概要
飛信隊副長・羌瘣の出身部族の名で、部族が輩出する最強の刺客の称号でもある。由来は、中国神話に登場する同名の軍神「蚩尤」と思われる。
1000年以上中国史の闇で暗躍してきた伝説の暗殺者一族で、本来は神に仕える巫女が祭祀で奉じた剣舞が、世の乱れに従って変容したとされる、巫舞(みぶ)という独特のステップを伴う呼吸法を駆使し、超人的な剣技を実現する。
その所以故か一族は皆女性であり、時代が降るにつれ幾つかの支族に別れたが、それぞれが独自の巫舞を開発して技の研鑽に励んで来た。人里離れた山奥で長老格の老婆の元に集団生活を送るが、異性との接触が絶たれた環境で育つ故に性の知識に乏しい初心な者が多く、若い女達には年相応の恋愛に憧れる一面もある。蚩尤になれれば山を出られるため、恋人となる男性に出会うため蚩尤を目指す者もいる。
巫舞を修めた者の技量と速さは作中でも群を抜き、初太刀で複数人の首を刎ね飛ばすなど常軌を逸した強さを誇る。無論自身より体格に優れる男性にも切り負けない。ただ巫舞には個人差もあるため、その点で使い手の得意とする戦況や相手も変わってくる。
しかし蚩尤の強さの本領は、一族間で長きに亘って行われてきた祭(さい)と呼ばれる因習にある。その内容は、身内を含む各支族から2名ずつ選抜された代表で殺し合いをするという凄惨且つ苛烈極まりないものだった。この戦いを勝ち抜いた唯一人が蚩尤を名乗ることを許され、外界へ出る事が出来た。
そうした残酷な運命にあって尚、女達は家族として仲睦まじく育てられ、その結果姉同然に慕っていた者を殺され復讐鬼と化す者や、実妹を手にかけ精神を病む者など、様々な悲劇の犠牲者を産むことになった。支族から代表が2人選ばれるのも、愛する者同士の殺し合いまでも想定しているが故である。
しかしこれこそが蚩尤の本質であり、自身に絡みつく現世の未練や情を断ち切って初めて冷徹な刃を振るうことが出来るという。
とはいえ、相手か己かのいずれは必ず死ぬこの因習に肯定的な者は少なく、中には死の恐怖に負け、祭を拒んで逃走した者もいる。また祭については様々な掟が定められているらしいが、本編当時の時点で策略や不都合によって平然と無視されるようになっており、かなり緩くなってきていることが分かる。寧ろ掟を真面目に守る者自体珍しいようで、羌瘣の姉貴分・羌象はこの事で裏切りに遭い、命を落とす結果になった。