鉄羅漢玄竜
てつらかんげんりゅう
演:天津敏(第5部)/小沢仁志(第44部)
TBSドラマ『水戸黄門』第5部のシリーズ通して登場した怪法師。
同シリーズでは定番である「シーズン通して、御老公一行の前に立ちはだかる刺客」キャラであるが、その異端なまでの強さと残虐さから、「シリーズ最強の敵」として水戸黄門ファンの間で語り草となっている。
肥前五島列島の福江藩筆頭家老・宍戸源左衛門(演:安部徹)の命によって、五島藩の安里(あり)姫(演:小林由枝)と彼女の嘆願を受け、五島へと向かおうとする光圀の命を狙う刺客として登場。
刺客らしく、標的や邪魔する者は勿論、たとえ味方であろうとも役に立たなかったり、用済みと見なせば、躊躇いなく殺害する(後述の偽一行を壊滅させた際には、彼らが偽物と知るや、殺しの報酬を求めてきた知人のヤクザ一味に対し「偽物の殺しに金を払う意味はない」という理由から慈悲もなく始末していた)など、徹底して残忍な性格の合理主義者。
一応、ある回では「無駄な殺しはしない」と宣言する一面もあるが、別の回では光圀一行を懐柔させる為に、無関係の平民の老婆を人質にとって殺害寸前に追い込み、更にはその老婆を助けようとした息子を手下達の凶弾で亡き者にしている。
そして、特筆すべき点はなんといってもその戦闘能力であり、主武装である鎖分銅と刀を仕込んだ錫杖を自由自在に操る戦闘技量と、忍者顔負けの身軽さ、妖術じみた奇怪な術、光圀をも欺く程の奸智に秀でた狡猾さを持ち合わせているのは勿論、その人並外れた怪力と大陸伝来の拳法を駆使して徒手空拳のみで人間を容易く殺害できる程。
その人外とも言える強さから、光圀をはじめ、一行全員が初見以降「人ならざるもの」「化け物」等と称されるなど、これまでの刺客とは一味も二味も違う猛者として危険視されていた。
その上、自身と同じ法師の格好をした者や忍びの様な姿をした者から一介のゴロツキに至るまで多数の配下の兵を従えている他、東は江戸から西は長崎まで全国各地のならず者や刺客達に顔を利かせる豊富な闇のコネクション・情報網や、その土地の悪党を言葉巧みに味方として抱き込んでしまう話術・交渉術を兼ね揃えており、その豊富な戦力、組織力、そして首魁の玄竜の統率力の完璧さ故に、道中で幾度と光圀や安里姫の暗殺に失敗しようとも、光圀一行もまた玄竜一味を退かせるのがやっとだった。
劇中の動向
藩主を欺き、五島の領民に対して暴政を敷く宍戸の悪事を将軍綱吉公に直訴すべく江戸に向かった安里姫を亡き者にすべく、知人の六兵衛(演:多々良純)率いる奇術一座に潜伏していた彼女と、その護衛・玉ノ浦朝英(演:横内正)を追っていたが、彼女が将軍家の行列と間違え、江戸出府の途上であった光圀の行列に直訴をした事をきっかけに、光圀が自ら安里姫と共に五島へ出向く事となった事から、以降、安里姫だけでなく光圀も暗殺対象に加える。
手始めに玄竜一行の目を欺こうと光圀の策で、影武者として光圀に扮装した六兵衛や弥七の女房 霞のお新によって構成された偽の御一行を知人のヤクザ者達を使って罠にかけ、お新を除く全員を殺害。
辛くも生き延びたお新を敢えて逃がし、子分達に彼女の後を追わせて光圀の居所を探ろうと謀り、最終的に翌話にて、本物の光圀一行を捕捉すると、以降彼らを亡き者にせんと、行く先々で知人の悪党に助勢を頼んだり、現地の悪党を懐柔して手下にするなどして使役してながらあらゆる手を駆使して襲いかかり、第5部最終回前編では長崎の地で光圀一行を奸計で小屋に閉じ込めて爆破し、シリーズでは初めて光圀を一時生死不明に追いやった(最終回後編では辛くも爆破寸前に脱出していた事が判明し、無傷の姿を見せていた)。
そして、とうとう最終回後編の五島での最終決戦においても(演出上の)補正など一切無しでその怪物じみた強さを遺憾なく発揮し、助格、弥七が全力を尽くしても全くもって太刀打ちできなかった。
水戸黄門において光圀の命を狙う刺客キャラは第五部以前から登場(お新も初登場時はその一人であった)していたものの、玄竜のインパクトがあまりに強烈だった為か第五部以降の水戸黄門では『シリーズ全般(もしくは半分)を通して登場する光圀(または一行にゲストとして加わった人物)を狙う刺客』役のパターンが固定される事となった。
具体的には…
- 「光圀一行を行程の間にたびたび襲撃」
- 「大勢の部下を引き連れ、光圀一行が総力でかかっても追い返すのがやっとなほどの手練」
- 「奥の手として光圀一行を爆殺または火攻め寸前に追い込む」(※最序盤でこの作戦を用いた刺客達もいる)
謂わば、幻竜は水戸黄門の物語における王道パターンのひとつの礎を築き上げた開拓者といえる。
“最強”と謳われし所以
しかし、その後のシリーズに登場した刺客たちは、基本的に途中で利用した旅先での悪党たちを使い捨ての同志または手下にする事はあれど、形勢が不利になれば見捨てて一目散に逃亡し、残された当地の悪党たちは光圀に裁かれるパターンが基本となり、皆殺しにまでされるケースはほとんどどなかった(盗賊または浪人の一団などの例外もあり)。
また刺客たち自身も、最後は光圀一行の誰かが雪辱を果たす形で倒すか、総力戦に敗れた後、後ろ盾である黒幕が倒れた事で自ら命を絶つ形で敗北・破滅するパターンがほとんどであり(中には同志たちや首領から捨て駒にされながらも光圀一行に助けられたり、お新やお銀のように光圀の温情を前に改心し、寝返るなどして味方になった者も稀にいる)、「光圀一行ではない助っ人のゲストが単独で討ち果たす」形で勝利できたパターンは、玄竜をおいて他に例がない。
そんなシリーズ屈指の残虐性、そして結果的に「最後まで光圀一行の者たちの手では倒す事ができなかった」という特異性こそ玄竜が「シリーズ最強の敵」と称される理由である。
この「最強の敵」っぷりは、第43部最終回スペシャルでの、これまでの『水戸黄門』シリーズの名場面を振り返る特集でも扱われたほどだった。
ちなみに玄竜はBS-TBS版(第44部)において、八戸藩城代家老・梶川修理が光圀暗殺の為に雇った刺客としてリブート登場している。
しかし、そちらは放送回数が圧倒的に少なかった(第5部の全26回に対し全10回)ためか、登場回数は第4~5話のわずか2回で、第5部程の最強刺客としては描かれなかった。
それでも同シーズンにおいては初めて助三郎&格之進や弥七を苦戦させるなど、それまで相対した悪党とは一味違うインパクトの強さは健在だった。
上述のとおり、光圀一行を追い詰めた刺客として悪名高い玄竜ではあるが、敢えて光圀一行をフォローするとすれば、この時(第5部)の時点で、光圀一行の主戦力は助格と弥七の3人だけで、飛猿のような腕っぷしが特出して高い戦闘要員がいなかった上、初期作という事もあって、助格、弥七のいずれも良くも悪くも『若さ』が強調され、中期以降の作品と比較して、彼らの殺陣の精錬さにも若干ムラがあった。
加えて、お新も後年登場するお銀ほどに戦闘に特化したくノ一ではなかった事から、中期、後期以降の御一行に比べると若干戦力が低いのが否めなかったともいえる。
その為、ファンの一部からは「お銀、飛猿(またはお娟、鬼若)がいれば、光圀一行が玄竜を打ち倒す事もできたかもしれない」と考察する声もある。