はじめに
本項目は、アニメ映画『すずめの戸締まり』の核心に深く関わる内容を掲載しています。
作品を鑑賞された方、もしくはネタバレに自己責任を持てる方による閲覧を推奨します。
概要
数百年に一度来るような巨大な災いを封じ込めるために、はるか昔から日本列島の西と東に祀(まつ)られ続けている不思議な力を持った2つの石像。この世の裏側「常世(とこよ)」をうごめく災いの両端(作中では「頭と尾」と説明している)を押さえることにより、災いが後ろ戸を通って現世(うつしよ)に現れるのを防ぐ役割を帯びている。
これらの要石は、時代の流れや人々のコスモロジー(宇宙観)の変化に伴い、その時々に応じて必要とされる場所に移し替えられ、数十年から数百年の長きにわたって災いを鎮めている。(小説版、179ページ)
本来は小さな石像の姿をしており、その表面は氷と霜(しも)に覆われているものの、封印が解かれるとそれぞれ「ダイジン」「サダイジン」と呼ばれる猫の姿に変わっている。また、要石の役割は別の者に移すこともでき、物語のなかでは宗像草太がダイジンから椅子の姿に変えられた際に、あわせて要石の役割もダイジンから譲られていることが明かされている。
草太の祖父である宗像羊朗によると、人間が要石になるのはたいへん名誉なことであり、要石になった者は何十年もの長い歳月をかけて神性を帯びていき、現世と切り離された存在になるのだと語られている。(小説版、240ページ)
古文書と要石
作中に登場する要石に関する古文書(画:室岡侑奈、文字:尾山由紀)は、過去の閉じ師たちが災いの恐ろしさや要石の重要さを後世に伝えるために自ら書き記したものである。(『月刊ニュータイプ』2023年1月号、19ページ)
江戸時代後期の嘉永7年(1854年)に当時の閉じ師によって記された『寅ノ大変 白要石』には、「寅の大変」と呼ばれる連続した巨大地震を引き起こした災いを鎮めるために、三輪山(現在の奈良県桜井市)の震災遺児が世を嘆いて立ち上がり、閉じ師の石上(いそのかみ)氏に要石の役目を申し出て「白き右大神」と呼ばれる新たな要石になったという逸話が残されている。
その翌年の安政2年(1855年)に記された『黒要石収拾之圖』には、同年の安政江戸地震を起こした災いを鎮めるために、多くの民衆の願いを受けた黒要石が災いに打ち勝ってこれに報いたという内容が残されている。あわせて、同文書には光る鍵を首元に下げた人物が要石の鎮座のための指揮をとっている様子が描かれており、彼が当時の黒要石とともに災いに挑んだ閉じ師であることがうかがえる。
余談だが、物語に登場する古文書を手がけた室岡侑奈は、それらの書物の画を描くにあたって「本職の絵師ではない当時の閉じ師が使命感だけで描いた」という設定に基づいて画のクオリティを調整していたことや、それぞれの書物の文章のなかで要石の秘密について触れていることなどを明かしている。(『月刊ニュータイプ』2023年1月号、19ページ)
関連イラスト
関連タグ
ダイジン - 人間の言葉を話す謎の白い猫。その正体は「西の要石」。
サダイジン - 人間の言葉を話す謎の黒い猫。その正体は「東の要石」。
外部リンク
参考文献
- 新海誠『小説 すずめの戸締まり』 角川文庫 2022年8月24日発行 ISBN 978-4-04-112679-0
- 月刊ニュータイプ 2023年1月号 株式会社KADOKAWA 2022年12月10日発行 雑誌コード 07009-1