概要
北朝鮮の初代最高指導者金日成が提唱した理念で、マルクス・レーニン主義を朝鮮半島の現実に適用して創造発展させたものであり、「人間が全ての事の主人であり、全てを決める」という信念を基礎としているというのが公式見解である
……が、朝鮮労働党ひいては金日成が人民が主体性を持てるように指導しなければならず、その指導に人民は従わなくてはならないという、派手に矛盾した内容を孕んでいる。
それもそのはずであり、主体思想が整備されたそもそもの理由は、ソ連でスターリン批判が行われ、もうひとつの社会主義大国である中国は文化大革命に突入して中ソ対立を起こすようになったため、スターリン主義を掲げれば中国の味方とみなされ、それを否定すればソ連の味方とみなされるという国際状況になったことによる。
両国双方と交易をしないと経済的に厳しい環境になってしまう北朝鮮としては、中立を標榜するためにソ連式でも中国式でもない共産主義思想を掲げる必要があった。だが、だからといって国内の政治体制を改変する気はさらさらなかったので、少し異なる論理を用いて一からスターリン主義を構築しなおさなくてはならなかった。
つまり「スターリン主義≒主体思想」と認識しておけば、だいたい合っている。
先軍政治
主体思想に並ぶ北朝鮮の政治思想である「先軍政治」についてもついでに解説する。
これは第二代最高指導者金正日が提唱した政治手法であり、軍隊を革命の主戦力と認識する思想である。
つまり労働者を共産主義革命の主戦力と認定するマルクス・レーニン主義とは根本から異なる思想である。
これはソ連崩壊がきっかけで整備された思想であると考えられている。というのも、社会主義諸国が軒並み崩壊したため、なぜ社会主義は絶対に勝利する思想だと定義してきたのに崩壊してしまったのか北朝鮮政府はもっともらしい言い訳をでっちあげなくてはならなかった。
そこで「他の社会主義国は先党方式、つまり先に労働党を打ち立て、軍をその添え物として扱ってきたので、軍が反革命に同調した」とし、「その点、北朝鮮は先に金日成の革命軍が先にあり、党を建設して革命軍を正規軍へと強化発展させるという、先軍方式で革命を進めてきた」とし、だから北朝鮮の共産主義は不敗のままだとした。
……つまり「軍が反乱を起こさないように軍を優遇する」と認識しておけば問題ない。
なお、明らかにマルクス・レーニン主義と矛盾している概念なのだが、第三代最高指導者金正恩の時代まで両方ともなぜか労働党の理念として掲げている。
ただ金正恩は非軍人の文官や科学者といった層の労働党員をも重用する姿勢を見せていたり、1980年を最後に約30年にわたってほぼ形骸化していた朝鮮労働党大会を重要な行事のひとつと位置付けて復活させる(2024年現在までには2016年と2021年の2回開催されている。元々の規定では5年に1度となっていたので今後もその周期で行われる可能性がある)など、金正日よりは労働党側の組織も重視しているようである。党と軍のバランスを彼なりに見直そうとしているのかもしれない。