「退がるな信っ!! 不退こそがお前の武器だぞ!!」
「毒の強弱など関係ない。勝負の別れ目は結局俺とお前のどっちが強いかだ」
「……気にするな 俺はもう何度もお前につかまっている」
「最後まで戦うぞ秦の子らよ 我らの国を 絶対に守り切るぞ!!」
「中華を分け隔てなく上も下もなく 一つにする そうすれば必ず俺の次の世は 人が人を殺さなくてすむ世界となる」
曖昧さ回避
概要
CV:福山潤(アニメ版)、金田アキ(幼少期) / 朴璐美(VOMIC / ゲーム)
演:吉沢亮(実写映画版)
秦国の若き王。後の始皇帝。『キングダム』のもう一人の主人公である。
性格は冷静でポーカーフェイスを崩さないが、昌文君や信たちの事を信頼している。武芸の心得もあり、当初は信を片手で持ち上げたり信を背負った状態で一昼夜走り抜いたりなど腕力・身体能力も高い。
王都奪還の際、中華を統一する最初の王になると公言する。
後宮にいる向との間に麗という王女が産まれている。また、他の宮女との間に太子・扶蘇を儲けている。
鋭い観察眼に裏打ちされた現実主義者であるが、その胸の内には熱い情熱を秘めている。政治の実権を呂不韋に握られているためその実力を知る者は少ないが、天下を取るに相応しい度量の持ち主である。第38巻で加冠の儀を迎え成人を果たしたため、いよいよ政本人が親政に乗り出す事となる。
陰惨な過去に反して他者への仁愛も忘れておらず、非礼ばかりの信や平民上がりで宮廷事情に疎い向にも非常に寛大。しかし優しさと表裏一体の甘さも捨てきれておらず、毐国の反乱において、主犯格の嫪毐は処刑しても政敵となる危険のある彼の子供達は、表向きは史実通りに処刑したことになっているが、密かに助命している。
一方で作中で彼の胸中を理解できる者は皆無と言って良い。
信や昌平君などの将軍は銘々が政の語る統一事業に希望を抱いた故に共に戦っているに過ぎず、嬴政の目指す法治国家を正しく理解した上で協調している人物は作中で見られない。立法については李斯が重要性を理解し日々考案しているが、当時はそれ以外の官民が理解できるほど安易な思想ではない。尤も作中時点では戦の世しか知らない人々が大半を占める世界で、未知の領域たる統一国家の運営や法治主義について想像し辛いのは已むを得ず、それだけ政の掲げる理念は前衛的であった。
事実、呂不韋、王建王、桓騎等作中の現実的な大人達は、若き嬴政が語る中華統一や『人が人を殺さなくても良い世界』に対し夢物語を感じて難色を示している他、韓非子も嬴政に理解を示して協力した訳でもない(韓非子はスパイ目的で秦に入国したと思われる)。
史実で秦がいずれ辿る運命の中で、『キングダム』における政の夢見た世界が何なのか、明らかになる時は果たして来るのだろうか。
以上のように、それまでの残忍・狡猾・冷徹なイメージでとらえられることの多かった始皇帝像とは相反するキャラクター造形であり、『キングダム』という作品の特異性を担っているキャラクターである。
出生の闇
秦国統一編の政治的なストーリーにおいて、彼の出生は重要な位置を占める。
史実を見ると彼の出生には呂不韋が関与しており、秦国の統一まで呂不韋との関係性については政治的な関係以外も作中で言及されている。
以下は史実から推測した呂不韋の来歴も含めた本作のネタバレになるので、史実を知らない人は一度本漫画を読んでからの閲覧を推奨する。
紀元前262年(『キングダム公式ガイドブック 英傑列記』より。長平の戦いが始まったばかりの頃)、呂不韋が商人だった頃、趙の人質だった秦の公子の異人(嬴政と成蟜の父、荘襄王)に将来性を見越して接触した。
異人は、当時の秦王・昭襄王の太子・安国君(昭襄王の次の秦国王である孝文王)の子だったが、多数の兄弟の存在と、異人の母・夏姫からの寵愛を失っており次期国王としては絶望的な立ち位置だったものの、呂不韋には勝算があったという。
呂不韋は異人に金を渡して趙での社交界進出を指導し、自身は安国君の寵姫の華陽夫人や夫人の姉にアプローチし、夫人の姉を通じて、異人を夫人の養子にした。
華陽夫人は安国君に寵愛されていたが未だ子がなく、このまま年を取ってしまえば自らの地位が危うくなる事から、異人は安国君の世子となり、呂不韋は異人の後見人になった(この後異人は子楚に改名している)。
紀元前261年時点で呂不韋は平民の趙姫(嬴政の母。趙出身の為この名で呼ばれ、本漫画では美姫または太后と呼ばれる)を寵愛し、趙姫もまた呂不韋を愛し許婚だと思っていたものの、子楚が趙姫を譲ってほしいとせがんだため、出世のため趙姫を子楚に譲った。
そして、紀元前259年、趙で嬴政を出産した。
史実では子楚の子として強引に扱っており、本来は呂不韋の子だった説もあるが、本漫画では後者の説は史記『呂不韋列伝』の引用により出産日が計算に合わないため否定されている。
こうして異人(子楚)は呂不韋による暗躍の結果、秦国の太子に推される約定を得ていたが、曾祖父の昭襄王(昭王)が趙を攻めた紀元前258年では、未だ趙の首都・邯鄲に残っていた。
紀元前257年に昭襄王は王齕に命じ邯鄲を包囲したため、子楚は趙側で処刑されそうになるも、呂不韋が番人を買収したことで、秦へ脱出することに成功した。
しかし、脱出の手引きをした呂不韋でも、妻(太后)と子(嬴政)は脱出させることができなかったため、親子は邯鄲の包囲が解かれた後も人質として、(紀元前260年に起こった長平の戦いの)憎悪の対象として趙人に虐げられていた。
紀元前249年、昭襄王が没すると、呂不韋の画策通り、安国君が次の秦国王、子楚が太子になることは決まっていた。
即ち、安国君が崩御した後は、子楚が秦国王、嬴政が太子になるため、嬴政に王位継承の話が巡ってくることになる。
このため昭襄王が没して三日後、紫夏ら闇商人などは嬴政を秦に送る仕事を請け負い、最終的に嬴政は秦へと脱出した。
ちなみに安国君は即位から三日後、即ち嬴政が邯鄲を脱出するのと同じタイミングで崩御している。
なお、太后は嬴政が太子になった辺りに趙から秦にやって来ており、後宮の長に至ったようだ。
紀元前246年、荘襄王となった子楚が僅か三年で崩御し、当時十三歳だった嬴政が王位に就くに至ったのである。
上記を要約すると、長平の戦いで敵対していた二国、秦の王族の男と趙の平民の女が呂不韋の野望によって引き合わされ、敵地・邯鄲の中で産まれた呪われた王子、それが嬴政である。
だが、その呪われた王子は、未だどの国の王も成し得ていない大業を志す恐るべき考えを持った王子でもあった。
秦人、あるいはそれ以外の人間などと分けるから、争いが起きる。それは昔から続いているから、あたかもそれは当然のように思われるが、中華五百年の戦いの激化に伴い、国境に長い防壁を築かせ、内と外、敵と味方をさらに明確にした。
一時の安定に留まらない長期的な平和を築くため、今後の中華五百年に起きる争乱を無くすため、全国境の廃止を掲げ、力ずくでこの争乱を終わらせる、即ち中華を統一する最初の王になることが嬴政の目指すものであり、趙で人質になった時からこの考えを持っていた。
関連イラスト
余談
アニメでの担当声優福山潤氏はゲーム『Fate/Grandorder』にて、始皇帝を演じている。
アニメ3期では担当声優はオギコも兼任した(ただしノンクレジットである)。
実写映画で嬴政を演じる吉沢氏は、『キングダム 運命の炎』にて当時9歳の嬴政も本人の意向でそのまま演じたため、ファンからは「成長著しい嬴政」とネタにされた。(ちなみに、信の幼少期は当時子役だった大西利空氏が、嬴政と瓜二つの漂の幼少期をこちらも当時子役だった南出凌嘉氏が演じており、さらにギャップが恐ろしいことになってしまっている。)
関連タグ
ルルーシュ・ランペルージ…中の人繋がりの他、時代も世界観も規模も異なるが、国を追われた皇子で最終的に玉座に座り天下を統一する点も共通。
オーマジオウ…作中で最低最悪の魔王と評されたものの、映画にて事実が歪められているだけで正義のために行動したことが示唆されており、奇しくも史実では残忍だが本作では戦争を無くすために行動する嬴政と通じる。また担当声優は秦の最後の六大将軍であり、彼の存在が敵味方問わず多くの作中人物の人生に影響する点も共通する。