概説
両性具有を意味する古代ギリシア語、アンドロギュノス(androgynos)から派生した言葉である。語幹となる andro-gyn に形容詞接尾辞 -ous が付いて造られている。このため、アンドロギュノス同様に、基本的に両性具有であるが、形容詞語尾が付いているため、「両性具有的」という意味になる。そこから、今日では、以下のような三つの用法がある。
- 伝統的な「アンドロギュノス」と同じ意味・用法。
- 形容詞であるため、「両性具有的」という形で、生物学では「雌雄同体」を意味する。
- 現代的な解釈で、男女の特徴を兼ね備えるようなファッション・スタイル。このようなファッションは、男性、女性の既存の特徴にとらわれない、という点で、「男女の区別を離れた、自由なファッション」という用法になっている。
3)の場合、「中性的ファッション」というような使われ方をするが、この「中性」は、生物学的な中性ではなく、精神的・心理的な中性でもなく、「男女の区別にとらわれていない」という意味で使われている。これは、一般的な「中性的」という概念とはかなり異なる。
比喩的な説明
あくまでここでの喩えとしての例であるが、男性用のワイシャツを上に着て。下に女性用のスカートを着たようなファッションがあれば、これを、「男女の性別から自由な」ファッションと捉える人もいるが、「ただの悪趣味な衣類の着用の仕方」と捉える人もいる。
ファッションというのは、元々主観的なもので、どう感じるか、どういう意味にとらえるかは、時代や場面や状況で違ってくる。
- フランス王ルイ14世の公式肖像画で、王が女性的な衣装を身にまとい、すらりとした片足を前に差し出して、女性的な優雅なポーズを取っているものがある。現代人が見ると、王は女装趣味だったのかと錯覚しそうだが、このスタイルは、当時の「雅やかな男のファッション」であった。この肖像画は、ルイ14世が「最高の男」であるということを示している。
ファッションなどにおける「アンドロジナス(androgeous)」は、このように、主観的・状況的な印象としての「中性的」であって、生物学や心理学における「中性的」とは、まったく異なる概念の言葉である。
語源
両性具有と訳される「アンドロギュノス」は、古代ギリシア語の男性・夫を意味する「アネール(aner)」と女性・妻を意味するギュネー(gyne)の合成語で、「男女(おめ)」または「両性具有」を意味する。アンドロは、アネールの接続形で、アンドロギュネーの男性形が、アノドロギュノスである。
ハーマフロダイトとの違い
日本語で同じく「両性具有」と訳される言葉に、hermaphrodite(ハーマフロダイト)、あるいはヘルマフロディトス(ヘルマプロディートス)・ヘルマフロディテ(ヘルマプロディーテー)がある。アンドロギュノスとの違いは、アンドロギュノスが精神的・心理的な両性具有、全体性を示すのに対し、ハーマフロダイトは、生物学的・医学的な雌雄同体、つまり身体的な両性具有に強調があることである。
生物学では、植物などの雌雄同体を表すのに、hermaphrodite を使う。また、医学では、半陰陽を示すのに、hermaphrodite が使われるが、この場合、半陰陽(インターセックス)は、身体における不完全な男女の器官の混合状態である。
しかし、文学や美術、思想などにおいては、ハーマフロダイトは、アンドロギュノスの意味合いをなお持っている。
関連記事
親記事:アンドロギュノス(androgynos)
関連記事:アンドロギュネー(androgyne), hermaphrodite(ハーマフロダイト), ヘルマプロディートス(hermaphroditos)
参考サイト
https://en.wiktionary.org/wiki/androgynous (英語版 ウィクショナリ)