概要
三式潜航輸送艇は、大日本帝国陸軍が建造した輸送潜水艦である。
通称は、まるゆである。
歴史
大日本帝国陸軍が建造した理由
そもそも何故陸軍がこんな潜水艦を所持していたかと言うと…
1942年のとある日の大本営…
陸軍「ガダルカナルに上陸した兵士に補給物資送ってほしいんだけど」
海軍「米帝の攻撃が激しくて無理。鼠輸送も満足にできないし」
陸軍「潜水艦使えば敵にばれずに輸送できるじゃん」
海軍「そういう艦じゃねえからこれ!物資輸送なんてやめて艦隊攻撃したいんだけど」
陸軍「お前らの方から泣きついておいて前線の兵士を見殺しにするのかタコ!」(海軍が泣きついてきたのは事実である)
海軍「そんなに言うなら自分達でやれよ!潜水艦用意するからそっちで何とかしやがれ(今はそんなもんねーけどな)!」
陸軍「海軍の指図も施しも受けるか!もう俺らで潜水艦作るからな!」
…と、ざっくり言うとこのような経緯で誕生する事になった。
ちなみに潜水艦の供与を拒否した理由は「海軍に潜水艦運用の権限を奪われるのが嫌だった(というか海軍が艦隊決戦に縛られすぎていたこともあって、現実的にも不都合だった)」から。仲良くしろよお前ら…
(その他、当時は供与予定の潜水艦が存在していなかったこと等々、様々な理由から陸軍で独自に建造することを決定した)
建造開始
いらぬ摩擦を起こさぬよう海軍に内密で開発を開始したため、この潜水艦の存在は秘匿され、設計開発は陸軍が独自に行った。
その独自性は徹底しており、海軍工廠ではなく(というより造船所は大体海軍に押さえられていたため)民間のボイラー工場・製鋼所など4社に製造を頼むのは序の口、民間の潜水艇開発者に助力して貰ったり、戦車用の装甲を転用して耐圧隔壁にしたり、
「操縦も砲も通信もエンジンも詳しいんだろ?」という理由で戦車兵を転属させたりとてんやわんやである。
尚、実際に建造に関わった、21世紀になっても知名度のある企業を挙げると日立製作所、神戸製鋼所(KOBELCO)、ダイキンなどがある。
だが最終的には海軍も「海軍の邪魔をするでも無いし、陸軍が独自の輸送力も持てば海軍としても楽になる」という理由で、あれこれ協力してくれたようだ。
そしてその涙ぐましい努力の末、ついに1943年10月に第一号が完成(ちなみに建造期間は基礎設計に2ヶ月、建造に9ヶ月の異例の早さ)。
海軍を脅かす潜航試験
1943年12月、満を持して陸軍は海軍関係者を招待し潜航試験を実施する。その結果は…
潜航艇の中の人「ん?おっと、トリムの調整が難しいな」
潜航艇の中の人「こうか…?」
潜航艇の中の人「うまく潜れないな…っと、ようやく潜れたかな?…ん?」
陸軍「見ろ!ちゃんと潜航したぞ!やったー!!バンザーイ!!」
海軍「…いや、ちょっと待て、あれ沈んでるだろ!?」
まさかの沈没。なお乗員は必死の努力の末になんとか浮上に成功し、無事救出されました。
この逸話は陸軍の「アホの子」ぶりを示すエピソードであるが、この話にはちゃんとした理由がある。
戦後発行された雑誌「偕行」にまるゆ乗組員の座談会が掲載されたのだが
「海軍の急速潜航は、航海中に四つのヒレを使って潜るんです。ところが陸軍の方は七研(第七技術研究所)がうまく設計したんですね。停止したまま沈む。そういう安全性はあったんです。それをむしろ建て前にして設計したらしいんですね」
「日立の笠戸工場でテストのとき(引用者注:上記の初テストのこと)に海軍の参謀が私のわきで、垂直に沈むなんて、海軍の常識では考えられない。『危ない、危ない』なんて最後までいっていた(笑い)」
(土井全二郎「陸軍潜水艦」より引用)
という具合である。たとえ沈没しなかったとしても、ノリノリな陸軍をよそに、海軍から見れば危なっかしい船であったらしい、ということは間違いない。
だが陸軍としては「とりあえず潜水と浮上が機能した」という最低ラインをクリアしたことで一応の成功扱いとなっている。
三式潜航輸送艇の評価
主な欠陥
- 潜航深度計がない
潜航深度計が無いため、深度測定が勘頼りでまたに海底にぶつけたり、気がついたら限界深度超過で圧潰しかけて九死に一生を得たということも起きた。
- 当時標準だった水洗トイレがない
排泄物をドラム缶に貯めこんで艦内が異臭に満ちていた(荒天の時はお察しください)
- 居住スペースが劣悪
艇長室でも畳一畳分しかなかった(船員などお察しください)
- 水漏れや機関不調
最後まで関係者は不具合というか不備には苦しめられ続けた。
建造方式
開発体制は上述する通り泥縄式ではあったが、ブロック工法を採用していたために生産性は高く、終戦までに40隻を建造。陸軍が潜水艦という特殊な艦艇を短期間でそれなりの数実戦に投入した実績は評価されてよい。
4社にわたって建造依頼したため、制式形式は同一であるのもかかわらず4種類の設計があった。ただしこれも、民間のメーカーに大量建造を行わせるときにしばしばとられる手法で、海軍でも輸送艦などで取っていたし、アメリカの駆逐艦や対潜護衛艦、護衛空母なども、最低限の仕様を満たせば造船会社ごとの裁量が許されていた。
潜航能力
また安全潜航深度110mは海軍の潜水艦と比しても優秀な部類に入る。事故による喪失もフィリピンに派遣された内の1隻が座礁して海没したのみ。海軍なんか大戦期だけで何隻事故で沈めてるやら。
運用面
モグラ呼ばわりされつつ健気に地味な任務を遂行し続けた三式潜航輸送艇のお陰で、飢餓地獄や物資窮乏から救われた将兵は少なくなかったという。三式潜航輸送艇が搭載できる物資の量は米換算で24トンだったが、この量は2万人の1日の食事を賄える量だった。孤島の陸軍兵士たちにとっては彼女はまさしく「幸運を運ぶ船」だった。
海軍の協力
「陸海軍がもっと積極的に協力していればより優秀な潜水艦作れたんじゃね?」と思った貴方は決して間違っていない。
実際海軍が本格的に設計に協力したゆII型(ちなみにその試作型には「潮」という名前が付けられていた)は居住性や物資搭載量、航洋性などの問題をある程度解決していた。終戦には間に合わなかったけどな!
ただ、開発には人材などそれなりにリソースが必要であり、対米戦の真っ只中で海軍の技術リソースを間引く事態を避けたという考え方も出来る。なにせゆII型に協力したとは言っても、主力の連合艦隊も滅んでいるこの時期には要はもうそれぐらいしか海軍に出来ることはなくなっていたのだから。
なお海軍も結局まるゆを上回る丁型潜水艦や丁型改潜水艦、潜輸小型潜水艦といった輸送潜水艦に手を出すが、特攻兵器の母艦として使用されたり就役が戦争末期だったこともあり、あまり目立った活躍はしていない。
同型艦
ゆI型
ゆ1級
ゆ25 ― 未成
ゆ1001級
ゆ1011 ― 未成
ゆ1012 ― 未成
ゆ1013 ― 未成
ゆ1014 ― 未成
ゆ2001級
ゆ2003 ― 未成
ゆ2004 ― 未成
ゆ2005 ― 未成
ゆ2006 ― 未成
ゆ3001級
ゆ3005 ― 未成
ゆ3006 ― 未成
ゆ3007 ― 未成
ゆ3008 ― 未成
ゆ3009 ― 未成
ゆ3010 ― 未成
ゆII型
潮 ― 未成
三式潜航輸送艇をモチーフにしたキャラクター
・・・三式潜航輸送艇を一纏めに一つのキャラクターにした擬人化キャラクター。
関連タグ
西村式潜水艇
→陸軍に所属した潜水艦系列の仲間