アバドン【Abaddon】とは、『新約聖書』の「黙示録」に記される天使の一種である。
概要
Καὶ ὁ πέμπτος ἄγγελος ἐσάλπισε· καὶ εἶδον ἀστέρα ἐκ τοῦ οὐρανοῦ πεπτωκότα εἰς τὴν γῆν, καὶ ἐδόθη αὐτῷ ἡ κλεὶς τοῦ φρέατος τῆς ἀβύσσου, καὶ ἤνοιξε τὸ φρέαρ τῆς ἀβύσσου, καὶ ἀνέβη καπνὸς ἐκ τοῦ φρέατος ὡς καπνὸς καμίνου καιομένης, καὶ ἐσκοτίσθη ὁ ἥλιος καὶ ὁ ἀὴρ ἐκ τοῦ καπνοῦ τοῦ φρέατος.
(そして、第五の天使がラッパを吹いた。すると、私は天から一つの星が地上に落ちたのを見た。そしてその星に、底なしの深淵の穴を開いた。すると、大きな竈から出る煙のような煙がその穴から立ちのぼった。そして、その穴から〔立ちのぼる〕煙のために、太陽も中空も暗くなった)
(Αποκάλυψις Ιωάννου 9:1-2)
(訳文は岩波書店『新約聖書Ⅴ』収録の小河陽先生の訳)
「ヨハネの黙示録」にて語られる"七つの災厄"の五番目に出現する存在。
その姿自体は不明であるが、彼が天使のラッパによって召喚された際に率いる奇怪なイナゴから"蝗の王"と呼ばれることもある。
また奈落の主ともされ、神に背いた堕天使や冷獄に封じられたルシファーを千年の間封じ見張る、曲りなりにも神の使い、天使である。
アバドンのイナゴ
καὶ ἐκ τοῦ καπνοῦ ἐξῆλθον ἀκρίδες εἰς τὴν γῆν, καὶ ἐδόθη αὐταῖς ἐξουσία ὡς ἔχουσιν ἐξουσίαν οἱ σκορπίοι τῆς γῆς· καὶ ἐρρέθη αὐταῖς ἵνα μὴ ἀδικήσωσι τὸν χόρτον τῆς γῆς οὐδὲ πᾶν χλωρὸν οὐδὲ πᾶν δένδρον, εἰ μὴ τοὺς ἀνθρώπους οἵτινες οὐκ ἔχουσι τὴν σφραγῖδα τοῦ Θεοῦ ἐπὶ τῶν μετώπων αὐτῶν.
(それから、その煙の中からいなごが地上に飛び出た。それらのいなごには、地上のさそりが持っている力と同じような〔人を刺す〕力が与えられた。しかし、それらは地上の草やどんな青物にも、あるいはどんな樹木にも害を加えないように、〔害を与えるのは、〕ただ額に神の刻印を持っていない人間だけにするように、と言い渡された)
(Αποκάλυψις Ιωάννου 9:3-4)
(訳文は同じく岩波書店の小河陽先生の訳を参照)
アバドンが率いるイナゴは、「金の王冠、人の顔と女性の髪、獅子の歯、蠍の尾」を持つとされ、人に襲いかかって尾の毒針で刺すという。その飛び回る様相は"戦車を轢く馬"に例えられ、おびただしい数の群れで襲来するという。
尾に付いた毒針の毒は人を殺すことはないが、死をも上回る激痛を5ヶ月ものあいだ人に与えて苦しめる(イナゴの命が5か月であることからの連想とされる。『新約聖書Ⅴ』収録「ヨハネの黙示録」小川陽訳、岩波書店、215ページ)。
ただし、彼らが刺すのはキリスト教徒以外の異教徒だけであり、さらに言えば彼らは決して人を殺すことを神から許されていないという。
原形について
名前はヘブライ語で「אָבַד/abad(彼は殺した、滅びる)」から転訛した【破壊者, 滅ぼす者, 奈落の底】という意味になる。
עָרוֹם שְׁאוֹל נֶגְדּוֹ; וְאֵין כְּסוּת, לָאֲבַדּוֹן.
(彼の面前では黄泉〔シェオール〕も裸で/奈落の底〔アバドーン〕も覆い隠すものがない)
(6 26 אִיּוֹב)
כב אֲבַדּוֹן וָמָוֶת, אָמְרוּ; בְּאָזְנֵינוּ, שָׁמַעְנוּ שִׁמְעָהּ.
(奈落の底〔アバドーン〕も死も言う、/「我々はそれを耳で伝え聞いただけだ」)
(22 28 אִיּוֹב)
(ヨブ記の訳文は岩波書店『旧約聖書Ⅻ』収録の並木浩一先生の訳)
שְׁאוֹל וַאֲבַדּוֹן, נֶגֶד יְהוָה; אַף, כִּי-לִבּוֹת בְּנֵי-אָדָם.
(黄泉〔シェオール〕と奈落〔アバドーン〕は、ヤハウェの前にある。/人の子らの心は、なおさらのこと)
(11 15 מִשְׁלֵי)
(箴言は同『旧約聖書Ⅻ』収録の勝村弘也先生の訳)
その原形はイナゴ(正確にはトノサマバッタや近縁のサバクトビバッタ)による虫害であり、その神格化とされる。
実際バッタによる蝗害は凄まじく、1万の大群で4000kmを移動し、広大な田園を七日も経たずに食い潰すという。また繊維製のものならば何でも食うため、北海道の明治時代開拓期には衣服さえ齧られてボロボロになったといった記録が残っている。
性格も狂暴化し、場合によって雑食化――すなわち肉食にまで及ぶことが確認にされている。
創作での扱い
十六世紀の学者ハインリヒ・コルネリウス・アグリッパがアバドンを復讐の女神を統率する悪魔と明記するなど、悪魔としてのアバドン像は時代を下る毎に強調された。
特にジョン・バニヤンの「天路歴程」ではアポルオンの名で主人公クリスチャンと戦う悪霊として登場している。
正体不明な事から、イナゴ型の悪魔として描かれることが多い。
メガテンシリーズ
アトラスのRPG『女神転生』シリーズでは、不気味な緑色の悪魔として登場。
詳細は →魔王アバドン
バトルスピリッツ少年突破バシン(漫画版)のスマイル
漫画版におけるラスボス。
「サウザンドスピリッツ団」のNo.4を倒し、新たなNo.4となった謎のカードバトラー。スマイルの名の通り「ケケケ」と不気味な笑いが特徴で、バトルにおいても人を喰ったような態度をとる等、腹の奥底が全く読めない。系統【天霊】を軸とした黄属性デッキの使い手(本人曰く、「かわいいは正義」)で、切り札は『大天使ミカファール』と『魔龍帝ジークフリード』。
悪魔城ドラキュラ
「奏でよう、レクイエムを」
コナミのゲームシリーズ『悪魔城ドラキュラ 蒼月の十字架』に登場。CV:緑川光
疫病を齎すイナゴ達の主にして、深淵の魔王。エリア『深淵』を守護しているボスキャラクター。
見た目は青年風の上半身に飛蝗の下半身を持った指揮者のような姿をしており、
普段は飛び跳ねながら、手にしたタクトを振るいイナゴの群れを呼び出して攻撃する。
尚、止めを刺す(※)のに失敗すると「アンコールかい?」と挑発してくる。
「フォルティッシモ!」
次回作『悪魔城ドラキュラ ギャラリーオブラビリンス』にもゲスト出演。
ただ他のボス達と同じく何度でも戦える仕様なので特別感は余りない。一応イナゴの群れを操る時の台詞パターンが増えた他、CVが変更されているためその印象はまるで違う。
注釈
※・・・・・・『悪魔城ドラキュラ 蒼月の十字架』では一部のボスを除き、ボスに止めを刺す際にタッチペンで所定の一筆書きの図形(魔封陣)を描かなければならず、失敗するとボスの体力が4分の1回復した状態で戦闘継続となる。
ゴッドイーター2
神出鬼没な謎のアラガミ。その姿は神機が捕食の際に繰り出す顎部に似ていなくも無い。何も悪い事をしないのにゴッドイーターに討伐対象より優先的に狩られることが多い可哀そうなアラガミ。理由は非常に希少な素材を出すコアを持つ為。
その希少ぶりはアバドンが出現した時と仕留めた時のオペレーターのリアクションを見れば一目瞭然である。
攻撃はしてこない上に、全属性が弱点で非常に弱いが逃げ足が速く、やたら小さいので攻撃を当て難い。またシエルの感応能力にも引っかからない特殊な力を持つ。
しかし、ドレットパイクのような一般人でも走って逃げれそうなアラガミも登場する中、こいつは一般人にも無害なのでは…?
神羅万象
どうみても仮面ライダーな蝗魔大公アバドンが登場。
白騎士物語
アバドンの名を冠する装備が登場。
ロードオブヴァーミリオン
魔種のアタッカーであるデモン。
るくるく
他の悪魔と同じく表面上はあまり怖くない、王冠をかぶりラッパを持ったマフラーのバッタ男「ドンちゃん」として登場。
余談だが作者のあさりよしとおは、怪人の日常をえがいたライトノベル『俺の足には鰓がある』の挿絵で、悪の組織の日常を破壊する毒針を持つイナゴ男「アバドーン」も描いている。
仮面ライダー
バッタの改造人間ということで、オマージュやパロディとして呼称されることがある。
例:上記の『神羅万象』や、みなぎ得一の漫画の魔武具「アバドン」など。
そして…令和最初のライダーがバッタの群れをモチーフとしたパワーアップフォームに変身する・・・・・・!!!