概要
親友兼好敵手の江戸川乱歩の明智小五郎及び、後輩の高木彬光の神津恭介と合わせ、日本三大名探偵と称される、日本文学史上最も愛されたキャラクター達の内の一人である。
経歴
1913年(大正2年)生まれ(語り手である小説家のY先生の11歳年下)。出身は同姓のアイヌ学者と同じく東北地方の内陸部。ファンの間では、他人の世話焼きを嫌がらない、生活に無頓着な点から、没落した良家のお坊ちゃん説もあるが、公式では両親が逝去していること以外は確定していない。なお、市川崑監督作品では、孤児という設定になっている。血液型はY先生と同じくO型。
19歳(数え年)で郷里の中学校(旧制)を卒業後、某私立大学に籍を置いたが興味がわかず一年余りで渡米。ところがアメリカの生活にも大した興味が起こらず、ふらふら暮らしているうちに麻薬の味を覚え中毒に陥る。
そのような状態にあったにもかかわらず、あるときサンフランシスコの日本街で発生した奇怪な殺人事件にふらふら出ていってこれを解決。これが初期のパトロンである久保銀造の目に止まり、その支援を受け麻薬と手を切り、看護夫見習いをしながら3年でカレッジを卒業後、帰国して東京に探偵事務所を構える。
半年ばかり閑古鳥が鳴いたと思うと新聞に載るような大事件の解決にも携わった。この時期に、旧友の失踪事件を防ぐ事ができず(「幽霊座」)探偵としての挫折を味わっている。
その後の探偵活動は昭和12年の「本陣殺人事件」より、最後の事件となる昭和48年の「病院坂の首縊りの家」まで約35年が記録に留められている。この間、太平洋戦争では帝国陸軍に徴兵され2年を大陸、以後を南方諸島で過ごしニューギニア・ポートモレスビー飛行場攻略戦に従事していたが、帝国海軍が周辺海域で連合軍に敗北したことで帰還出来ず、増援も補給も無いまま、現地で終戦を迎えている。人はどのように死ぬのか、どんな経緯で変質・腐敗していくのかなど、死体に対するあらゆる状況は、この際に学んだ。
「獄門島」事件の直後に幼馴染の風間俊六と再会を果たし、彼の愛人が経営する割烹料亭「松月」に昭和22年から29年頃まで居候した後(途中、通称「三角ビル」と呼ばれる建物に事務所を構えるが一年程で引き払っている)、「緑が丘荘」というアパートに事務所を構える。その後、何度か松月に戻ったりしたものの最終的には昭和31年に緑が丘荘改め緑が丘マンションの1フロアをまるごと借り上げている。
当時(戦後復興期)で言うフラットと呼ばれる部屋割りは、今でいえばマンションの一室程度の広さなのだが、この場合は本当に1フロア借り切っているらしく、独り身の彼は持て余し気味である。
戦後直前には恋愛談と無縁ではなかったが、職業的な性質のためかその方面はまもなく希薄となり、家庭を持つことはなく独身を通した。
事件解決後に繰り返し憂鬱症に襲われる傾向があったが、第一次オイルショックの直前、これが極に達した為か、「病院坂の首縊りの家」の解決後に誰にも行く先を告げぬままアメリカ・ロサンゼルスに向かったのを最後に一切の消息を絶った。
しかし、作者の話によれば2年後の昭和50年に帰国(推定年齢62歳)し、残る余生は日本で過ごしたとの事。没年は不詳。
容姿
原作では短身痩躯の貧相な男性として描かれている。作中の描写によると身長5尺4寸(163.6cmくらい)体重は14貫(52.5kgくらい)以下とのことで、確かに背が低く、標準体重より6㎏も少ない痩せ型である(ただし戦後すぐの日本人としてはやや小柄程度である)。
普段は気にしていないが、若者や体付きの良い同年代の男性を見ると、貧相な体付きの事が気になって劣等感を持ってしまう。
体付きや筋力量などをからかわれると、毎回「自分は頭脳労働派なんだ」と笑って誤魔化すのだが、本当にその頭脳で事件解決するので、彼らに認められるという展開が常。
登場作品に拠って若干の相違があるが、大体はすずめの巣のようなもじゃもじゃの蓬髪にお釜帽(フェルト帽)、襟垢じみた着物、ひだがたるんだセルの袴、下駄履き。冬場は二重回しを羽織っている。戦前・戦後この和装を押し通したが、ある作品で著者が言及したところによると、洋服姿になると貧相で風采の挙がらぬ印象が一層強まる。また調査でホテルのボーイなどに化けた際には、変装というより仮装レベルのお粗末な着崩れを見せている。
東北出身らしく色白だが、顔立ちは至って普通。作中ではとんびコートも相まって進駐軍兵士などに「雰囲気がコウモリに似ている」と言われた事がある。
立派とか威圧感とは程遠い容姿の為、よく依頼人や関係者に侮られることも多いが、女性や子どもからは怖がられずに受け入れられる上、親分肌の男性からは何かと面倒を見てもらえる描写が多く、何気に得をしている。
世間的なイメージとしては30半ば程度だが、これは「獄門島」など特に有名な事件を解決していた時期の年齢(戦後・復員後すぐの時代)である。メタ的にはビジュアル化した際の俳優の見た目年齢と、後にシリーズが好評を博し、ファンレター等で懇願された「金田一に年を取らせないで欲しい」という思いを受け、作者自身が「いつまでたっても書生染みた雰囲気」な青年~中年あたりとイメージの再設定をしなおした結果である。
作中ではY先生が不思議に思うほど、全く容姿が変わっていないとある。
実年齢としては、とうに50歳を越えて、60歳近いのだろうけど、見た目は30歳程度にしか見えないとあり、普段から似たような格好をしているせいもあるからか、他者からは若く感じられるようだ。
「病院坂の首縊りの家」の下巻の冒頭でも、警察を退職し金田一同様私立探偵事務所を開業していた等々力警部も金田一に久々に再会した際「相変わらず老けないねぇ金田一さんは」と茶化すシーンがある。
容姿の設定は上記のと通りであるが、数ある映画やドラマでは洋装や高身長なども珍しくはなく、特に初期の作品に顕著。原作にできるかぎり忠実に作られるようになったのは、70年代前後のブームからである。
その容姿・服装のモデルとなった人物・キャラクターは複数存在する。
実在の人物からは
- 劇作家・菊田一夫(雰囲気・氏名)
- 編集者仲間・城正幸(和服姿)
- 言語研究者・金田一京助(氏名)
- 原作者の幼少期の親友・伊勢市太郎(話し方)
また架空のキャラクターからは
- 「赤い館の秘密」の探偵、アンソニー・ギリンガム(原作者の他の作品
- 西部劇の風来坊達(事件解決後に立ち去るスタイル)
などが挙げられる。
また、その風采はある探偵のごく初期のスタイルも髣髴とさせる上、「伝記作家」である作者の容姿・人柄も反映されていることは言うまでもない。
性格・言動
平時はのらりくらりとした言動が目立ち、常に眠そうな目つきをしているが、事件の渦中にあって、かつ自身が強く興味を持った事柄に対しては真剣な表情に変わる。また、重大な発見があると口を窄めたり、口笛を吹く癖がある。
興奮すると乱れた髪の毛を掻きまわし、言葉が吃りはじめる。初期は東北訛りがあるとも書かれていた。笑い声は「あっはっは」と明るい。
運動能力はさほど優れてはいないが、スキーとボートに関しては自信があり、実際作中でそれを生かして捜査をしたこともある。素早さ(そして幸運)に全振りしたような感じで、犯人の奇襲を避けることはまあまあ出来ても、真正面からの取っ組み合いにはまったく向いていない。幾度となく負傷しているが、回復力は早め。少なくとも2回の銃撃にあっているが、後遺症もなく完治している。
映画鑑賞や観劇(特に歌舞伎)、絵画鑑賞が趣味。時代柄もあってかなりのヘビースモーカーだが、酒は得意な方ではない。いわゆる昭和の男性の「飲む打つ買うの三拍子」とは無縁の存在。ただし友人らと連れ立ってバーで語らうこと自体は好きな模様。パチンコに行くこともあったが捜査の意味合いが強く、勝負事自体に関心がない。
普段は小食で、多忙な上あまり拘りがないため簡便に済ますことが多い。よくトーストをかじることと、いちごクリームなる謎のスイーツ(恐らく生クリームをかけたいちご)を好むことが知られている。
実は最初期では阿片中毒者であったことは、あまり知られていない(一時期ヒッピーの先駆けと言われ、正史は苦笑いしたが、同じく薬物を使用していたホームズに倣ったものだろう)。
手先は器用なようで、字はなかなか綺麗に書ける。作者の趣味が反映されてか編み物もなんなく出来る模様。作品によっては、この編み物が事件の重大事実を知るきっかけとなる。
金銭や物に関する欲は少なく、ギャラもあまり高額に設定していないためか、いつも素寒貧。煙草銭にも困るときもしばしばで、保養も兼ねてパトロンを頼りにすることも少なくない。向こうも未解決事件を持ち込んだりするのでお互い様なのである。緑が丘荘で暮らす頃には生活も安定したらしく、テレビやクーラーなどの当時の贅沢品を購入、一日おきに家政婦に部屋を掃除してもらっており、アメリカに旅立つ際は世話になった管理人夫婦に財産を贈与している。
二度、女性登場人物との恋愛に発展したが、どちらも成就しなかった。
ただ、それで女嫌いになったりしてはいないようで、仕事関係とはいえ、時折ストリップ劇場に出掛けたり、野外ヌード撮影会に出没する事もある(さすがに会場はホテル内の私有地である)。
作中では、同性愛(特に男色)については距離を置いている。現代では微妙な性的問題だが、当時では明らかに異質だったので、この時代としては正常な嗜好を持っていたようだ。ただし被害者がこのことをネタに脅迫・殺害されたり、未成年への虐待問題が絡んでくると、加害者に対して非常に刺々しい態度を取るなど、倫理観はしっかりしている。
普段は飄々としている割に、物事に対して繊細であり、不安定な面も見せる。
後述の等々力警部などは、突然ふっと消えてしまうのではないかと心配して、定期的に家まで様子を見に行くくらいである。
繊細さは事件に対しても垣間見られており、一つの事件を解決した直後に、「これがきっかけで別の事件が起こりはしないだろうか」などと心配し出すほど。
交友関係
警察関係者を侮ったり敵対する探偵も少なくない中、金田一はごくごく自然に馴染みの警官を作り、仲良くするタイプである。東京では等々力警部、岡山では磯川警部が有名。
両者ときたら、金田一耕助を見つけるや否や、「また一緒に事件解決しましょうか」と、腕組みして現場へ連れ出すほどである。
新人や血気盛んな刑事からは最初こそ疎まれるが、推理を重ねるに至って尊敬を集めるのがお約束。
更に、被害者や容疑者、さらに真犯人ですら、友人や尊敬する人が彼に助けてもらったことがあるからと、最初から胸襟を開く者も少なくない。
母性愛を刺激するタイプであり、水商売のはすっぱな女性や、勝気な女学生などからも苦も無く証言を引き出せるのは見事という他ない。ただし女性に関してはノーセックスと称される程縁遠く、具体的に好意を示したのは「獄門島」と「女怪」の2件のみで、いずれも悲恋に終わっている。恋愛に関しては普段の飄々とした態度が嘘のような情熱的な一面を覗かせる。
主なレギュラーメンバーとしては以下になる。
- 等々力警部
主に東京を舞台とした、短編・通俗ものの相棒たる警部。馴染み薄い名字だが、「とどろき」と読む。またフルネームは等々力大志(だいし)だが、これが明かされたのは最末期、「病院坂の首縊りの家」のことである。
やや猪首の体格のよい健啖家。既婚者で息子が一人いる。
金田一耕助との付き合いは戦前昭和十二、三年頃から(「悪魔が来りて笛を吹く」)とする作と戦後昭和二十二年から(「暗闇の中の猫」)とする作がある。
いすれにせよ金田一とは気心しれた仲で、お互いの家に遊びに行くほど深い交流を持っている。「傘の中の女」及び「鏡ケ浦の殺人」、「香水心中」「赤の中の女」では2人きりで旅行に出かける程であり、親友といってもよい間柄。
やるせない事件解決で落ち込んでいる金田一に、更なる事件捜査を持ち込んで発奮させるという離れ業の気遣いを見せている。
「等々力」という名前は作者のお気に入りなのか、金田一以前の探偵小説「由利麟太郎」モノにも同名の人物が存在している。
- 磯川警部
主に岡山を舞台とした、長編の相棒たる警部。フルネームは磯川常次郎(つねじろう)。
体格は小太りの年配で、「県警の古狸」とよく呼ばれる。
戦後間もなく妻を亡くしたいわゆるやもめ。
本陣殺人事件で26歳前後の金田一と初めて事件解決にあたり、以来戦後も長い付き合いが続いている。他にも獄門島、悪魔の手毬唄などの名作でコンビを組んでいるが、ドラマや映画では等々力警部に置き換えられていたり、不憫な役どころ。
戦争中は金田一と同様徴兵。この間兵員輸送中に敵機の爆撃のため船の甲板から海上に叩きつけられることとなり、後遺症として腰をいくらか悪くしている。戦後はパージに遭わず復職したが、役は警視などには上がらず、最後まで警部であった。
普段は東京を根城にしている金田一だが、岡山方面に行く際には必ず彼に挨拶にしに行くなど、等々力警部とも勝るとも劣らぬ友誼を結んでいる。そして旅行とうそぶいて、現地の未解決事件を金田一に振るなど、中々狸な真似をしてもいる。
金田一耕助ものの最終作「悪霊島」では、ある重大な事実が判明する。
- 久保銀蔵
アメリカでくさっていた金田一を更生させ、探偵としての門出を祝った大恩人。いわゆる金田一のパトロンの一人である。果樹園の経営で成功を収めており、在米日本人達の橋渡し役も担っている。彼の姪の結婚式後起こった惨劇が本陣殺人事件である。
- 風間俊六
金田一の故郷の幼馴染。戦後はヤミでのし上がり、後に建設業で大成した。
相当な艶福家であり、自立した女性を好む。資金を提供しては多くの愛人に料理屋やバーなどを開かせており、その内の一人おせつに、割烹旅館「松月」を取り仕切らせている。面倒見の良い性格で、根無し草同然の金田一を心配、後にアパートに引っ越すまでこの松月に住まわせている。
後にアパートを高級マンションに建て替えるなど、金田一が重荷に感じるほど友情に厚い男。
初登場は「黒猫亭事件」。顔が広いだけに、彼の女性関係や仕事関係者から事件が始まることも多く「悪魔の寵児」はその典型である。
- 多門修
男前のドン・ファンだが、元愚連隊の凶状持ちであり、バーの用心棒などやって過ごしている。
多門六平太なる似た名前の人物も存在し、恐らくほぼ同一人物とみてよいと思われる。
ある事件で殺人犯の冤罪をかけられ、金田一に助けてもらってから彼に心酔。キャバレーなどの水商売界隈の聞き込みや、依頼人の護衛、容疑者の尾行などを担うようになった。その活躍は「支那扇の女」「扉の影の女」に詳しい。
- 成城のY先生
言わずと知れた探偵小説家の大御所。
彼が「本陣殺人事件」の事件を小説に起こしたのが、金田一の耳に入り、後に彼から自分の自伝の著者と正式に認められ、多くの事件の話を提供された。干支一回り程年が離れている。金田一の「いい性格」を小憎らしいと感じてもいるが、気心しれた仲であり共に旅行することもある。
原作者自身がモデルとなっているとおり、結核持ちで病弱。大好きなプロ野球シリーズも、持病の悪化によって寝込むことになり、見られなくて残念がっている。
また、家から少し離れた近所に集合住宅(団地)が建造されていた事に気付かなかったり、物語の上で重大な事実を掴んでいるにもかかわらず、最後までそれに気付いていなかったりするくらい、のんびりとした性格である。
「犬神家の一族」など、一部映像作品にも登場しているが、時々によって役割が異なる。
推理方法と独自のヒューマニズム
事件捜査に関しては証拠集めは警察に任せて人間関係を探っていき、そこに物証を当てはめていくというもの。警察が見落としたような物証を自力で見つけたり、変幻自在の変装と天性の技術、様々なギミックを駆使したり、変装術を駆使して生死すら偽装して犯人を追い詰めたり、人知を超えた超能力を手掛かりに謎を突き止めたりはしない。
あくまで現場主義で現実的な捜査である。また警察とすぐに連絡が取れずとも、虫眼鏡などは常に持ち歩いており、毒物や宝石などの知識もあるため、物証の鑑定は一通りの事ができる。ただし、事件の解決に直接的に利用した訳ではないものの「三つ首塔」で行方不明者を探す際に一度だけ夢のお告げに頼った事がある。
秘密主義的な性格で、自身の考えや手の内を最後まで明かすことが少なく、関係者をやきもきさせることが多い。メタ的な演出で、現場への到着自体が遅いなどで、複数の犠牲者を出してしまったり、犯人を暴いた後に捕縛するなどの適切な処置をしなかった結果、最後の最後で自殺されて死に逃げされたりといった展開が割に多い。
ただし、彼のシリーズは怪奇小説の側面もあるので、犠牲者が複数人出る展開は仕方が無いとも言える。また、犯人の捕縛に関しては自身の捜査の手法上、犯人を暴く際にはその場に警察関係者や犯人以外の登場人物も複数人同席しているケースが多いため、一概に彼一人に非があるとは言えない。むしろ金田一は昨今有名な他の探偵と比べれば防御率は高い方である。
独特なヒューマニズムの精神があり、真相を暴いたところで誰も救われないと判断した場合は意図的に犯人を見逃したり、犯人を庇って自殺した者がいた場合には誰にも話さない事を条件に依頼人にのみ真相を語って、後は自殺した者が全てやった事にするというケースが多い。付き合いの長い磯川警部は「悪霊島」の中で「金田一に任せると謎は解けるが犯人は捕まらない。犯人を捕まえたかったら自分達で解決しろ」と部下に語っている。
融通が利くため、事件が一応の解決を見たなら、引導を渡すのを待ってやりもするし、自分の手柄を誇るような事もしない。
ただし同情の余地の無いような身勝手な犯人や、決定的な証拠を突き付けられてもなお言い逃れようとする犯人に対しては、一転して辛辣な態度を取る。また稀にだが犯人に対して自殺教唆としか思えない発言をしたり、意図的に自殺に追い込むような展開や描写も存在する。
前者は「獄門島」や「八つ墓村」で、後者は「幽霊男」や「仮面舞踏会」で特に顕著である。また、映像化作品では石坂浩二版や古谷一行版は温情型の性格が、片岡千恵蔵版や長谷川博己版は辛辣型の性格が強調されている。
監督・市川崑は「金田一は天使のイメージ」と語り、探偵としての事件解決を「浄化」と捉えていた。あえて美麗な青年といった一般的な名探偵から外れた像の金田一には、単なるトラブルシューター以上の魅力があったと言えよう。
事件が解決すると、犯罪捜査を生業とすることへの嫌悪感や興味の対象が削がれた事による一種のメランコリーに襲われ、それを癒すかの如く行く先も決めないでふらりと旅に出るのが常である。
・・・が、それを見越した等々力警部らに、気つけとしてまた次の事件捜査に巻き込まれるのも常である。
演じた主な俳優
1950〜60年代
- 片岡千恵蔵(映画「片岡千恵蔵の金田一耕助シリーズ」。彼がスーツ姿の金田一を演じたことがきっかけで、その後しばらく洋装のイメージが定着してしまった)
- 岡譲司(初のドラマ版で担当)
- 河津清三郎
- 池部良
- 高倉健(「警視庁の嘱託職員」という形で登場。オープンカーに乗り、サングラスにラフなジャケット姿である)
1970年代
- 中尾彬(予算等の都合から時代設定が昭和50年に変更、そのためかジーンズを履いたヒッピースタイルで登場し、他作品よりかなり若いイメージとなっている)
- 石坂浩二(東宝版。市川崑監督。石坂本人が長身であることを除けば、服装や性格などおおむね原作通りに描かれており、その後の作品に影響を与えた部分も大きい。2006年版「犬神家の一族」で久々に演じている)
- 渥美清(松竹版「八つ墓村」。作品や渥美の演技も同時期の石坂版とは全く異なるエッセンスとなっている。なお、石坂のイメージが原作とは異なると感じていた横溝正史が渥美を指名したとされる)
- 西田敏行
- 愛川欽也
- 古谷一行(ドラマ「横溝正史シリーズ」で演じたことで人気を博し、角川映画「金田一耕助の冒険」でも同役を演じた。なお、本作の劇中劇で初代金田一役として三船敏郎が出演している。さらに、舞台版にも出演している)
1980〜90年代
- 鹿賀丈史(映画「悪霊島」)
- 小野寺昭(土曜ワイド劇場版で複数回担当)
- 片岡鶴太郎(フジテレビスペシャルドラマ版で複数回担当。アクションシーンが多いのが特徴、なお片岡の身長は金田一の設定身長とほぼ同じである。)
- 役所広司
- 豊川悦司(東宝版「八つ墓村」)
2000年代
- 上川隆也(女と愛のミステリーシリーズで担当)
- 稲垣吾郎(フジテレビスペシャルドラマシリーズで担当。原作に忠実なスタイルとなっている)
- 長瀬智也(土曜ワイド劇場特別企画「明智小五郎vs金田一耕助」。相手役は松岡昌宏)
- 山下智久(フジテレビ「金田一耕助vs明智小五郎」シリーズ。上記の長瀬版とはタイトルこそ似ているが別作品であり、こちらは芦辺拓の小説を原作としている)
- 長谷川博己(NHKBSプレミアム・スーパープレミアム「獄門島」)
- 池松壮亮(NHKBSプレミアム・シリーズ「横溝正史短編集」で担当)
- 吉岡秀隆(NHKBSプレミアム・スーパープレミアム「悪魔が来りて笛を吹く」「八つ墓村」「犬神家の一族」→NHKによるインタビュー記事)
- 加藤シゲアキ(フジテレビスペシャルドラマ)
舞台版など
- 田村亮
- 関智一(演劇劇団『ヘロヘロQカムパニー』公演。関自身の強いこだわりで、原作をほぼ忠実に再現している)
関連イラスト
関連タグ
本陣殺人事件 八つ墓村 獄門島 犬神家の一族 悪魔が来りて笛を吹く 悪魔の手毬唄
由利麟太郎:横溝正史が金田一耕助以前に生み出した名探偵
金田一京助:名前の由来となった人物。元々は横溝が住んでいた東京・吉祥寺の隣組にいた「金田一安三」氏から姓を拝借、安三が京助の実弟だったことから名前の方も拝借して「耕助(こうすけ)」にした。後に京助の長男・金田一春彦は、よく「金田」(かねだ)と読み違えられていた「金田一」姓を有名にしてくれた横溝に感謝したとのことである。
そして平成の世に推理小説『啄木鳥探偵處』に主人公の相方として登場、令和でアニメ化されようとは…。
金田一一:別の作者により創作された金田一耕助の孫。「じっちゃんの名にかけて!」の決め台詞で知られる。なお、横溝正史没後に誕生したキャラクターであり、非公式である。