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概要

稲生物怪録』に記述される怪異の1つ。

稲生平太郎が七月七日の七夕に稲生家に出現した妖怪で、朝、七夕のあいさつ回りの為に逢いに兄や伯父の家を回っていた平太郎は、自分の家に化け物が出るという噂を聞きつけた人々からその事についてばかり尋ねられるので、虚言だと疑われてもつまらないと思いさっさと自宅に帰り、その後は外出せずに家で過ごすことにしました。

用事で台所に行こうとした際にその入り口を塞いでしまう程の着物の裾が平太郎の視界に入り、不思議に思ってしばしば眺めていると、袖口からは擂木(すりこぎ)の様な握りこぶしのように丸い指をした奇怪な白い大きな手が出てきました。

観察を続けていると大きな手の指先からやはり同じ形状をした、しかし大きさは並みの人と同じ手が伸びてきて、さらに同じようなものが次々に指先からサボテンの様に分かれては次々と小さな手を生やして行き、次第に数えきれない程の擂木手がうじゃうじゃと蠢くようになりました。

平太郎は不気味な有様をものともせずに腕を捕まえようとするも、近寄ればその姿はかき消えてしまい、遠ざかれば際限なく腕は湧き出る始末であったので、結局傍観するしかあしません。

そのうちに夜半を知らせる鐘の音が聞こえて来たので、腕の事はほっといて、とっとと寝てしまおうと蚊帳の中に入ると、腕は寝床まで伸びてきて、その柔らかい手でペタペタと平太郎の顔を触り、うっとうしいので跳ねのけると、消えてしまいますが、無視して放っておくとまた湧いてきて触りに来るので、結局平太郎は一睡もできませんでした。

それからしばらくして明け方頃に平太郎は完全に無視して眠ればいいやとようやく開き直り、そのまま放置して眠りにつくと手も次第に消え失せて遂には跡形も無くなくなっていったという事です。

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