概要
リーダーシップとは、「Leader(リーダー、導く者)」に地位を表す接尾辞「ship」をつけた言葉。
組織を率いるリーダー(指導者・統率者)が、組織の上方向から下方向へと影響力を及ぼすために発揮する能力を指す。日本語で「指導力」「統率力」などとも訳される。
学術的には、心理学や経営学、軍事学などの領域で研究対象とされることが多く、今日の組織論を語るうえで不可欠な要素である。また、リーダーシップとは、決して「カリスマ(神秘性)」や「雄弁さ」、「機転」というような先天的な資質のみで構成されるものではなく、「謙虚な姿勢」や「揺るぎない信念」などの後天的な資質を身につけることによってはじめて発揮されるものである。
あわせて、リーダーシップは、その実践において再現性(誰でも同じ条件や手順で行うことで同じ結果が得られる)がないことから、その特性はサイエンス(科学)ではなくアート(芸術)の分野に属する。絵画や音楽、翻訳・通訳などと同じように、実践する人ごとに異なる結果が発揮されるものなのである。
対義語は「フォロワーシップ」。こちらは、リーダーの下につくフォロワー(部下)が、組織の下方向から上方向へと影響力を及ぼすための能力を指す。
また、リーダーシップの類似語には「キャプテンシー」がある。ただし、リーダーシップはキャプテンシーとは異なり、肩書きや役職の有無に限らず集団を統率する力を指す。
リーダーシップの三大要素
「リーダーをゼロから育て上げる」ことを理念として掲げているウェストポイント(アメリカ陸軍士官学校)では、リーダーシップは以下の3つの要素によって成り立つものであると定義している。
品格(Be)
その人が持つ人柄。感謝や責任感といった教養的な資質により、リーダーの人間性の核心を形づくるもの。
知識(Know)
その人が持つ知識。リーダーとして必要な思考力や判断力、コミュニケーションスキルをはじめ、業務上の技術的かつ専門的なスキルまで包括(ほうかつ)し、リーダーの行動方針を形づくるもの。
実践(Do)
その人が実際に起こす行動。先に挙げた「品格」「知識」を実際に行動で示して成し遂げることで、リーダーの姿勢を形づくるもの。
これらの3つの要素は、どれも後天的に習得可能なものである。また、これらは3つすべてを等しく身につけて高めなければならず、どれかひとつでも欠けてしまえばリーダーシップを発揮することはできない。
リーダーの品格
リーダーシップを構成する三大要素のうち、リーダーの内面的要素である「品格」にはさまざまな定説があるものの、それらは「謙虚な姿勢」と「揺るぎない信念」の2つに集約することができる。
謙虚な姿勢
部下たちの人柄や能力を認めて思いやるとともに、彼らの意見に耳を貸して受け入れること
リーダーは、自身の部下たちの人柄や能力を把握し、彼らが「独立した自我を持つ一人前の人間」であることを認めなければならない。リーダーは組織を率いるなかで、時として彼ら部下たちから組織を成功に導くための有益なアイデアやフィードバック(改善案)を進言されることがあるため、それらをもたらしてくれる部下たちを対等な働き手として尊重するのである。あわせて、リーダーは、部下からの報告や相談事に親身になって耳を傾けることで、彼らから「このリーダーは自分の力になってくれる」という信頼を寄せられるようになる。
自身には能力が足りないことを自覚し、目標達成のために部下たちの持つ力を求めること
組織が達成するべき目標は、往々にしてリーダー個人の力だけでは到底成し得ないものばかりである。そのため、リーダーは、組織が直面している目標を達成するために、自身の部下たちの持つ力を目標に向けて結集しなければならないのである。
リーダーは、部下に対してはもちろんのこと、同僚や上司、部外の利害関係者たちに対しても、「目標を達成するために、あなたの力を貸してほしい」という真摯(しんし)な姿勢で向き合う必要がある。このような姿勢を見せることで、助力を求められた相手もリーダーに対して「この人の力になろう」という意欲を湧かせるのである。
自身のエゴを脇へと追いやり、功績をあげた部下を賞賛すること
リーダーは、目標を達成する過程で、時として自身より部下のほうが華々しい活躍をしているという事実に直面することがある。このようなとき、リーダーはいたずらにエゴ(自己中心的な姿勢)からくる嫉妬を募(つの)らせることなく、功績をあげた部下を誇らしく賞賛するのである。こうすることで、リーダーは部下たちに向けて「組織にとって何が一番大切か」という組織の価値観を改めて示し、彼らの仕事に対する意欲を高めることができる。
揺るぎない信念
目標達成の過程で発生するあらゆる困難に対して、あきらめることなく乗り越えようとする意志を注力すること
リーダーは、目標を達成する過程で、摩擦や制約といったさまざまな形の困難に直面するのが常である。このようなとき、リーダーは、自身と自身が率いる組織が持つあらゆる知識・技術を困難の解決に注力するという意志を示す必要がある。リーダーの下で働く部下たちにとっても、リーダーがこのような不屈の姿勢を示すことで、たとえ困難が熾烈(しれつ)を極めるなかであっても、リーダーを信じて解決へと突き進むことができるのである。
目標達成の過程で発生したあらゆる失敗の責任を、逃げることなくすべて引き受けること
リーダーは、目標を達成する過程で、時として看過できない重大な失敗に直面してしまうことがある。このようなとき、リーダーは「この失敗が起きたのは誰の(何の)せいだ」などと責任を他の誰か(何か)に負わせることなく、「この失敗が起きたのは私の指示が徹底していなかったせいだ」というように、目標に関するあらゆる失敗の責任を一手に引き受けるのである。この姿勢を見せることで、リーダーは、上司からも部下からも「この人は間違いを素直に認めることができる潔い人間だ」という尊敬の念のもとに評価され、彼らからさらなる信頼を寄せられるようになる。
不正を働いた部下に対して、たとえその部下がどんなに優秀だったとしても処罰を下すこと
リーダーは、自身の下で働く部下たちの人柄や能力を尊重しつつも、彼らから生じる差別(ハラスメント)や嘘偽り、そして不正については絶対に許してはならない。もしも、これらを知っていてなお見て見ぬふりをすれば「組織にとって何が一番大切か」という価値観を壊すことにつながり、容易に組織の崩壊へと至るのである。
このため、リーダーは、その不正の元凶が誰であろうと、厳正に処罰を下さなければならない。そうすることで、その勇気ある行いは組織を崩壊から守るとともに、組織の健全性を増すための一助となるのである。
リーダーシップの類型
リーダーシップは、その根本となる「品格」「知識」「実践」の要素は共通していながらも、発揮の仕方や部下たちとの関わり方によって、いくつかのタイプに分類することができる。
ここでは、ダニエル・ゴールマンの提唱する6つのタイプについて解説する。
強圧型リーダーシップ
部下たちに対して「俺の言うことを聞け!」などと、即座に服従することを要求するリーダーシップのあり方。
リーダーの率先した行動によって差し迫った危機的状況を打開する際に効果的な手法だが、部下たちのモチベーション(意欲)や心理的安全性(組織の雰囲気への信頼)に著しいマイナスの影響を及ぼす。
権威主義型リーダーシップ
部下たちに対して「俺についてこい!」などと、自身が示したビジョン(理想像)に向かうことを要求するリーダーシップのあり方。
リーダーの自信あふれる言動によって変革を推進する際に効果的な手法で、多少の反感はありつつも組織全体にプラスの影響を及ぼす。
親和型リーダーシップ
部下たちに対して「皆のことが第一だ」などと、調和を築いて共感を育むことを目的とするリーダーシップのあり方。
リーダーによるコミュニケーション能力を用いて部下たちにやる気を起こさせたいときに効果的な手法で、組織全体にプラスの影響を及ぼす。
民主主義型リーダーシップ
部下たちに対して「皆はどう考えますか?」などと、目標への参加をうながして合意を形成することを目的とするリーダーシップのあり方。
リーダーによるコミュニケーション能力を用いて部下たちからの意見を引き出したいときに効果的な手法で、多少の優柔不断さは生じるものの組織全体にプラスの影響を及ぼす。
先導型リーダーシップ
部下たちに対して「さあ、俺の立てた計画に従って進め」などと、リーダーの設定した軌道に乗せて目標を達成することを要求するリーダーシップのあり方。
リーダーの采配によって高い目標を手早く達成したいときに効果的な手法だが、部下たちに受け身の姿勢を強いることによって組織全体にマイナスの影響を及ぼす。
コーチ型リーダーシップ
部下たちに対して「さあ、やってみよう」などと、部下の自発的な目標達成をうながすことを目的とするリーダーシップのあり方。
将来に向けた人材育成を行いたいときに効果的な手法で、部下たちのモチベーションや心理的安全性を高めることによって組織全体にプラスの影響を及ぼす。
関連動画
TEDx Talks
ジョッコ・ウィリンク「リーダーの究極の責任感とは」(2017年2月)
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外部リンク
- リーダーシップとは?定義や理論、発揮するために必要なスキルを解説 - JMAM 日本能率協会マネジメントセンター(2024年11月19日)
- リーダーシップ - Wikipedia
- 機能的リーダーシップモデル - Wikipedia
- 軍事的リーダーシップ - Wikipedia
参考文献
- フランシス・ヘッセルバイン、リチャード・キャバナー、エリック・シンセキ(著)、渡辺博(訳)『アメリカ陸軍リーダーシップ』 生産性出版 2010年4月30日初版発行 ISBN 978-4-820-11943-2
- ジョッコ・ウィリンク、リーフ・バビン(著)、長澤あかね(訳)『米海軍特殊部隊 伝説の指揮官に学ぶ究極のリーダーシップ』 CCCメディアハウス 2021年7月27日初版発行 ISBN 978-4-484-21108-4