というストーリーになっている。
本書は当初、最弱のモンスター・ゴブリンの一個体としてスタートする。
その際、当然ながらゴブリンの思考や思想・価値観を有しており、人間を見ても「醜い」という感想を有している。
これは後に、新たなモンスターに変身しても同様で、氷の中に閉じ込められた、全裸の人間の美少女を発見した際にも「モンスターの基準で見ればひどく不細工で、みっともない姿」という描写がされている。
進化の最中に、人間に変身する事もあるが、その際には「変身した自分自身の姿に吐き気を催す」といった描写も。
このような、人間と異なる種族としての一面を描写しているため、単に「やられ役であるモンスターを主人公にした」だけの作品になっていないのが特徴である。
また、ヒスイを用いての変身も、進化や段階を踏んだものになっており、すぐに強力なモンスターに変身できるとは限らない。
加えて、変身したモンスターにとっては、選択を誤り、かえって不利になってしまったり、即座にゲームオーバーになってしまったりもする。
また、本作ではマルチエンディングになっており、復讐を遂げた後も、場合によっては栄光を掴んだり、あるいはゴブリンに戻れないために孤独のまま生きる事になったり、別の次元に赴いたりと、変身したモンスターの違いにより異なるものになっている。
モンスター側が主人公になっただけではない、異なる価値観を体験できる一作である。
内容
本作は、四人の冒険者パーティー1名ごとに一章が費やされている。
盗賊ランブル
主人公は、ヒスイを求めつつ、4人パーティの一人、盗賊のランブルがとある村で宿屋を開いた事を聞き出す。
主人公はヒスイにより変身しつつ、場合によってはホブゴブリンの仲間と協力し、この宿屋を襲撃。ランブルを狙う。
僧侶グレン
主人公はとある村の教会に、仇の一人・グレンが僧侶として勤めているのを知り、そちらに向かう。
ヒスイを手に入れ、更に強力なモンスターに変身し、教会に。村にはそれなりに村人たちが多く、正面から向かうのは難しい。それでも主人公はグレンを狙い、村へと潜入を試みる。
戦士ブリンケン
主人公は、旅をしている最中に、それなりに有名になっていた。
やがては騎士団にも狙われるように。騎士たちを退け、女騎士の団長シェイナとの一騎打ちを行った際、ブリンケンは騎士団から秘宝を盗み出し、船で逃走した事を知る。
泳いで、あるいは空を飛んで、ブリンケンの船へと向かうが……、
魔法使いストームシャドウ
主人公は、それなりに強力なモンスターに変化した後、最後の一人であるストームシャドウが潜む洞窟へとたどり着く。そこは広大な迷路になっており、内部は巨体のモンスターでも移動できるほどの広さ。
しかし、内部には様々な仕掛けがあり、そしてストームシャドウも主人公を待ち構えていた……。
登場人物
- 主人公=君
本作の主人公で、読者の分身。
一介のゴブリンで、秘めた力などは全く持たない。集落の仲間たちを一方的に皆殺しにされたため、その復讐に向かう。
後にヒスイの力で、モンスターに進化していく。
- ランブル
仇の一人で、盗賊。
主人公のゴブリンの集落を襲った後、宝物を手に入れ、それを元手に宿屋を開いた。四人中、戦闘力は最弱。
- グリムロック、スラージ、スラッグ、スナール、スワープ
ホブゴブリンたち。
選択によっては、ランブルの宿屋を襲う際に、彼等ホブゴブリンの助力を得る事が出来る。名前は、作者もファンである某作品のキャラ達が元ネタ。
- グレン
仇の一人で、僧侶。
ある村の教会に、司祭として勤めている。僧侶らしく、聖印やターンアンデッドの祈りなど、対アンデッドの手段は心得ている。また、メイスのような打撃武器も有している。
- 若い僧侶
グレンの教会に務めている、若い見習いらしき僧侶。携帯用の短い棍棒の他、グレンに劣るが対アンデッドの手法を心得ている。噂によると、グレンとはけしからぬ仲らしい。
- 黒エルフ
グレンの教会がある村の途中で出会う、怪し気なエルフ。選択によっては、主人公に様々なものを売ってくれる。
- 死霊
グレンの教会がある村へ続く、地下通路内で遭遇するアンデッド。生者に対してはモンスター相手でも襲ってくるが、選択次第では主人公に反撃されたり、あるいは主人公自身がアンデッドモンスターになっていた際には、会話も可能。特に主人公が元からアンデッドの場合(ゾンビやグールなど)、「お仲間じゃないか」と話しかけてくる。
- ブリンケン
仇の一人で、戦士。
戦士なだけあり、物理的な戦闘能力は最強。刀身から火炎を放つ、魔法の炎の剣を武器に用いる。かなり人格的に問題がある人物らしく、女騎士のシェイナの寝床に忍び込み、けしからぬ行為に及ぼうとした。それだけでなく、騎士団の宝物庫から宝物を奪い、船で逃走もしている。
- シェイナ
騎士団の隊長を務める女騎士。美人かつ正義感に溢れた人物で、なおかつ正々堂々とした戦いを好む。
有名になった主人公の事を話に聞いており、問答無用で戦いを挑むのではなく、事情を聞いたうえでの話し合いを求めてきた。プレートアーマーに身を包んでいるが、その鎧の表面は鏡のようになっている。そのため、主人公が石化能力を有するメデューサになっていた場合、自身が石化してしまう可能性もある。
また、主人公がユニコーンの場合、戦わずに相手をそのまま無力化している。
- ストームシャドウ
仇の一人で、魔法使い。
海の宛てにある島の、広大な洞窟の深層部に逃げ込んでいる。洞窟内部では、様々な実験を行う実験室も有しており、そこでは生きたドラゴンの首も培養していた。
やはり元ネタは、作者がファンだという某作品から。
しかし、実は……。
場合によっては、作者が某雑誌の常連投稿者であったゆえに、某作品の某キャラみたいな会話をしたりもする。
また、ラストバトルでは、ヒスイの謎を自力で突きとめ、自分に使用し、自らが強力なモンスターに変身して戦いを挑んでくる。
- フリント
若き男性の冒険者。ストームシャドウの洞窟内で、主人公と鉢合わせる。シェイナの求婚者で、シェイナにふさわしい勇者、すなわちドラゴンの首を獲るほどの実力を示すために洞窟に赴いていた。
- サティン
氷の中に、全裸で凍り付いていた人間の美少女。実はとあるモンスターが呪いをかけられ、人間の姿にされていた。
その他
- 黒ヒスイ
主人公の集落に伝わる、マジックアイテム。
一個消費する事で、モンスターをより強力な存在に進化させられる魔力を有する。進化の度合いは少しずつ、一段階ずつを踏まなくてはならず、ひと飛びに強力なモンスターになれるとはかぎらない。
また、場合によっては、進化を誤って即死になってしまう事もありうる(ゆえに、使用の際には考えて行う必要がある)。
モンスターの進化
進化は上述の通り、少しずつ変化していく。
- 一部
最初がゴブリンのため、ゴブリン、またはそれに準じるモンスターに進化する。
「コボルト」「人間」「ホブゴブリン」「オーク」など。
人間やコボルトに変身したら、この作中のゴブリンが持つ「暗闇でも赤外線で見通せる」能力を失う。
「コボルト」からは「リザードマン」に、「人間」からは「ゾンビ」「グール」などのアンデッドに変化していき、後の展開も大きく異なっていく。
- 二部
アンデッドになった場合、場合によってはレイスやワイト、スケルトンやヴァンパイアなどに進化し、アンデッドゆえの特殊能力も使用できるように。しかし、相手が僧侶ゆえに退散させられゲームオーバーになる事も多い(途中からオーガーなどの別系統のモンスターに進化も可能)。
また、ゴブリン系のモンスターであっても、強力でないと「人型モンスターを麻痺させる」呪文でゲームオーバーになる事も。
リザードマンからは大蛇やメデューサに変化し、締め付けや石化などを使えることもあるが、これらも対処されてやはりゲームオーバーになる事もあるため、油断はできない。
- 三部
ここからは、より強力なモンスターに変化できる。
サテュロスに進化していた場合、ユニコーンやペガサスなどに進化できる。ただしユニコーンに進化していたら、ある理由でゲームオーバーになる事も。中には、コカトリスに変身していたら、近くの村で飼われている雄鶏の鳴き声を聞かされ続けて、そのままゲームオーバーになったりも。
また、サラマンダーに進化した場合。強力な火炎を放てるが、海を渡れずそのまま終りになる事もある(氷を放つ、フロストサラマンダーの場合、これは回避できる)。
この頃になると、翼を持ち空を飛べるモンスターに進化している場合も多く、そこから空を飛んで船へと向かう事も可能。
ただし、巨人やトロールなど、怪力や巨体を有していても、泳げなかったり飛行できなかったりするモンスターの場合、船に辿り着けずゲームオーバーに。空を飛べても、ガーゴイルなどのように短距離の飛行しかできない場合も同様。
- 四部
ここからは、ボスクラスのモンスターに変身が可能に。
キメラ(山羊と獅子と竜の三つ首タイプで、背中に翼を持ち飛行も可能)やマンティコア、ワイバーンなどを経て、ドラゴンやデーモンといった強力なモンスターへ進化が可能。
ドラゴンの場合、レッド、ブラック、ホワイトといった、各種属性が異なるドラゴンへの進化する他、場合によっては複数の首を持つアルティメットドラゴンにすら変身が可能である。
関連タグ
ファイティングファンタジーシリーズの一つ。同時期に発売され、こちらも「モンスターが主人公」という共通点を有する。