解説
通常、裁判で有罪判決が言い渡されると同時に課される刑が明らかになる。
現代の日本の場合、刑務所に収監されて刑務作業に従事する懲役、同じように刑務所に収監されて刑が終わるまで毎日正座して過ごす禁錮、被告人の死を以て刑の執行が完了となる死刑、ある一定額の金銭を支払って刑の執行となる罰金があり、このうち懲役、禁錮、罰金に執行猶予が付される事がある。
執行猶予は1年から5年の間で設定され、この期間中に何の犯罪も犯さなければ逮捕されて刑務所に収監されることもない。
執行猶予が付く法定条件は
- 以前に禁錮以上の刑に処せられたことがないか、あるいは禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行の終了又はその執行の免除(執行猶予の場合はそれを受けた時)を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられていない者…言い渡された刑が3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金であるとき
- 前に禁錮以上の刑に処せられたがその執行を猶予されている者(保護観察に付されている場合はその保護観察期間内に更に罪を犯していない者であること)…言い渡された刑が1年以下の懲役または禁錮であるときもしくは禁錮以上の刑に処されたがその執行を猶予され、前回の刑が確定して10年前後またはそれ以上経過している場合(いわゆる「再度の執行猶予」)
となっている。
あくまでも犯罪者の更生を促すことを目的とした制度であるため、執行猶予後に再び犯罪を犯して起訴された場合は、反省する意思が無いと見なされて量刑が通常以上に重たくなることは十分ありうる。
また、執行猶予を満了して刑が消滅しても、それはそのまま無罪放免という意味ではなく、「執行猶予付き刑を言い渡された」という事実自体は(広義の)前科として残るため、社会的な不利を被る可能性もある。(※)
さらに刑の消滅に伴って法律で定められた資格制限も将来に向けて無くなることになるが、刑の言い渡しによって失効あるいは停止されたそれまで持っていた資格がそのまま戻ってくることも無い。
また法改正により、2016年から禁固(懲役)の一部執行猶予が施行された。これは求刑の一部を執行猶予付き有罪判決とするもので、たとえば懲役3年内2年は執行猶予5年となった場合、懲役から執行猶予付き期間を差し引いて残り1年は先に刑務所に服役しなければならない。
※なお、あくまで、ここで言う前科はあくまで「広義の前科」(法律用語としての前科ではなく、裁判所に「犯罪を行なった」という事実が認定された状態で判決が確定したという「事実」)であり、日本の法律では、執行猶予期間を無事終えれば、法律上は前科とならない。
例えば、初犯で執行猶予を無事終えた後に就職しようとした場合、履歴書の賞罰欄に何も書かなくても、少なくとも法律上は就職先を騙した事にはならない。(バレた場合に就職先にどう思われるか?や、それを理由に解雇された場合、法的にどちらが悪い事になるのか?は別問題)
ちなみに、大麻関係で逮捕され執行猶予付き判決を受けた芸能人が冗談で芸名を「前科おじさん」に変えた所、執行猶予終了後に「法的には前科は付いていない」事を知った、という冗談のような実例も有る。
国外では死刑にも執行猶予が存在する中国のような例もある(ただし、期間を過ぎても死刑判決が完全消滅するわけではなく終身刑以下に減刑されるのみである。また、期間中でも刑務所に収監される)。
求刑禁錮(懲役)3年を超える場合でも執行猶予が付く可能性
可能性としては低いが、求刑禁錮(懲役)3年6月の場合は情状面で6月減刑されて執行猶予が付くこともある。
求刑禁錮(懲役)4年~5年の場合は被告側の弁護人は、極めて優秀だと付く可能性もまだある。
求刑禁錮(懲役)5年6月以上だと執行猶予の獲得はほぼ不可能となる。