それは剣というにはあまりにも大きすぎた
大きく
分厚く
重く
そして大雑把すぎた。
それはまさに鉄塊だった
概要
主人公であるガッツが、使徒との戦いを始めた際に鍛冶屋ゴドーから譲り受けたもの。
唯一劇中で呼称されたのは「ドラゴンころし」だが、「ドラゴン殺し」とされる事が多い。
生半可な武器では通用しない使徒に対抗し得る常識外れの大剣。
彼自身の驚異的膂力と剣技が合わさることで、甲冑を着た兵士を一振りで両断したり、巨岩や大木も叩き斬る程の威力を誇る。その大きさと頑丈さから盾の代わりにもなる。無骨で大雑把な武器だが、刀剣としても一級品であり、切れ味は抜群である。
ガッツの常軌を逸した戦いの中で酷使された結果、物語中盤で刃毀れやゆがみでボロボロになったため、制作者ゴドーによって鍛え直された。
また、ガッツの長い旅路の中で使徒や魔物などの超常的な存在を斬り捨て続けた事で鍛え上げられ、霊的な存在にも通用する一種の魔剣へと変質している(ゾッドからは斬馬刀ならぬ斬魔刀と呼ばれている)。
ガッツの、ひいてはマンガ「ベルセルク」の代名詞ともいえる武器であり、『鋼鉄製の義手』と『狂戦士の甲冑』と共にガッツの驚異的な戦闘力を支えるとともに、その異常な有り様はこの記事の巻頭の詞と併せて「ベルセルク」全編を通すテーマとなってもいる。
ガッツの手に渡るまでの経緯
元々は武器の性能より見た目や美術的価値ばかりを偏重する王侯貴族達にうんざりしていた若き日の鍛冶屋ゴドーが、当時の領主から「ドラゴンをも殺せる剣を造ってほしい」という注文を受けた際に、「ドラゴンを殺す聖剣にふさわしい美しい剣」という含みを敢えて無視して文字通りドラゴンを殺せるほどの大きさと重さ・耐久力と破壊力を持たせて造り上げたものである。言ってしまえば鍛冶屋が本気で作ったジョークグッズである。
ゴドーはこの一件で領主の逆鱗に触れ危うく縛り首にされそうになり、当時住んでいた街を追われた。
美術的価値を一切考慮せず、ただドラゴン殺しに堪えうる性能を追求して作られた武器ではあるが、人間では扱いきれないほどに大型化し武器として無価値な存在になってしまった。
「存在する意味の無い武器」という、結果的に華美なばかりで実用に乏しい貴族達の剣と似たようなものとなり、使い手の事を考えていなかった若い頃のゴドーの過ちとして、自らの戒めとするために倉に安置されていた。
だがその後、居候していたガッツが使徒に襲撃された際に咄嗟に振るった事を機に、以後ガッツの愛剣となった。
初めて手に取った時のガッツはこの言葉と共に歓喜する。
「…人が悪いぜゴドー あるじゃねえか もっとオレの戦向きのやつがよ!」
元々ゴドーはガッツに餞別として、金床を切断できるほどの切れ味を持つ特製の剣を渡していたが「人以外のもの」を斬るようにはできていなかった為に、こちらは使徒との戦闘ですぐに折れてしまった。
ガッツがこれ程の巨剣をすぐさま扱える事ができた理由として、彼が幼い頃より体格以上の長さと大きさを持つ剣を使い続けていた事があげられる。
ガッツが傭兵団でガンビーノに剣技を叩き込まれ始めたのは若干六歳の時で、大人の両手剣を子供ながらに使用。成長するにつれて相対的に身の丈を超える「だんびら(幅広剣)」を使うようになった。
チューダーの傭兵団相手に百人斬りを行なった時の剣は「なまくらだが厚みも重さも普通の剣の三倍以上」とガッツ自身が言っている。この剣は激戦の中で酷使された結果、ドルドレイ攻略戦の最中に紫犀聖騎士団団長ボスコーンとの戦いで打ち負けて折られた。
誕生の経緯
「ベルセルク オフィシャルガイドブック」の作者インタビューにおいて、ガッツがドラゴン殺しを振るう姿は「ピグマリオ(著:和田慎二)」に出てくる巨大剣「大地の剣」や「グイン・サーガ」にヒントを得たと書かれている。(大地の剣は山くらいの大きさ。)
そこから「大剣を持った人間が本当にいたら どれだけ筋肉が必要で、振るとどんなアクションになるのか・・・といった実写の発想から入りました。」との談。
後世メディアへの影響
『身の丈を遥かに超える剣』というドラゴン殺しの登場は、後のメディア作品に絶大な影響を及ぼした。特に国内産RPGにおいては、ガッツに並ぶ筋骨隆々の男だけでなく痩身の美男子や更にはロリっ子に及ぶまで、クソデカ大剣を持つキャラクターが頻発するようになった。
筆頭として挙げられるのはファイナルファンタジーⅦに登場するクラウド・ストライフであろう。彼の狩るバスターソードは作品を象徴する武器として、スピンオフでもクラウドとセットで登場する。同作品に登場する宿命のライバル、セフィロスもまた身の丈を遥かに超える長刀正宗を操り、この二人のシルエットにガッツとグリフィスを重ねたプレイヤーも多いかもしれない。
あるいはトライエース(販売元:スクウェア・エニックス)のRPG作品である『ヴァルキリープロファイル』に登場するアリューゼは、そのままガッツのオマージュキャラであったりする。
また同社発売のドラッグオンドラグーン・ニーアにも見た目もほぼ同一の鉄塊という武器が登場している。
ギャグ漫画にもネタとして使われており、ライトノベル『ありふれた職業で世界最強』のスピンオフ漫画『ありふれた日常で世界最強』では「ドラゴン殺せる剣」というそのまんまな武器が出てきている(さらに、web版の本編後日談に逆輸入されている)。
余談
- ゴドーの養女エリカはこの剣を「ドラゴンころし」と発音していた。それが正式名称だったのか、当時の幼いエリカの舌足らずさだったかは不明だが、アクションフィギュアシリーズ「figma」パッケージには「ドラゴンころし」と書かれている。ファンの間での呼称や本記事の読み仮名もこの通りに。
- 現実の鉄工所がレプリカを製作しようとしたが、ガッツの身長を180cmと仮定してもこの剣の重量は100kgを超えてしまい、断念された。
- ベルセルクの大ファンであるプロレスラー・池田大輔がレプリカ品を入場ギミックとして使用。誤って頭上に落としてしまい試合前から大流血した。
- 経緯の項にて前述の、鍛冶屋ゴドーがこのドラゴン殺しの前にガッツに与えた、「切れ味を重視した特製の剣」の存在もまた象徴的である。つまり「作者が強い愛着を持ち、よかれと思って拵えた逸品」が客のニーズを満たしているとは限らず、時として「冗談で作った役立たずの代物」が最も世界に必要とされることがあるという、創作者の悩みや皮肉の例えである。
関連タグ
斬馬刀:本来は全く非なるもの。創作上では頻繁に誤用される。