鬼月雛
おにつきひな
ヒロインの一人。
鬼月家の長女であり伴部とは同年齢。
原作では任務で助けた村人から礼を言われたことが今の自分の原点だと語られている。
ヒロインの中では例外的に(拗らせない限りは)人格者と言ってよく、公明正大な性格や凛とした振る舞い、病んでも束縛が強くなる程度という比較的安心して付き合えるキャラだったことからファンには「姉御様」という異名で呼ばれていた。
あくまでも比較的であり、原作でも主人公との仲を自慢してきた紫を焼き殺すくらいはしている。
貧乳
先代『鬼月家』当主の三男だった父が小作人の娘と駆け落ちして生まれた。
後継者と目されていた次男の死により父が連れ戻され新当主となった時、彼女も鬼月家へ引き取られた。
だが屋敷に軟禁状態で母の墓参りもできず、父は会いにも来ない。宛がわれた世話役はそういう名目の監視役か、自分を下賤な血の混じった娘と見下し最低限の接触しかしない者ばかり。
孤独に苛まれた彼女は我儘や癇癪を起こすようになり、そのせいでますます蔑まれ孤立していった。
それもあってか『鬼月家』に売られてきたばかりの下人になる前の伴部が「同じ農民みたいなものだから」と世話役に任じられる。
他の世話役と異なり対等かつ積極的に接してくれる伴部に心を開いた彼女は急速に彼と親しくなり、いつか『鬼月家』から逃げ出してどこか誰も自分たちを知らない場所でひっそりと暮らしたいなんて「冗談」を語り合い遊びで脱出計画書を作ったりしていた。
しかしある日彼女を疎む者の手引きで敷地内へ侵入した妖を、彼女が異能を使って倒したことで事態は一変する。
次期当主候補として担ぎ上げられるようになり、今まで彼女を軽んじていた者たちが掌を返して擦り寄ってくるようになったのだ。
そんな環境の変化に恐怖した彼女は現実逃避からあの「計画」のように自分を連れて逃げてくれと伴部に迫ったものの、彼はそんなことは不可能だと理解しているが故に即答してくれなかったことへ癇癪をおこし、「あなたなんて嫌いだ」と泣きながら走り去ってしまった。
彼女を利用する上で邪魔だった伴部の排除を狙っていた者たちからすれば彼女自身が都合のいい証言をしてくれたわけであり、例の「脱出計画書」を誘拐計画の証拠として濡れ衣を着せられた伴部は、二度と彼女へ近寄らぬよう妖に襲われ助けを求める彼女を見捨てて一人で逃げた裏切り者という偽りの記憶を植え付けられて下人に落とされた。
そういった経緯から伴部に対して好意と共に罪悪感を持っており、かつて語り合った「約束」通り伴部と共に全てを捨てて雲隠れしひっそりとただの農民として生活したいという願望を本気で抱くようになった。
その日を無事に迎えるためまずは彼の待遇を改善できる権力を手に入れようと、理想の後継者を演じて自らを次期当主へと推す派閥の形成に努めている。
さらに原作以上の努力も重ねており、原作では終盤になってようやく使用可能だった最上位式神である神獣の龍『黄曜』を第一話時点で既に使役している。
自身の父親が葵に対して行った陰謀を伴部が(死にかけながらも)阻止した結果、彼は葵に囲い込まれてしまい派閥としては敵対関係になってしまったのも何とかしてうやむやにする(又は自身の方に入れる)事を画策している。
しかも葵が助けられた恩を仇で返し彼を虐げている(ように見える)ことから、彼を救えるのは自分だけだと思い込み、原作とは比べ物にならないほど拗らせてしまった。
伴部が『妖母』の血に侵食されるのを抑え人の姿を維持する薬の原料として提供するため定期的に自ら腹を掻っ捌き心臓を抉り取るという行為の激痛すら、彼を守り救えるのは私しかいないという「運命」の証だとして快楽や優越感へと変じるほどに。
その一方で時が来るまでは本当の目的を誰にも悟られないよう、伴部との接触を控えて表向きは他の下人と同じように扱っている。
そのせいで伴部は『改変された記憶』もあって気まずさを感じているのと、下人に落とされて以降そこまで深いかかわりがなく仮に会っても他人行儀な対応のため、好意を持たれている事に一切気付いていない。
一応フォローすると、彼女の父は雛を彼なりに愛していた。
娘へ会いに行かなかったのはまだ自分や雛の立場が不安定で、下手に周囲を刺激すればどんな干渉を受けるかわからなかったから。
事実彼女が侵入した妖に襲われた事件は偶発的なものではなく、彼女が異能を有しており次期当主になる可能性があると知った分家の羽山鬼月家当主が暗殺しようと起こしたもの。見せしめもあってか冤罪含めた多くの余罪を理由に羽山鬼月家そのものを断絶という苛烈な処分を下している。
葵を謀殺しようとしたのも雛を自分の後継者にしたかったからだし、葵とともに生還した伴部を治療せず放置するよう命じたのはその邪魔をしたから。
だがその結果雛は鬼月家に何の価値も見出さなくなり、母の胡蝶には偏愛に狂った愚か者と見切りをつけられ、彼自身は憑依術の失敗で廃人同然となり、家中は雛派と葵派で真っ二つになるという、彼の行動全てが思惑とは裏腹な事態になってしまったのは皮肉である。
――さて、伴部と引き離される原因となった一件についてだが、実は上記の雛の記憶も改竄されていたようだ。
妖母の残留思念に掘り起こされた記憶や葉山の回想の中では「泣きながら本音を吐露し縋り付く彼女との駆け落ちに同意し、実行もしている」のだ。
原作では本音を我慢して周囲に求められる理想の自分を演じ続けることのできた彼女を、自分に依存させてしまい孤独に耐えられないほど弱くしてしまった責任を取らねばと決意しながら。
周到な準備もあり計画そのものはうまく行ったのだが、伴部と葉山が互いに気を使ったのが裏目に出て結局追手に捕まってしまった。
連れ戻された彼女が激しく興奮や錯乱していたことから、彼女の暴走や脱走を防ぐべく伴部へ罪悪感を抱き距離を置かざるを得ないような偽記憶を植え付けたと思われる。
しかし伴部が葵たちの上洛に随行して不在の間、彼の姿を見ることすらできない状況に(物理的に)焦がれた結果記憶改竄の術式まで滅却、記憶を取り戻してしまったようだ。
そのせいでとんでもなく拗らせてしまい、いっそ伴部の周囲にいる邪魔者全てを焼き殺してしまえばいいんじゃないかと本気で考えるような危険人物になっている。葵や思水たちを同時に相手取るのはまだ無理だということで思いとどまったが。
胡蝶や葵にはそんな破滅的思考を見透かされ、何をしでかすかわからないと警戒されているようだが……。
『滅却の炎』と呼ばれる極めて強力な異能を操る退魔士。
この炎は本物の炎ではなく「濃縮された霊力が炎の形を模したモノ」であり、異能で燃やした事象を否定し、改竄し、変質させる力がある。南蛮の学者風に言えば「霊力を塗りたくって世界を欺く」力。
敵の攻撃や能力を無効化できるだけでも強力だが、この異能の破格なところは自身の負傷に対して自動的に発動するという点。
たとえ腕が飛ぼうが、内臓が弾けようが、頭を砕かれようが、その事実を滅却して死すらも無かった事にできる不死鳥のような能力。
霊力が尽きるまで頭を潰し続ける、肉体が復活しても無駄な状況にするなど対策はあるので無敵ではないが、初見殺しが多い対妖、対退魔士戦で極めて大きなアドバンテージとなる。