概要
機材によって子宮、胎内環境を再現し、生物の胎児を生かし続ける装置。
動物での成功例
- ヒツジ用
未熟児にあたる時期の胎児を母羊から取り出し、羊水がわりの液体と共にビニールパックのような形状のポリエチレン製容器「バイオバッグ」に収め、追加の成長をさせることに成功。解剖の結果、臓器も正常に機能していることが確認された(“人工子宮”で羊の赤ちゃんを育てることに成功)。バイオバッグはヒト向けへの応用をめざして研究が進められているとのこと(人工子宮で未熟な羊に「追加の成長」をさせることができた)。
- ヤギ用
日本の順天堂大学の桑原慶紀教授らがヤギの胎児を、人工羊水を満たしたプラスチックの箱の中で育てることに成功している(人工胎盤によるヤギ胎仔の潅流培養)。
- ウサギ用
こちらは体外の機材という形ではなく、細胞が定着し育つための土台を生分解性ポリマーで制作し、子宮内膜由来細胞をくっつけて、純粋な天然の子宮のように機能するバイオエンジニアリング子宮として完成させたものである。バイオエンジニアリング子宮をもつ雌のウサギ10羽と雄と交尾させたところ4羽が妊娠した(人工子宮での妊娠、出産はすでに起こっている……遺伝工学研究者が「大学は役に立たない」に反論する理由)。
- サメ胎仔用
「沖縄美ら海水族館」における研究。深海に棲息する卵胎性の発光ザメ「ヒレタカフジクジラ」の妊娠個体が採取された後、その個体が死亡。胎仔が摘出され装置とつながれた。146日間の生育と擬似的な出産に成功(世界初!人工子宮装置をもちいた深海の発光ザメ「ヒレタカフジクジラ」胎仔の育成・人工出産に成功!)。
ヒト用
2022年9月中旬現在、国際法において2週間以降のヒト胚の研究は禁じられており(女性の胎内で育てる必要はなくなる? ロボットが胚から育てる人工子宮システムを中国が開発)、受胎・着床からの生育を再現したヒト人工子宮は研究すらされていない。
ある程度育ったヒト胎児を育てる人工子宮の研究についてはバイオバッグという形で端緒がつきつつあるが現状では未完成である。
しかし、技術的には実現不可能なものではないという識者、研究者も存在する(人工子宮は未来への希望かディストピアか。実現の可能性を専門家に聞いた)。
現時点では、ヒト人工子宮はフィクションの中のみの存在となっている。デザイナーベビー、試験管ベビーのテーマと組み合わせた作品も複数存在する。
哲学的・思想的観点
第二波フェミニズムの牽引者の一人であるラディカル・フェミニスト、シュラミス・ファイアストーン(Shulamith Firestone)は自著『性の弁証法』において人工子宮を「生殖生物学の圧政」から女性を解放するものと強く支持している。
金沢大学サイトで掲載されているリベラル・フェミニスト、イーヴィー・ケンダル(Evie Kendal)教授へのインタビュー「人工子宮がもたらす新たな世界」において彼女は代理母出産や子宮移植と比較して、人工子宮が一番良い選択肢だと思う、と述べている。
ただしその運用され方によっては、例えば人工子宮の場合は中絶の選択肢を認められない、子供を育てられないという理由付けによる不許可、といった形で差別がなされ、女性への差別が助長されるおそれがあるともしている。
一方、南メイン大学のジュリアン・マーフィー(Julien Murphy)教授は、「体外出産(人工子宮)は女性の神聖な能力を放棄することであり、現在フェミニストたちの激しい反対の声を巻き起こしています」と述べている(代理母すらも不要に!? 2034年、人工子宮で人類が出産から解放される日)。
マーフィー教授自身も人工子宮といった体外発生(Ectogenesis)をテーマとした著作『妊娠は必要か?体外発生についてのフェミニストの懸念』(Is Pregnancy Necessary? Feminist Concerns About Ectogenesis)がある。
マーフィー教授は喫煙者、薬物使用者、飲酒習慣があるがそれを変えたくない女性もその恩恵を受けられる可能性がある、という指摘をしているが、これについては薬物濫用という問題そのものを解決できるものではなく問題がある、という反論もなされている(The artificial womb — a fast-approaching frontier for humanity?)。
人工子宮が登場する作品
pixivにイラストがあり、ピクシブ百科事典に項目がある作品では以下のような例がある。