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曖昧さ回避編集

  • 1974年にサンタナが発表したアルバムの邦題。原題は「Borboletta」で、ポルトガル語で「蝶」を意味する。
  • 俳優・岸田森に関する書籍の題名。

概要編集

1953年6月から11月にかけて雑誌『平凡』に連載。その後加筆され、1958年に刊行された。


本作の舞台となる「信州の射水(いみず)」は架空の地名で、富山県射水市とは無関係。

金田一は既に『犬神家の一族』で知名度が上がっており、初めて訪れた同地でも警察からは無碍にされるどころか、事件解決の協力をあおがれている。


あらすじ編集

金田一耕助は、信州の射水という町に住む矢部杢衛なる人物から、詳細を伏せたまま調査依頼を受ける。

折しも射水には、ブラジルの大富豪アルフォンゾ・ゴンザレスの養女、鮎川マリが母の鮎川君江と滞在中だった。莫大な財産を継承した「新シンデレラ姫」として華々しく報じられたこの人物に会えるかも知れないと金田一は考えて興味を惹かれ、また杢衛からの強引な依頼に苦笑しつつも知己の紹介状が同封されていた事もあり、これを引き受ける。

ところが出立する日の朝に「射水に来てはならぬ。生命が惜しいと思ったら射水の町に近寄るな」という脅迫状が届く。これでかえって興味と闘志をかき立てられた金田一は、一路射水へと向かった。


射水へ向かう汽車の車中で、金田一は頬に傷痕のある男に話しかけられる。

乗り合わせた射水の百姓と男との会話から、杢衛の次男・矢部英二が今から23年前に鍾乳洞の中で殺害された事、頬傷の男が第一発見者であった事、矢部家と長年対立する玉造家の娘・玉造朋子が英二を殺し、更に洞窟内の奈落に飛び込んだ事などを知る。


射水に到着した金田一は、徒歩で矢部家に向かう。

その道中、教会の前に集まっている人々から、ちょうど今鮎川君江が教会に礼拝に来ており、君江とマリが玉造家の別館に逗留していることを知った。

その時教会から出てきた君江を見た頬傷の男は激しく動揺し、「朋子!」と叫ぶ。怪訝そうにする君江は何も言わずその場を立ち去るが、頬傷の男は茫然としてその姿を見送るのだった。


金田一は矢部家に到着し、杢衛から、改めて鮎川君江の身許調査を依頼される。

杢衛は、23年前に英二を殺した朋子が自殺を偽装して生き延び、今になって鮎川君江として帰ってきているのに違いないと強く主張するのだった。

頬傷の男改め、矢部家の遠い親戚にあたる古林徹三が、あの時「朋子」と呼んだ事を合わせて、金田一は激しい胸騒ぎを覚える。


一方その頃、玉造家の別館では、マリが主催するパーティーの差配に余念がなかった。

わざわざ玉造家と対立している矢部家の人間も招待するというマリに、家庭教師の河野朝子は半ば呆れながらも指示に従う。しかしそこへマリ宛に脅迫状が届く。

母をつれてこの土地を去れ。ここにいることは、おまえやおまえの母のためにならぬと知れ


マリは朋子の姪で、自分を姉のように慕う玉造由紀子から、23年前に起きた事件の詳細を聞く。

由紀子いわく、朋子は因縁ある矢部家の長男・矢部慎一郎と恋仲だったという。まるでロミオとジュリエットのようだと思うマリだったが、結末は悲惨なものだった。

示し合わせ、親から隠れて鍾乳洞で逢引きしていた二人は、この恋が両家から認められない事を悟り、駆け落ちする事を決める。しかしそれが当主の杢衛に知れてしまった。

折しも杢衛は慎一郎と、現在の妻である峯子との結婚を計画しており、この事に激怒。鍾乳洞へ向かおうとした慎一郎を家に閉じ込め、更に次男の英二に朋子を連れて来るよう命じた。ところが英二は鋭い鍾乳石で胸を貫かれて殺害され、その手には朋子の着物の片袖が握られていた。

容疑をかけられた朋子は、洞窟で英二に捕まり、抵抗している内に袖がちぎれ、無我夢中で逃げ出したのだと告白。自分は決して英二を殺していないと主張する。

しかし当時の警察は朋子を犯人と決めつけて連行しようとし、混乱に乗じて逃げ出した朋子は鍾乳洞の「底なしの井戸」と呼ばれる奈落に飛び込んで自殺してしまった。

その後の捜索で朋子の亡骸は見つからず、井戸の側には「あたしはいきます。でも、いつかかえってきます。蝶が死んでも、翌年また、美しくよみがえってくるように」と書き置きが残されていたという……。


パーティーが開かれ、多くの関係者が玉造家別館に招待される。

君江は病気を理由に欠席しており、疑いを続ける杢衛は君江を挨拶に出させるようしつこく主張した。仕方なくマリは河野に母を呼びに行かせたが、いつまでたっても二人は姿を現わさない。不審に思い君江の部屋に行ってみると、君江も河野も部屋にいなかった。

そこへ由紀子がベランダから駆け込んできて、君江が鍾乳洞の方に向かっていくのを見たと言い、君江を探して戻って来た河野は鍾乳洞の入口で君江の十字架を拾ったと言う。何やら不穏な展開に、一同は支度を整え、鍾乳洞へ出かけることになった。


そこで再び、恐ろしい殺人が繰り返される事も知らず……


登場人物編集

  • 金田一耕助

ご存じ我らが名探偵。難しい事件を一つ解決して一息ついていたが、面識のない杢衛から手紙で調査依頼を受ける。

  • 鮎川マリ

ブラジルの大富豪アルフォンゾ・ゴンザレスの養子。ブラジル名はマリーナ・ゴンザレス。聡明な頭脳と勇気、優しさを併せ持つ美女。母・君江と共に来日後、君江の健康状態を鑑みて射水に滞在を決める。

  • 鮎川君江

マリの母。生きている間に故国の土を踏みたいと願い、マリも母国を見ておきたいという希望もあり来日。東京滞在中に健康を害し、避暑地である射水で静養する事となった。黒いドレスに黒いヴェールを被り、教会での礼拝を欠かさない。

  • アルフォンゾ・ゴンザレス

ブラジルのコーヒー王と呼ばれるスペイン系ブラジル人の大富豪。マリの養父。君江の才覚を認めて家事取締役に任じて共に暮らすうち、彼女を深く愛して求婚するも、ある理由から断られる。しかしマリを娘として愛している事に代わりはなく、養子縁組によって後継者とした。

  • 河野朝子

マリの家庭教師。知性を感じさせる上品な淑女。マリと君江の身辺の世話を引き受けている。

  • カンポ

身の丈六尺の屈強な青年。ポルトガル人とインディオの混血。アルフォンゾに見いだされて高等教育を受けており、マリと君江の召使い兼用心棒として河野と共に随行。ややたどたどしい発音ながら日本語が使える。

矢部家編集

玉造家と二分する由緒ある射水の名家。戦後でも林業や鉱業で繁盛しており、凋落している玉造家とは対照的。

  • 矢部杢衛

矢部家当主。70歳ほどの屈強な老人。金田一の依頼人で、金田一の知己からの紹介状を添えて調査依頼を出した。地元では人望のある名士で好人物だが、長年の仇敵である玉造家には殺意じみた敵対感情を露わにする。そこには玉造家現当主・乙奈との悲しい因縁があった。

  • 矢部慎一郎

杢衛の長男。50歳近く。色浅黒く背の高い、風采のある美男子。23年前の事件に深く心を痛めており、家業を他人に任せて表に立つ事はない。

  • 矢部峯子

慎一郎の妻。色白の美人だが、愛嬌に乏しくヒステリー体質。いまだ朋子を想い続ける慎一郎に拒まれ、夫婦とは名ばかりの状況。

  • 矢部都

慎一郎と峯子の娘。えくぼが可愛い美少女。実は玉造家の康雄とひそかに交際しており、駆け落ちを計画していた。

  • 矢部英二

杢衛の次男。23年前の事件で、鍾乳洞の中で殺害された。

  • 宮田文蔵

峯子の兄。矢部家の番頭格で、朴訥だが如才ない男。慎一郎の代わりに家業を差配している事から、矢部家を乗っ取ろうとしていると陰口をたたかれているが……

  • 古林徹三

矢部家の遠い親戚。23年前の事件における、英二の死体の第一発見者。その後満州に渡るも敗戦で財産を失い引き揚げ、縁のある矢部家に身を寄せようと乗った汽車で金田一と遭遇した。頬に傷痕がある。

玉造家編集

矢部家と二分する由緒ある射水の名家。矢部家とは反対に近年は没落の一途を辿っている。マリから一夏の間別館を貸して欲しいと依頼を受け、莫大な金を示されてこれを引き受けた。

  • 玉造朋子

玉造家の長女。慎一郎と恋仲だったが家の対立もあって叶わず、更には英二殺害の容疑者となってしまう。鍾乳洞の奈落「底なし井戸」に投身自殺したとされるが……

  • 玉造乙奈

玉造家当主、朋子の母。73歳。痩せ衰え、歩行もままならない身だが、誇り高く威厳に満ちた母刀自。実は過去に杢衛とは相思相愛で、杢衛が家を捨てて結婚するという寸前まで来たが、家を守る為に婿を迎える事を余儀なくされた。これを裏切りと見た杢衛は乙奈を激しく憎み、両家の確執が生まれてしまう。

  • 玉造由紀子

乙奈の孫、朋子の姪。高校生で、ロイド眼鏡をかけたおしゃまな娘。玉造家に滞在するマリに当初は反発していたが次第になつき、お姉さまと慕うようになる。

  • 玉造康雄

由紀子の兄、朋子の甥。家の事情もあって厭世的な青年。実は矢部家の都とひそかに交際しており、由紀子の後押しもあって駆け落ちを計画していた。


映像作品編集

1978年、『横溝正史シリーズII』としてテレビドラマ化。金田一役は古谷一行

時代は昭和30年に設定され、細かい点で差異こそあるものの、かなり原作に忠実な構成となっている。


1988年に再度ドラマ化。金田一役は引き続き古谷一行。

こちらも改変や省略はあるものの、全体の流れは原作に忠実。

ウガンダ・トラ演じるカンポがカポエラを披露したり、金田一がパーティーでマリとタンゴを踊るなど、ちょっと面白い展開も見られる。


関連タグ編集

小説 金田一耕助 横溝正史

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