概要
初代三遊亭園朝がグリム童話『死神の名付け親』を日本式に翻訳・アレンジして創作したと言われている古典落語。
特殊な力を授かった男が欲呆けの末に破滅する典型的な風刺作品と云える。
内容は知らずとも、作中で死神を追い出す時に唱える「アジャラカモクレン、テケレッツのパー」という呪文は知っている。という人も多い。
三遊亭円楽による「死神」
あらすじ
ある男がいて、何をやってもうまく行かず、いつまで経っても人並みの生活をするのに十分な金額のお金を稼げないため、奥さんからは愛想を尽かされて、息子とともに実家に帰られててしまい、自分のダメっぷりに絶望して自殺しようとしていた。そこに、大川の近くの柳の木に痩せこけて顔色の悪い老人が現れて男に声をかけ、「俺は死神だ」と名乗る。
「お前と俺とは3代先から浅からぬ因縁があるんだ。苦しい生活をしてるようだな、助けてやろう。お前、医者になりな」
「そうは言いますがね、あたしゃあ生まれてこの方、患者の脈なんて取ったこたぁねえんですよ」
「なあに、そんなことはしなくていい。どんな重病人であっても俺たち死神が足元に座っていればまだ寿命ではなく、逆に症状が軽そうに見えても枕元に死神が座っている場合はだめだ、もう助からねえ。足元に俺たちがいる場合は『アジャラカモクレン、○○(ここには演者によって様々なワードが入る)、テケレッツのパア」と呪文を唱え、柏手をポンポンと二度打てれば俺たちは消えるから、それで医者を始めると良い。」と助言し、死神は消えてしまう。
男は半信半疑で家の外に医者の看板をかけたが、さっそく、さる日本橋の大店の番頭がやってきて主人を診て欲しいという。既にほうぼうの名医に診せたが匙を投げられ、藁にもすがる気持ちで男の家に来たという。男が店に行き、主人を見ると足元に死神がいたので、これ幸いと呪文を唱え死神を消して病気を治す。またたく間に元気になった主人は、男を名医と讃え、多額の報酬を払う。
この一件がまたたく間に広まり、男は名医として数々の患者を治し、その報酬で贅沢な暮らしを始める。しかし、物事にはやがて順調にゆかなくなることもある。それからしばらく経つと、男が訪問する病人はみな枕元に死神がいて治すことができず、しまいには男に頼む者が誰もいなくなり、再びお金に困るようになってしまう。
そんな折、大きな商家から声がかかる。男が病床の主人を見れば、また枕元に死神がおり、諦めるよう諭すが、たった一ヶ月でも延命できたらどんな額の大金でも出すという。積み上がる大金に目がくらんだ男は、一計を案じ、店の男手を集めると、主人の布団を持たせ、ぐるりと回して頭と足の位置を逆転させた瞬間に呪文を唱え、死神を消した。これによって主人はみるみる病状が改善し、大金の約束を果たすと男に言う。
大金をもらって飲み屋で豪遊し、すっかりいい気分で家路につく男の前に先程の死神が現れ、「馬鹿野郎、昼間はなんてことしてくれたんだ」と男をなじる。男は昼間の行為を言い訳混じりながらも必死に詫びるが、死神は「そんなことはもうどうでもいい。ついて来な、お前に来てもらうところがある」と答え、男をたくさん火のついた蝋燭がある洞窟へと連れてくる。
死神は、この蝋燭の1つ1つが人の寿命だといい、男の寿命は、間もなく死ぬ主人を助けてしまったために入れ替わってしまったと、今にも消えそうな蝋燭を指し示す。驚いた男が助けて欲しいと懇願する。
「死神さん、どうか助けておくんなさい」
「一度取り替えたものは、どうやったってもとには戻らねえんだよ」
「死神さん、そこをなんとか…」
「…しょうがねえ奴だな。いいか、ここに新しい蝋燭がある。そこにうまく火がつけば、お前の命は助かるって寸法だ」
死神は新しい蝋燭を差し出し、これに火を継ぐことができれば助かるという。しかし、男は焦ってなかなか新しい蝋燭に火をつけることができない。
「早くしないと、火が消えるよ。おいおい、どうした?ブルブル震えてるじゃねえか」
やがて「あぁ、消える…」の一言の後演者がその場に倒れ込み、演目は終わる。
下げのバリエーション
- 自分で吹き消してしまう
死神に「もう明るいから消したらどうだい」と言われ、つい息を吹きかけて自分の寿命のろうそくを消してしまうパターン。
- 死神が吹き消してしまうパターン
原作の「死神の名付け親」でも、主人公の振る舞いに腹を立てた死神が、寿命のろうそくにわざと火をつけないシーンがあるため、原作に最も近いオチである。
- 生存パターン
「あぁ、消える…」の言葉とともに、おかみさんの「何言ってるの!行灯の日を消したんだよ!(=もう朝だよ)」というパターンで、つまり今までの全備の出来事が夢だったということで、最も平和なオチである。
米津玄師の死神
上述する落語『死神』を元に米津玄師氏が作成した楽曲。
MVも上座仕立てになっている。