タグとして使用する際は「Illustrator」のほうが多い。
Adobe Illustrator(アドビ イラストレーター)は、Adobe Systems社が販売するベクターグラフィックス編集アプリケーション、ドロー系ツールである。略称は「イラレ」や「Ai」など。
ネイティブフォーマットは「.ai」。
2012年までは買い切り版が販売されていたが、現在は月額または年間プランでの購入のみとなっている。
概要
ベクター形式のベジェ曲線による、図形描画およびレイアウト編集ソフトウェア。Adobeは当初からベクトルと呼んでいる。
名前が名前のため若干紛らわしいが、主としてロゴタイプ、フォント作成ソフトに貼り付けるための字形生成、印刷関係のDTP、平面のグラフィックデザインWebデザイン、広告で用いられる。
イラストを描くことも勿論得意。ただし、一般的に「イラスト」と言われて想像するようなもの全てを描けるというわけではなく、言うならば輪郭のはっきりしたイラストが得意分野。グラデーションメッシュというツールを使いこなすことができれば写真と見間違うような超リアルなイラストも作成可能である。
苦手なのは水彩画のようなぼんやりとした表現や手描きのランダム性を活かしたような表現、「ざらざら」「でこぼこ」といった大半の質感表現、厚塗りなど。グラデーションや特殊効果といった機能を活用しある程度補うことはできるが、性能や表現可能な範囲はアナログおよびphotoshopには及ばない。
ベジェ曲線の操作は、マウス操作のため初心者にはとっつきにくいが、慣れれば思い通りに綺麗な線が引ける。ペンタブにも対応しているので、慣れればマウスより速い。
ベクターグラフィックスの最大の特徴は解像度非依存であり、ラスターデータと違って極端に拡大しても画像が荒れることがない。ピクセルデータではないことから、キャンバスサイズに関わらずファイル容量が小さいという利点も挙げられる。
A4で600dpiの漫画やイラスト画像で、PNGやJPEG形式だと500MB、AI形式だと1MBのような軽さ。Adobe自社技術のPostScriptやIllustrator形式が元になっているPDF形式との互換性も高いので、PDFの中身の編集も可能。フォントを埋め込んでも10MB程度の軽さ。
CS2からライブトレース機能とライブペイント機能が追加され、ベジェ曲線が描けなくても既存のラスター画像からベクターデータを生成する事ができる。
以前は、[treamlineやフォントカメラというトレース用ソフトを別に使用していた。
Bスプライン曲より複雑な表現が可能なベジェ曲線とCMYKが標準のPostScriptページ記述言語がベースで、ゼロから図形や文字を作ることができ、画像を配置してレイアウトできるのが強み。印刷用向けに強く、特色スポットカラーや全ての色情報を含むトンボ向けのレジストレーションも扱える。
ページ属性を持たないのでワープロソフトにはその面で劣り、組版機能やページネーション機能ではInDesignやQuark XPressに劣る。ルビ機能や表組み作成機能が実装されていないので、ワープロソフトにも表計算ソフトやInDesignにも劣る部分がある。
Illustratorでのラスター(ビットマップ)データの扱い
Photoshopのようなフォトレタッチには向かないというだけで、Illustratorそのものにラスタライザーは搭載されており、ラスターデータ自体は扱える。
また、他のソフトウェアで作成したラスター(画像)データを配置することもできる。
透明機能を使用した場合など、出力先に互換性がない場合は、ベクトルデータ(パスなど)を分割・結合したりラスタライズ化したりして、ラスターの画像を生成する作業が生じる。
Aiドキュメント上に画像を配置した場合、リンク切れを起こさないようにドキュメント内へ埋め込む、もしくはAiドキュメントとリンクファイルをあらかじめ同じフォルダに入れておくと良い。
ただし、pixivにアップロードする場合はJPEG、GIF、PNGへと変換しなくてはならないので、そのようなイラストはビットマップ画像となってしまっている事に注意。
よく使われる業界
昔のIllustrator職人は、ショートカットーキーばしばしで原稿を組んでいくが、バージョンが新しくなるたびに便利な機能が増え、バージョンが上がるたびにUIや操作感が変わっていく面があり、利用者は毎回乗り換え感覚で戸惑いやすい。
フォント周りの環境の他、印刷を受ける側の業者や業界で相互にデータをやりとりするため、何でもかんでも最新バージョンにせず、業界で統一したバージョンのまま、安定バージョンで数年仕事をし、ある時期に一斉にバージョンを数段階上げるということをする。最近はPDF書き出ししたものを送稿するので、Illustratorそのもののバージョンは新旧変わっていても、まあ大丈夫になった。
Illustratorの新旧バージョンどうしのやりとりは、互換性があるようで不完全で、アピアランスを分割したり、透明の分割・結合処理をしてから下位互換バージョンで保存して相手先へ送る、という手間がかかる。受け入れ先が全てのバージョンを持っているわけではないので、開くとレイアウトが崩れたり、出力時に色が真っ黒になったり、画像がはがれたり、文字化けしたりするので、慎重に。古いバージョンのデータを新しいバージョンの環境で開く際も、編集不可能な状態で読み込むか、開けるけど一部レイアウトが崩れるのを覚悟するなり、そういうのがある。
Photoshopの方は、EPSなりPSD形式なりJPEGなりで画像を統合して受け渡しや貼り付けしたりするので、バージョンが古くても新しくても大差問題なかったりする。
デザイナーやオペレータはIllustratorに貼り付けるための画像を用意するのにPhotoshopと併用することも多い。プラグインを追加することでCADや3DCG機能への拡張も可能。
またイラスト以外では、組版機能やレイアウト機能も非常に充実していて、一枚物のチラシや、ポスター、名刺、ページ数の少ない冊子等の場合、このソフトで版下データを作る事が可能。
デザイン会社に就職する際は、最低でもPhotoshopと併せてこのアプリが使える事が必須なことも多く、応用範囲が広く非常に便利なツールである。
その後、現場では、ページものを組むためにInDesignを習得しなければならなかったり、PDF変換時にAcrobatを扱ったり、WEB用にコーディングの知識が必須であったりするなど、分業でIllustratorだけが使える職人で就職できるのは昔の話になった。
米国欧文圏での開発がベースとなっているため、2バイト言語圏の機能のバグが多く、バージョンがCS6になっても修正されていないものもあるなど、日本語版は軽視されている感がある。
具体的には、縦書き関係が最多、文字変換関係、文字位置ズレ関係、行送り関係、検索置き換え関係、日本語の特定文字の字間関係、全角文字と半角文字関係、禁則処理関係、合成フォントで文字化け関係、異体字関係、箱組み関係、縦中横や割注関係、文字組アキ量設定関係、内部処理がpt(ポイント)/インチ計算なのでmm(ミリメートル)で端数が生じる演算関係、など。
歴史
Adobe社内でフォント作成用に使われていたツールがルーツ。1986年よりMacintosh版で一般へリリースされ、1989年にはWindows版もリリース。
リリース履歴
バージョン | プラットフォーム | 追加機能・不具合 | |
---|---|---|---|
1.0 | Mac OS | 円や矩形の図形描画、ベジェ曲線、拡大縮小機能。 | |
1.1 | Mac OS | ||
88(1.8) | Mac OS | CMYKモード実装。ブレンド機能でグラデーションぽい演出が可能に。 | |
2.0 | Windows | ||
3.0 | Mac OS, NeXT Step, その他Unix | フォントのアウトライン化(ただし、モリサワを除く)機能。 | |
3.2 | Mac OS | パターン機能。 | |
3.5 | SGI | ||
4.0 | Windows | ||
3.5 | Solaris | ||
5.0 | Mac OS | レイヤー、タブルーラ、個別に変形やラフやジグザグ等の効果、パスファインダを実装。画面で仕上がりプレビュー(色付き)のまま編集が可能になった。異体字切り替えにも対応。 | |
5.5 | Mac OS | PageMakerの自動文字詰め機能を吸収するためAldus社を買収し、日本語版ではチェック1つで自動文字詰めが可能になり、手詰めのカーニングから時間短縮。粗画像をEPS形式で貼り付け、PostScript書き出ししたものをQuark XPressに貼り付けて、RIPのOPI機能で実画像に差し替えられてイメージセッタへ出力していた時代。 | |
4.1 | Windows | ||
6.0 | Mac OS | ||
7.0 | Mac OS, Windows | 変形パレット、整列パレット、リシェイプツール等を実装。他の画像系ソフトとは逆で、このあたりからRGBモードを実装。交互にバージョンをリリースしていたものを、同じバージョンでそれぞれのOSで出しはじめる。相互のOSでデータのやり取りも高まるが、WindowsのTrueTypeフォントと、MacintoshのOCFフォントの互換性などから、普及しなかった。 | |
8.0 | Mac OS, Windows | バグの少ない実質安定版で長年の業界標準だった。スマートガイドとバウンディングボックス、4種のブラシ、グラデーションメッシュ機能を実装。画面プレビューのアンチエイリアス。フィルタにはパス系の他に、Photoshopで実装されているピクセル処理系のものが含まれた。画像貼り付けがEPS限定だったのが、PSDやJPEGやらをリンク配置の他、実画像データを埋め込むことが可能になり、PDF書き出しに適応してきた。Acrobat Distiller4.0を介さずに、別名保存で、グラデーション等がうまく書き出しできない簡易PDFデータを生成できる。フォントはCIDやNewCIDフォントを扱っていた。ここまでのバージョンのIllustratorデータは、中身がPostScriptなので、テキストエディタで開くことができた。 | |
9.0 | Mac OS, Windows | 内部処理がPDFとIllustrator編集データと両方を持つようになり、PDFデータを開けるようになった。インターネットを意識し始めた頃で、WEB用に最適化書き出しも。透明機能が扱え、グレーのグラデーションや画像等でPhotoshopのチャンネルマスクのような不透明マスクが可能になった。アピアランスでフチを付けたまま文字編集や一括反映できるようになり、作業効率が大幅に上がる。RGBモードのサポート、カラーモードの変換、不透明度と乗算等の描画モードのサポート、各種効果、キーボードショートカットのカスタマイズ機能、レイヤーがオブジェクト単位になり階層化、なげなわ選択ツール、パスの単純化機能、PDF互換用にフォントの埋め込み、スタイル、テンプレートとして保存、ピクセルプレビュー。デザイナーは表現の幅が広がったが、縦書きのバグがあったり、出力機のRIPが透明に対応できていなかったため、業界では浸透しなかった。 | |
10.0 | Mac OS, OSX, Windows | OpenTypeフォントに対応。やり直し可能なワープ等のライブ変形機能、リキッドツール、エンベロープ、シンボルとシンボルスプレーツール、パスファインダの複合シェイプ機能、スライス機能、印刷向けに画面で紙色をシミュレート、分割プレビューで透明属性を持ったオブジェクトを確認機能を実装。小塚フォントをバンドル。 | |
CS (11) | OSX, Windows | スタートアップ画面を導入。プリント画面の一新。バージョン7から10までの組版エンジンからテキストエンジンを刷新、文字揃えが欧文基準のベースラインからの行送り基準だったのが和文基準の行送りに変更、行送りの自動数値が120%から175%に、混植合成フォント設定機能、フォントメニューがフォント字形のプレビュー表示に、異体字セレクタ等OpenType機能の強化、一括でフォント設定を変更できる文字スタイル、段落スタイル、異体字や合字等が選びやすい字形パネル、単数行ではなく複数行の文字間を調整する段落コンポーザ、行送りの単位にH(歯)をサポート、パス上の文字の強化、の実装。変形パレットに縦横比を固定ボタンが追加、効果に3D機能や落書きが追加。スタイル、スウォッチ、ブラシ、シンボルの強化。イラストや写真等の素材やバンドルフォントの強化。手のひらツールでドラッグで画面スクロールする際の描画負荷を軽減する調整機能、Photoshopとレイヤーや透明等を保ったままやり取り可能に。 | |
CS2 (12) | OSX, Windows | 画面上部にコントロールバーが表示され、選択したツールごとに設定項目や数値の表示が変わる仕組みに。ライブトレース、ライブペイントで線画に塗りの作業が早くなる。グループ化されたオブジェクトをグループ化解除せずに編集可能に。パスに対する線の位置を外側や内側に指定、テキストにワープロのような下線と取り消し線を指定、Bridgeから複数の画像を一括配置。仮想記憶ディスクにシステムドライブ以外のものも指定可能に。InDesignやPhotoshopと色環境を共有管理できるAdobe Bridgeを搭載。印刷業界では使えない「トンボ」が「トリムエリア」に名称変更。白矢印のダイレクト選択ツールで変形の繰り返しコマンドが効かない。アクティベーション・オンライン認証へ。 | |
CS3 (13) | OSX, Windows | このバージョン以降、非常に高い組版の互換性が保たれるようになる。パレットの呼称がパネルに。バージョン5からあった、非表示やロックされたレイヤーのテキストが編集できるバグが修正。消しゴムツールで、直感的にパスの一部を消せるようになる。Web保存用にアートボード上の一部のオブジェクトを書き出せる、トリムエリアツールを実装。ライブカラー(オブジェクトを再配色)機能。スタイル、スウォッチ、ブラシ、シンボル、パスの編集、鉛筆ツール、ブラシツール、スムーズツール、消しゴムツール、ペンツール、ライブ変形の強化。パターンやグラデーションにカラーフィルタをかけられるようになった。バージョン3からあったパスの平均化でできていたが、ポイントの整列を実装。モバイルコンテンツ作成のサポート。Flash ProfessionalやDevice Centralとの連携。 | |
CS4 (14) | OSX, Windows | アートボードを複数扱えるようになる。複数ページの出力、裁ち落としのサポート。アビアランスを1つのパネルで編集が可能に。InDesignのようにCMYK色分解プレビュー機能。塗りブラシツール、グラデーションコントロール、グラデーション状の透明効果、Flex統合、DeviceNカラースペースのサポート、Kuler。 | |
CS5 (15) | OSX, Windows | パス上のテキストの間隔「自動」追加。遠近グリッドで描画ができるようになる。透明のグラデーションメッシュ機能、交差するパス同士の連結、絵筆ブラシ、シェイプ形成ツール。ブラシ以上の多様な幅の線の作成可能に。シンボルに9スライスの拡大縮小を適用。標準描画/背面描画/内面描画、背面のオブジェクトを選択可能に。解像度に依存しない効果。複数のアートボードにペースト等の強化。トリムマークを作成フィルタが復活。定規の座標の原点が左下から左上に。描画機能の強化。Adobe CS Reviewとの連携。 | |
CS6 (16) | OSX, Windows | 64ビット版ネイティブに対応で高速化。32ビットOSも動作する。新しいトレーシングエンジンで、画像を編集可能なベクトル画像に変換。タイル状にシームレスに並べるベクトルパターンを簡単に作成。シェイプ形成ツールを実装、パターンの作成、線にグラデーションを適用、Adobe Mercury Performance System、カスタマイズ可能なインターフェイス、進化したぼかし(ガウス)、拡充されたカラーパネル、便利になった変形パネル、文字選択、非表示のツールをドッキング、複数の空間から成るワークスペース、高機能なコントロールパネル、透明パネルの機能向上、真っ白のカンバス。パネル内でレイヤー名のインライン編集、UIの明るさを変更可能。 |
Adobe公式サイト ―バージョンごとの違い―
Illustrator9.0/10/CS/CS2/CS3/CS4/CS5