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概要
漢字表記は「羆」。
頭胴長1.8~2.8m、体重500~700㎏に達する。体は褐色・赤褐色からほとんど黒色まで変化に富み、特に灰色がかった毛色のヒグマを指して「グリズリー」と呼ぶ。
ヨーロッパからシベリア・アラスカまで広く分布し、日本には北海道に最小亜種であるエゾヒグマがいて、ある意味では現代日本における唯一の陸棲「メガファウナ」である。
基本的にヒグマは森林や高山、砂漠、海岸等、食べ物を得られる場所ならどんな環境にでも棲むが、海外のヒグマは都市部周辺に出没することはなく、人里離れたところに生きている。が、最近では北欧の一部などヒグマやオオカミが人馴れしてきた地域もあり、至近距離での共存が可能(かもしれない)地域もある。広大な縄張りを持ち、単独生活を行う。
北海道のヒグマ
遺伝的に3系統が確認されていて、同一地域にこれほどの系統が存在するのは世界でも極めて珍しい。それぞれが異なる時期に異なるルートで北海道にやってきたが、そのうちの一つは本州経由で到達したことが判明している(つまり、ヒグマは昔は本州にもいた)。本州では、絶滅の原因は不明だが、温暖化によって草原の減少、餌となる大型動物の減少または小型化、その状態でツキノワグマとの競合(本来なら生息環境と餌が異なるので共存できる)、または人間との接触で絶滅したものと考えられる。これは世界でも同様であり、かつては地中海沿岸やアフリカにまでいた。また、同じ北海道でも礼文島と利尻島では絶滅している(海を渡っている個体が時々見つかるが)。つまり、数百年・数千年レベルで見れば、津軽海峡を渡って本州に再定着する可能性もある。
北海道は、ヒグマ生息地としては例外的に人口密度が高く、かつヒグマの生息密度も高い(これは、ヒグマが島しょ矮小化によって特別に小型化した事と、日本では比較的に開発が進まなかったので沢山の人間とヒグマが共存できるほど、北海道の自然の恵みが豊かであるということを示している)ため、市街地の近くの山にも、普通に棲息している。ただ、北海道においてもヒグマと実際に遭遇したことのある人は少ない。それは、ヒグマは人の目に触れるのを避けて山中に潜んでいるためである。
- 本来は草原と周辺の森などに生息するが、北海道では草原が減り、ヘラジカやトナカイ、オオツノジカ、ケブカサイ、マンモス、ナウマンゾウ、バイソンやオーロックスなどの大型動物やトキや一部のツルが絶滅し、それを追ってライオンやトラ、ヒョウやオオヤマネコ、そしてオオカミが絶滅したため、直接の捕食だけでなく、おこぼれの死骸にありつける機会が減った事も小型化に無関係ではないだろう。河川や海岸にも、チョウザメやイトウ、ニホンアシカやウバザメ、何より大型鯨類などがほぼ絶滅したり激減したので、これらの死体などを摂取するチャンスも減っただれう。山の実りも同様である。
しかしヒグマは、ツキノワグマより巨体であり力も強いため、人間と遭遇した時は惨事になる危険が大きい。ヒグマ対策は、ヒグマが人里に出ないようにすること、山野に出た人間がヒグマに出会わないようにするのが基本である。近年は、駆除政策の転換により警戒心の薄れたクマが増えているといわれ、たまに市街地近辺に出てくるクマもおり、よく騒ぎになる(特にヒグマ生息地である山と隣接した札幌のような都会で問題になる)。また、人間の側も、攻撃性を示さないヒグマに餌を与えるなどの行為が目立つようになり、不測の事態が発生しかねないために社会問題になっている。
食性は、植物質から動物質まで様々な餌を食べる雑食性。昆虫や腐敗した死肉も食べる。大型動物は積極的には狩らないとされていたが、近年の北海道ではシカを襲うこともよくあり、稀には共食いをすることもある。
北海道のヒグマは大陸のヒグマよりも小型で植物食傾向が強く、特に山菜や果物、木の実などを好む傾向が強い。これは、餌となる生物が限られていることが大きい(元々狭いのに、人間社会の影響で住める地域と資源、大型動物の絶滅などの追撃が追加された)。知床のヒグマは秋になると川を遡上する鮭を好んで捕食するが、その他の地域の川では遡上する鮭を人間が捕ってしまうためヒグマが食する機会は少ない。ただし、北海道のヒグマの植物食傾向が定着したのは内陸部の開発が進んだ江戸時代末期以降であり、それ以前のヒグマは動物性の食物もかなり摂っていたようである。
ヒグマとしては様々なものを食べるが、個々のクマは特定の季節にはそればかりを好んで食べる偏食の傾向があるとか。(人の食べ物の味を覚えると人の生活圏に頻繁に侵入する恐れがあるため、ヒグマがいる地域では、決して生ゴミを安易に投棄してはならない。餌やりなどはもってのほか)
冬は穴の中で冬眠するが、冬眠しそこねたヒグマは穴持たずとなり、凶暴化する
北海道におけるヒグマの扱い
北海道ではメロンやカボチャなど農作物の被害や、市街地に出没するなどして警戒が呼びかけられる事態が現在も頻発しており、過去には人間の死傷事件も度々引き起こしている。
中でも1915年に起こった「三毛別羆事件」は7名が喰い殺されるという惨事になった。この事件は後に小説家・吉村昭氏により小説「羆嵐」(くまあらし)として作品化、さらに東映、よみうりテレビによって映画化もされている。
人間を襲い、人肉の味を知ったヒグマは、人を喰らうのが習慣になる危険性が高いため、自治体が猟師に依頼して射殺される。
アイヌの人々はヒグマの事を「キムンカムイ」(ずばり「山の神」と言う意味。「金毛神」と言う当て字がある)と呼び、狩猟で得られる獲物の中でも最高位か、或いはその立ち位置に極めて近いものとして敬った。豊富に獲れていたせいで、神が袋から地上へ投げ下ろしていたというぞんざいな扱いを受けていたエゾシカとは大きな違いである。
一方で、人殺しを経験したヒグマに対しては、邪悪な魔物として扱う傾向もあった。
一部のアイヌ伝承では「山の奥に棲むヒグマ神は気性も穏やかで神としての位も高いが、山の端に棲むヒグマ神は気性が荒く、神としての位も低い」とする描写がある。
ヒグマを意味する俗語に「山親父」と言うものがあるが、これは「地震・雷・火事・親父」の語句に見られる厳格な父親像をヒグマに仮託しての命名と思われる。
もちろん、「火事」との語呂合わせっぽい親父なんかより、山親父の方がはるかに危険である事は言うまでもない。
クマと出会わないために
基本的にクマは人間と会うことを嫌うので、人間が近づいてくることに気付くと、隠れて静かにやりすごすのが普通である。しかし、好奇心旺盛な若いクマは、興味から人間に近づいてくることがあり危険である(事故を起こすのは人を恐れない若クマが多い)。山に入る時鈴などをつけておけばクマの側も早いうちに気付きやすいので遭遇のリスクを減らせると言われているが、絶対ではない。
また、犬は嗅覚に優れているので、ヤブの中に隠れているクマに興奮して吠えかかり、ヒグマを怒らせることがある。なので、犬を連れて山に入ってはいけない(これは本州の山にもいえることであるが、北海道の場合は犬連れで山に入るのは特に危険。ヒグマ狩りの猟犬はヒグマの注意を人間からそらす訓練を受けている)。
また、冬眠あけ(春)や繁殖時期(6月頃)のクマは活発に行動するので、この時期は山に入るのを避けたほうがよい。