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概要

1947年(昭和22年)1月から1948年(昭和23年)10月まで、雑誌『宝石』に17回連載。

戦友・鬼頭千万太(きとうちまた)の遺言で、瀬戸内海に浮かぶ孤島「獄門島」を訪れた金田一耕助が殺人事件に巻き込まれるストーリー。

芭蕉や其角の俳句に見立てた連続殺人が行われる。

犬神家の一族』とならび戦後色が強い作品。

作品の根幹に関わる部分に関するとある事情から有名な作品でもある。

しかしながら、当時は当然、21世紀の現代に至るまで、その秀逸なトリック故に、横溝正史の名を世に広め、推理小説界に一石を投じた作品でもある。

あらすじ

金田一耕助は、戦友・鬼頭千万太(きとうちまた)の遺言で、彼の故郷である獄門島を訪れる。

千万太は戦争を生き抜いたものの、引き揚げ船内でマラリアで病死してしまい、死の間際、金田一に「獄門島へ行ってくれ。俺が帰ってやらないと、三人の妹たちが殺される」と言い残し、自分の故郷に行って、妹たちを守ってほしいと頼んだのである。

獄門島は封建的な因習の残る孤島で、島民は島の因習に縛られて暮らしていた。

島には本鬼頭(ほんきとう)と分鬼頭(わけきとう)という二つの網元がいて、互いに対立していた。

金田一は千万太の実家である本鬼頭家を訪れる。そこで千万太の妹の三姉妹(月代、雪枝、花子)と、千万太の従妹の早苗と出会う。

本鬼頭の当代当主で千万太の父・与三松は狂を発して座敷牢に入れられており、月代たちが年齢のわりにいまだに幼く未熟なために、本鬼頭の家は早苗が切り盛りしていた。

金田一はあまりにもエキセントリックな月代たち三姉妹を見て、自分が容易ならぬ役目を背負ったことを実感する。

戦友の願いを叶えてやりたいと思う金田一の気持ちと裏腹に、やがて第一の殺人事件が起こってしまい…。

登場人物

金田一耕助

おなじみ我らが名探偵。

島には戦友・千万太の遺言で訪れる。

磯川常次郎

岡山県警察部の警部。金田一との再会を喜ぶ。

清水

獄門島駐在巡査。

職務熱心だが思い込みが激しく、中盤では金田一を犯人と決めつけて牢に放り込んでしまう。皮肉にもその間に第二の事件が起きてしまい、結果的に容疑は晴れた。

鬼頭嘉右衛門

本鬼頭家の先代当主。現在は故人。

人を引き付ける人柄と確かな手腕で島を発展させ住民の生活水準を大いに高めたことから、島民には「太閤(豊臣秀吉)」と呼ばれ慕われていた。

島の顔役として大いに権勢の限りを尽くしたが晩年は老いによる病と後継者問題に悩んでいたという。

鬼頭与三松

嘉右衛門の息子で本鬼頭家当主。

道楽三昧の末に精神病を患い、現在は座敷牢に閉じ込められている。与三松が当主の仕事をできない状態のため、早苗が当主代理を務めている。

本来は長女の月代がすべき所なのだが、性格的に未熟で任せられなかった。

お小夜

与三松の妾で元女役者。月代、雪枝、花子の母。現在は故人。

旅芸者をしていた頃、与三松に見初められ、強烈な求婚の末に結ばれた。

美しいが性格に難があり、スピリチュアルに傾倒して島民を信者に従えたが、了然和尚と対立する羽目になり、挙句に最後は発狂死した。

子ども達は完全な母似。役者時代の当たり役は清姫で、娘道成寺を演じていた。

鬼頭千万太

与三松と正妻(故人)の息子で本鬼頭家の跡取り。

金田一の戦友で、共に戦争を生き延びるものの、帰りの船の中で病死。彼の必死の遺言で金田一は獄門島に赴いた。

ある理由で自分が生きて帰らないと妹たちが殺されることを知っており、なんとしても戦争から生きて帰ろうとするなど、妹思いの兄だった。

鬼頭月代

与三松の長女。お小夜の娘で千万太の腹違いの妹。祈祷が得意。

美人だが、18歳という年齢のわりにかなり幼くエキセントリックな性格で、まともな会話が出来ず、いつもクスクス笑っている。

鬼頭雪枝

与三松の次女。お小夜の娘で千万太の腹違いの妹。17歳。

姉妹同様エキセントリックな性格で、やはりまともではない。

遊びで精神を病んだ実父を虐待する始末。

鬼頭花子

与三松の三女。16歳。お小夜の娘で千万太の腹違いの妹。

ませており、姉たちと鵜飼を取り合って騒いでいた。

鬼頭一(ひとし)

千万太の従弟で本鬼頭分家の男子。

誰もが生死を諦めていたが、復員の知らせが届き、島は沸いた。

鬼頭早苗

本編のヒロイン。一の妹。月代たち三人姉妹に代わって本鬼頭を切り盛りしている女性。

ただ見目が綺麗なだけの三姉妹と違い、美貌も知性も兼ね備えた立派な女性。

島のあらくれ漁師たちも、彼女の采配には喜んで従うカリスマ性も持っている。

復員したはずの一を健気に待ち続けるが……。

作中で、金田一耕助と良い仲になった、たった二人の女性の片割れ。

勝野

嘉右衛門の妾。

気が利かず、頼りない性格のため、家のことは早苗に任せて彼女に頼り切っている。

原作では完全なモブキャラであるが……。

鬼頭儀兵衛

本鬼頭のライバルである分鬼頭の当主。

嘉右衛門の功績は評価しているが、嘉右衛門の悪ノリがすぎる遊興は嫌っていて、付き合いの場に出るのを断っていた。そのことで嘉右衛門の怒りを買い、長年対立している。

分鬼頭は本鬼頭をしのぐ勢いにあることから、島民からは「権現様(徳川家康)」と呼ばれている。

人格者であり、金田一を邪険にしない上、妻と違い直接的に本鬼頭の妨害をせず、状況を見据えている。

鬼頭志保

儀兵衛の妻。野心家な女性で、最初は本鬼頭家の嫁になるつもりだったが、脈がないと思いきや、分鬼頭の儀兵衛にすり寄り、彼の妻になった。

さらに鵜飼章三を使って月代たち三姉妹を誘惑して家の金品を持ち出して貢がせるなど、本鬼頭をひっかきまわしている。そういった様子から、島民からは「淀君」と呼ばれている。

鵜飼章三

分鬼頭の居候で復員軍人。美青年。喫煙者で、紙巻きタバコを自作して吸っている。

志保の命令で、月代たち三姉妹に言い寄り誘惑して金品を貢がせたりしていた。

事件解決後、御役御免とばかりに志保にあっさり見切られて追い出され、金田一が乗った船に一緒に乗って島を出た。

荒木真喜平

獄門島村長。本鬼頭の後見人の一人。

気の弱い性格。

了然

千光寺の和尚。本鬼頭の後見人の一人。

金田一耕助は、島内ではこちらの寺に下宿している。

第一の事件の際、意味深な言葉を吐くが……

了沢

千光寺の典座。実直な性格。

獄門島の出身。仏門に入る以前を島民に知られており、よくからかわれている。

1977年の映画版ではシャア・アズナブルの声で知られる池田秀一氏が演じている。

村瀬幸庵

漢方医。本鬼頭の後見人の一人。

医者の割にだらしなく、酒浸りでしょっちゅう乱れる。

竹蔵

本鬼頭に所属する潮つくり(漁師のまとめ役)。

気の良い性格で、よそものの金田一に対しても割と友好的。

清公

床屋。非常に口が回る気のいい人物。

その盛り上げ上手から、かつては亡き嘉右衛門に可愛がられたという。

映像作品

瀬戸内の孤島という限定された舞台、美しくもおぞましい見立て殺人、何よりも因縁すさまじい真相など見所も多く、1949年の初映画化以来、何度も映像化された。

1977年の市川崑版では内容が大幅に異なっており、犯人も思いがけない人物になっている。一方で同時期に撮影されたテレビ版は原作に準じた作りとなっている。

その為映画の予告編では横溝正史本人が登場して「金田一さん、私も映画の中の犯人を知らないんですよ」と語り、更には映画館の入口に「テレビとは犯人が違います」という看板がわざわざ立てられていた。

1990年版では片岡鶴太郎が金田一を演じており、内容も原作とは異なる部分が多い。

三姉妹は狂気めいた描写が薄く、どちらかといえば無邪気な心を持っている。金田一と仲良くなったのを犯人に利用され、鵜飼ではなく金田一の名で書いた手紙で呼び出されて殺されてしまい、金田一は怒りを露わにして犯人を殴りつけた。

2016年版では長谷川博己が金田一を演じており、規制されているあの台詞がそのまま使われた。

金田一は戦地でのPTSDに苦しんでおり、牢屋では千万太の亡霊と会話し、山狩りの場面では戦死者の幻を見て恐怖し、推理に煮詰まって物に当たる。

そして真相が解明される場面では「この世にはあんたの思いも及ばぬ恐ろしいことがある」と語った犯人を挑発し、「無駄無駄無駄無駄無駄ァ!無意味ィ!ご苦労様でしたァ!ざまあみろだ!」と嘲笑い、全てを崩壊させる真実を突きつけた為に発作で死に至らしめる。狂ったように笑いながら「見ろ!全部解いてやったぞ。思いも及ばぬこと?そんなものはない!ない!ない!そんなものはないんだああ!」と絶叫すると糸が切れたように倒れ、静かに泣き続けた。

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