概要
『宇宙戦艦ヤマト2199』に登場する異星国家ガミラスが用いてる言語。架空言語だが、てきとうな発音や日本語の逆さ読みなどを使うタイプのものではなく、言語学者の手によって単語や文法が設定されている。
使い方としては海外ドラマの吹き替えを疑似的に再現しているような感じ。つまりキャラが話しているのはあくまでもガミラス語であり、それを視聴者にも分かるよう日本語に吹き替えしているだけという扱いである。そして聞き流してもいいようなセリフや、異言語を話していることが強調される場面などは吹き替えされないため、ガミラス語パートが流れるという仕組み。
なので劇中では主に通信機越しのモブのセリフがガミラス語になっている。また、ガミラス人と直接相対した際、翻訳機起動直前までガミラス語を用いるという使われ方もしている(第10話のメルダと第25話のデスラー)。直接会話するわけでなくても、翻訳機なしで両者がほぼ同じ空間にいればガミラス語が使用されることもある(第20話のゲットー達など)。
日本語に吹き替えられているシーンにおいても、一部の固有名詞や慣用句などはガミラス語のままとなっている。
モニター上の単語も基本的にガミラス語になっているのだが、稀に日本語のローマ字表記や英単語をそのままガミラス文字にしたと思しきものもある(例えば第4話で森雪を「teron female」としていたり、第5話で小惑星を「hoshi」としていたりする)。
制作を手掛けたのは言語学者であり、SFファン・アニメファンでもあるHoffnung(ハンドルネーム)。ヤマトへは旧友の脚本家に誘われて参加したとのこと。
主だった単語は製作スタッフ側が予め考えてあり、それを基にHoffnung氏が文法や細かい単語などを考えていった。なお、Hoffnung氏が渡されたガミラス語の単語帳は、兵器や天体の固有名詞や単位系まで載ったかなり分厚いものだったらしい。
なお、ガミラス語は雰囲気がドイツ語に似ているが、少なくともHoffnung氏は特定の言語をベースに制作していたわけではないようで、当人曰く単語は完全に創作なので無国籍、文法はSVO型言語のハイブリットと述べている。
有名どころの架空言語に比べてしっかりした解説が行われる機会があまりないので、考察を行う人がよくいる。
設定
ガミラス語の基本形態は『2199』の公式設定資料集(ガミラス編)で詳しく解説されているため、より正確に知りたい人は書店へ。
また、一部単語などは劇中のモニター類やAR台本、アニメスタッフのTwitterなどでも稀に確認できる。
特徴
広大な版図と多民族に普及するため、文法は単純化され、合理的な形式となっている(Hoffnung氏曰く「分析的」)。規則的でイレギュラー要素が少ない文法なので、外国語が苦手な人でも直訳でいいなら日本語訳や逆にガミラス語訳も可能かもしれない。ただし後述するが単語がややこしいので、単語帳は必須(売ってないが)。
また、規則的とは言っても、劇中でも頻繁に使われる「ザー ベルク」(イエッサー)や「ガーレ デスラー」(デスラー万歳)など、文法に囚われない慣用句や定型表現は普通に存在する。
文法
- 語順
語順は英語などと同じSVO型(主語 - 動詞 - 目的語)で、これが崩れることは基本的に無い模様。
例えば疑問文に関してだと、英語の場合は一部の単語の順序が逆転する(「You are」が「Are you」になったりするアレ)が、ガミラスでは助詞で対応しており、文末に「ジ」あるいは「ニ」を付け加える(日本語で文末を「~か?」とするようなものだろうか)。
ただし、情報量に応じてある程度の語順の自由度は設けられている。
- 語形変化
言語によっては状況に合わせて単語が変化することがあるが、ガミラス語ではそれはない。
例えば過去形の場合、英語では動詞が変化する(have→had、come→cameなど)が、ガミラス語では動詞の前に「ケス」という助動詞を付け加える。それ以外でも受動態での変化(英語でいうと過去分詞)や名詞・形容詞の格変化も無ければ、日本語にあるような格助詞(これは、これを、など)すらない。
これらの区別は助動詞や文章内の語順で判別を行っている。
単語
- 合体による造語
語形変化こそないが、一方で複数の単語を連結しておまけに短縮した造語(いわゆる複合語やかばん語の類)が得意らしい。例えば、ガミラス語を意味する「ガミラジーボ(garmillazibo)」は、「ガミラス」(Garmillas)と「言う」(ジーボ、ziebo)の複合語とのこと。
そんな例が割と多いので劇中のキャラクターのセリフを聞き取って単語を抜き出すのはかなり難しい。
- 三人称代名詞
三人称がかなり細かく区分されており、なんと10通りもある。このうち劇中と関連書籍で判明しているのは半分程度。
発音
発音には濁音が多く、ドイツ語的な固い響きを持っている。
発音ルールもドイツ語寄りなようで、英語読みやローマ字読みで通じない単語も偶にある。例えば劇中だと「ruha」は「ルーア」、「delsjave」は「デルスヤヴェ」と発音されている(どちらもドイツ語に存在するルール。後者はドイツ語に限らないが)。
単語の例
劇中で頻繁に用いられている単語や印象深い単語を列挙(一部は耳コピなので注意)。代名詞などはやはり使用回数が多く、例えば近称の「カルマ」は割とよく聞こえてくる。
太字は日本語のシーンでも使われている単語。
ガミラス語 | 綴り | 日本語 | 本編での使用回 |
---|---|---|---|
ヤマッテ | yamato | ヤマト | 第20話 |
ゾル(※1) | (不明) | 太陽 | 第6話(日本語シーン) |
テローア(※2) | (不明) | 地球 | 未使用 |
テロン | Teron | 地球人、地球の | 多数 |
ガミラス | Garmillas | ガミラス | 多数 |
ガミロン | Garmillon | ガミラス人、ガミラス臣民 | 第8話、第22話など |
イル / イルン / イルク | il / iln / ilk | 私 / 私の / 私を、私に | 第6話、第8話など |
ミロン / ミロク / ミロー | milon / milok / miloh | 我々 / 我々の / 我々を、我々に | 第2話、第21話など |
ベ / ベルク | beh / berk | あなた / あなた(目上) | 第2話など |
ベク | bek | あなたの | 第18話など |
カルマ | kharma (karma) | 指示詞近称(これ、この、etc...) | 第8話、第20話など |
トルマ | torma | 指示詞遠称(あれ、あの、その、etc...) | 第8話など |
ザー | zah | はい | 多数 |
ダット | dat | いいえ | 第2話など |
フュゼロン | phuzeron | 総統 | 第6話、第8話など |
ガーレ! | ghale | 万歳! | 多数 |
デルス | dels | 戦闘 | 第10話など |
ヴェザー(※3) | (不明) | ビーム | 未使用 |
バム | vam | 砲 | 未使用 |
バルメス | (不明) | 攻撃する | 第2話 |
バルス | (不明) | 撃つ、撃て | 第14話 |
ボルメ | (不明) | 爆弾 | 第2話など |
ヴァル | (不明) | 航空、飛行 | 未使用 |
ガー | (不明) | 航空機 | 第20話 |
ミゴ(※3) | (不明) | 反射 | 第5話 |
ガドラ | gardola | 栄光 | 第8話 |
ダイ | deyn | 偉大 | 第8話 |
ルーア | ruha | 国家 | 第8話 |
リーア | rieha | 惑星 | 第8話 |
ヴィーア | (不明) | 衛星 | 第4話、第5話 |
このほか、単位系としてガット(速度単位)、ゲック(時間単位、秒に相当と推測)、ベク(温度単位)、コルム(距離単位、光年やパーセクなどに相当すると推測)、バーゼル(割合の単位、パーセントに相当と推測)なども登場している。
ちなみにセリフでも設定でも頻繁に出てくる「ゲシュ=タム」の訳語は明かされていない。推測するとしたら、次元波動エンジンと同原理の機関をゲシュ=タム機関と称しているので「次元波動」あたりだろうか?
(※1) 太陽系関連の固有名詞は地球の言葉から作ったという設定。ゾル(太陽)やテローア(地球)はラテン語由来、ズピスト(木星)やゼダン(土星)などは英語由来と思われる。
(※2) 劇中では地球のことを「テロン」と呼んでいるが、公式資料によると「テローア」が正しいらしい(ただ、波動砲封印栓に貼付されたガミラス語の文章では「Teron」表記になっている。一方で近縁のイスカンダル語ではユリーシャが第24話で実際にテローアと呼んでいる)。なので「地球人」を表すときは、厳密には「テローア人」か「テロン」と言うべきなのだろうが、劇中ではテロン人と呼んでいる。
(※3) つまりガミラス艦に搭載されているミゴヴェザーコーティングは直訳するとビーム反射コーティングとなる。
文字
独自のガミラス文字も設定されている。アルファベットとアラビア数字に対応している。
角ばった記号的な形が特徴。劇中でガミラス文字が出てくるのが基本的にモニター上だけなのであまり見る機会がないが、筆記用の細い線のフォントもある。
ガミラス語族
劇中で使用されるガミラス語は標準ガミラス語と呼ばれるものだが、それ以外にも類似する言語が存在しているようで、ガミラス語族なるものを形成している。これは『星巡る方舟』劇中で少しだけ確認でき、
- 西半球高地ポルメリア語
- 西半球高地ゲルバデン地方語
- 西半球低地ケルカプフ地方語
- ゼルグーデン語
などがあることが分かる。高地とか低地とかついているのがこれまたドイツ語っぽい。
ちなみにこの地名はガミラス艦の艦級名の由来にもなっていると思われる(上からポルメリア級、ゲルバデス級、ケルカピア級、ゼルグート級)。
また、イスカンダル語とは共通点が多く、ガミラス語がイスカンダル語から派生した言語であることが窺える。イスカンダル語はガミラスでは「神聖ガミラス語」として扱われている。
他の異星言語
- イスカンダル語
解説によるとガミラス語と同系統の言語で、違いは地域差程度の範疇に収まるとされる。文字もガミラス文字が丸みを帯びたような形をしている。
発音に関してガミラス語で濁音のところが清音になっていることが多い。その響きはフランス語やウェールズ語に近い印象とのこと。
劇場版『星巡る方舟』で使用。
日本語と同じSOV型言語(劇中でのモニターの表記だとVSOとされているが多分誤植。例文はSOVだし)であり、てにをはの対応も日本語に近いので、ガミラス語よりも分かりやすい。
文字は1本の棒を軸に色々装飾したような形状のものが多く、連続した文字は中央の棒が繋がって書かれる。また、文は基本的に縦書きで、横書きする場合は文字自体を横倒しにしている。
地球およびガミラス関係の固有名詞はガミラス語から借用しており、ヤマトを「ヤマッテ」、地球を「テロン」、ガミラスを「ガミロン」と呼ぶ。また、地球人は「テロネゼ」、ガミラス人は「ガミラーゼ」と表現しているため、「○○人」は「○○ゼ」とつけるルールなのだと思われる。
ちなみに『星巡る方舟』の限定版BD特典の絵コンテには一部セリフを除いてカタカナでのガトランティス語が併記されている。
- ジレル語
劇場版『星巡る方舟』で使用。
まともに使用されたのは一言しかないので言語体系は不明。文字は音符のような形をしている。
ジレル人はアケーリアスの末裔なので、アケーリアスの文字も共通である。
続編では
続編の『宇宙戦艦ヤマト2202』では、他の言語もろとも廃止されてしまった。異星言語パートが無くなったとかいうレベルではなく、日本語パートで使われていた「テロン」や「ゲシュ=タム」などの単語までもがほぼ消されている。
脚本担当は「異星言語を使うと(観てる側が)混乱して印象が変わってしまうから」と述べている。例えば第2話でズォーダーが「地球か…」と貫禄をもって言うところで「テロンか…」とか言われても…とのこと。気持ちは分からないでもないが…
もっとも仮に使い続けようとしたとしても出渕総監督をはじめ異星言語を制作していたスタッフは軒並み離脱してしまったのでまともに使えたとは思えないが。
一応ガミラス語の存在自体が無かったことにされたわけではなく、第6話では翻訳機の存在に触れている。異星単語廃止に強いて理屈付けを行うとしたら「翻訳機がより発達したから」というところだろうが、そこら辺のフォローは劇中にも関連書籍にも一切無かった。
結果として異星言語はほぼ全て消滅したが、例外として「ガーレ」は存続している。流石に頻繁に使われていて視聴者の耳にも残っているだろう「ガーレ・デスラー」を「デスラー総統万歳」に改変するほどの思い切りは無かった模様。それと何故か「ゾル星系」が残っている(第6・7話でガトランティスが使用)。
さらなる続編の『宇宙戦艦ヤマト2205』では、異星言語パートこそ無いものの、異星語単語が復活。冒頭でデスラーがガミラス語でカウントダウンを行ったときに嬉しかった視聴者もいるだろう。さらに後章では字幕でかなり長いガミラス語文章が登場した。
余談
元ネタ
オリジナルである『宇宙戦艦ヤマト』でもガミラス語が出たことがある。第6話でガミラス兵ヤレタラが発した「ツバクカンサルマ」(みんな向こうの戦車に乗れ)などである。これを逆さ読みすると…
『2199』では「ツバック カン サルマー」(連行する / へ / 戦車 → 戦車へ連れて行け)という形になった。というより十中八九これがやりたかったからガミラス語を作ったのだろう。
ガミラス語マニア
ライル・ゲットー役の吉開清人は台本のガミラス単語をまとめていくうちにガミラス語マニアになってしまい、現場にガミラス語の単語帳を作って持ってくるほどだった。彼はゲットー以外にも小橋拓哉などの脇役のほか、名無しキャラを勢力問わず非常にたくさん(30キャラくらい)演じており、第1話を除けば必ず何かしらの形で出演しているため、ガミラス語に触れられる機会も自然と増えていたと思われる。
声優仲間はおろかそれ以外のスタッフの間でも「ガミラス語と言えば吉開清人」という扱いになっていたらしく、内田彩が「ガミラス語は吉開さんに聞いてくれ」と言われたとYRAラジオヤマト(第26回)で暴露している。さらにヤマトファンによる非公式(であるが公式スタッフもよく参加している)トークイベントである「ヤマト講座」にて、ガミラス語を議題に登壇したこともある。
本人もブログにて「すっかりガミラス人」と認めているが、設定書を読んだわけではなくあくまでも台本から読み取ったものなので、覚えている単語は戦闘関連に偏っており、最終章の頃になっても「こんにちは」すら分からなかったと述べている。
『2205』ではその知識を買われて、なんと後章でガミラス語監修を担当した(しっかりクレジットもされている)。先述したガミラス語文章は彼の監修によるものである。
ちなみに声の出演は前章での佐野史彦役で一言だけだが、この一言がガミラス語文章登場のきっかけになっている。吉開氏のブログによると、この時のセリフがヤーブ・スケルジ(薮助治)に対する悪口だったため、あえてガミラス語でやってみたらどうかと提案。その提案自体は「さすがに佐野はそこまで嫌味な奴じゃないだろう」と採用されなかったが、これがきっかけで後章で彼の監修によるガミラス語文章を登場させることになったとのこと。
偶然のタイミングの一致
『2199』がテレビ放送された2013年春アニメは『はたらく魔王さま!』『翠星のガルガンティア』『銀河機攻隊マジェスティックプリンス』という架空の異言語が登場するアニメが他にいくつも存在していた。(『2199』は1年以上前から先行上映していたので厳密には違うが)同タイミングで何作品も架空言語が出てきたため、ちょっとした話題になった。