白い子供
かおのみえないこども
「君は誰だって殺せる。」
佐神善の回想に登場した謎の存在。南伊豆で行われた創血式失敗の後、意気消沈していた善を気遣ったドミノと彼が浜辺を散歩していた際の会話の中でその存在が明かされた。
ー5歳の頃、善は父の仕事の付き添いで船旅をしていた。その帰国便で善は同年代の子供たちと毎日遊んでおり、毎日が充実した素晴らしい日々だった。
そんなある日、善は物陰からいつもこちらを見ている少年の姿に気が付く。顔こそよく見えなかったが、その姿は何処か寂しそうだったので一緒に遊ぼうと誘おうとしたものの、善が近付くと少年は消えてしまう。周りの子供たちに聞いても、誰もその少年を見ておらず善は不思議に思っていた。
そんな中、善たちの乗っていた船は大きな嵐に巻き込まれてしまう。海が大きく荒れ、周りの乗客たちがパニックになりながら逃げ回る姿に幼い善は恐怖を覚え、部屋からいなくなっていた父を探して船内を彷徨う。
すると、嵐に晒された甲板に例の少年がうずくまっていた。しかもよく見ると顔に怪我をしているようで、善は慌てて甲板への扉を開けて少年を船内に逃げるように促すが、その直後に善は強風によって外れた鎖で頭を強打し意識を失ってしまう。
その後、避難船の中で意識を取り戻した善は救急隊員にあの少年がまだ船上に取り残されていることを伝えると再び意識を失ってしまう。客室名簿にある人間は既に全員揃っており、救急隊員はそんな存在があるはずがないと否定するが、万が一のためにと正義感の強い一人の隊員は甲板に向かう。
そして善が避難船再び意識を取り戻すと、乗客たちは善を非難するような恐ろしい目で見ていた。その状況に善は事態を察し、恐る恐る父に尋ねる。
善「……船は?」
父「沈んだ。」
善「ぼっぼくの…言葉を聞いて…助けに向かった人がいた……。あの人は…?」
父「……善。お前、本当に見たのか?」
事の真相は、彼が見た子供など初めからいなかったのだ。
ありもしない存在を助けた行くように彼が頼んだせいで、救急隊員は船の沈没に巻き込まれて死んだ。
この人間を間接的に殺害してしまったという事実は佐神善という少年に消えないトラウマを残し、今の彼の人間性を構成する大きな出来事になった。一話冒頭で彼が描いていた絵も、この少年が実在したと証明して自分は悪くなかったと思うための一種の現実逃避だったのだ。
しかしその後、この少年は ユーベンとの御前試合で暴走した善の精神世界に現れる。
善にユーベンと戦うように仕向ける言動を取り、明を助けるために戦闘を続けようとする善に、記憶を取り戻させようと言葉をかけ続ける。だが、
ドミノ「善…!アンタ!!!どこ見てんのよ!!!」
善「どけよ。前が見えない。」
ドミノの呼び掛けに一瞬だけ意識を取り戻し、ユーベンに攻撃されかけている明を見たことで善は少年を跳ね除け、その重すぎる柵に向き合い、嵐を超えて進んで行くのだった。
一見解決したように見えるこの少年にまつわるエピソードだが、実は多くの謎が残されている。
- 白い子供は本当にあの船にいたのか?
- 善は本当に彼を見たのか?
- 何故善だけしか彼を認識出来なかったのか?
- ユーベンやドミノなど、真祖が現れる時の影も白いため何か関係があるのでは?
- 何故創血式以外で善の精神世界に現れるのか?
- 火防やドミノなどの実力者は善と別の存在を重ねて見ているが…?
- ドミネコから見た善の顔は、あの少年のものとよく似ているが…?
…など。
第154話『人の模倣者』にて、少年は再び善の精神世界に現れる。
火防のD・ナイトWMDを受け肉片と化した善の肉体は再び暴走し、超巨大な人型の怪物となっていた。朦朧とする意識の中、善は「僕の体…こんな形だっけ?僕の本当の形は…。」と疑問を浮かべる彼の前に姿を現す。
「そんなものはないよ。でも、何にでもなれる。」
と言葉を掛けると、ユーベン、日ノ元の心臓を喰らい暴走した先生を「エサ」と評し、善を彼の元へと向かわせる。その道すがら、自分たちが誕生するまでの経緯が彼の口から語られる。
「記憶を辿るんだ。この世界の、最も熱い炎の中から、、最も冷たい海を超えて。灼かれ凍え、全身から血を流しながら…僕たちは生まれた。模倣は生き物の本能だ。同種しか受け入れられない。生きるために真似る。
だから、君も人を真似た。」
そう、佐神善の正体とは白い子供そのものであった。正確には、善の姿を真似た全ての頂点に立つ生物。本物の善は既にあの客船において、鎖で頭を打ち死亡しており今の善は本物ではなかったのだ。
そのまま白い子供は「僕たちがこそ頂点である」と語ると、七原や京児、明のような、『時を経て醜く弱い生き物になった現代の人間』を無視し、かつての美しい人間であり、王の姿そのままである存在を殺し、食らえと命令する。
だが……
「先生。決着をつけましょう。」
元の姿に戻った善は矛先をドミノではなく、変わり果てた倒すべき存在に向け、長きにわたる因縁を清算すべく拳を握るのだった。
「なぁ…なぜ君は…人の真似をやめない。」
善のそんな姿を見た白い子供は、呆れながらそう呟く。その顔はある人物にそっくりであった……。
✳︎更なるネタバレ注意✳︎
第158話『炎を超えて海の底から』にて、ついにこの存在の正体が明かされる。
死に瀕し、灰となって崩れるドミノを目の当たりにした善は謎の力で彼女の肉体の崩壊を押し留める。限界を超えた力を行使したことで半身が人外化し、自らの出自を薄らと思い出す善の前に、少年は再び姿を現す。
『人とは、違う生き物だ。』
この期に及んでも死にかけのドミノを喰らえと命令するが、現在の彼女が生と死の狭間にいることに気が付くと、『今の君の力じゃこんなもんか』、と彼の力を知っているかのように吐き捨てる。そして善こそが5人目 であること、かつての善の記憶の中の最も近いイメージに言動が寄っていることを伝えると、遂に彼は自らの正体を開示する。
善『なんなんだよ…!!お前は…!?』
「ゴア」
その正体は、物語における黒幕とも呼べる存在であるゴア。
人間の言葉を解さないゴアが、佐神善という人間と交信する際に、彼の深層心理にある記憶と同調して現れた存在こそが白い子供の正体であった。
以後は彼が意識を失った際に度々現れ、ゴアの意思を代弁するような言動を多く取るようになる。
「退屈なんだ。座して待つのは。」
その後の動向はこちらの記事へ。
善の正体は白い子供ではないかとかねてから考察されていた。そして真相が明かされたことで、彼にまつわる多くの謎は一気に解かれる形となった。
- 善の父が彼に対して妙に冷たいのは、恐らく今の善が自分の息子ではないことに気が付いているからであった。
- 真祖すら怯ませるあの殺気は、彼の正体がゴアに近しいものであるためだと考えられる。(日ノ元の回想にて、ゴアが現れた際の翼が善のものと全く同じであったため、既に伏線は張られていた。)
- 彼らは耐久力が尋常ではなく、第156話に於いては善は堂島の放った熱線で心臓ごと上半身を吹き飛ばされたにもかかわらず、次のページには再生していた。加えて、マントルや深海の気温や圧力に耐えるだけの耐久性を持ち合わせており、この生物達を葬ることは極めて困難である。