概要
剣の中でも特筆して大きく重量もあるもの。大きく分けてクレイモア等が挙げられる大型で諸刃の西洋剣を指す場合と、それらを含めた「剣」全般を巨大化させたものがある。後者は特に創作の世界で多く見られる。
英語では「ロングソード(長剣)」や「トゥーハンドソード(両手持ち剣)」と呼ばれる。
特定の種類も指す単語だが、形状・運用を単純に表した一番分かりやすい表現。「~みたいの」と付け加えておけば誤解もおきにくい。
一般的に「大剣」の定義は曖昧なものの、漫画やゲームなどでは特に巨大なもののみ「大剣」と呼ばれることが多い。
イメージと現実
創作物では「大きさと重さを利用して対象を切断(圧し斬る)するため、切れ味よりも頑丈さを重視した武器」という表現が多く、腕力で強引に振り回す大雑把な武器というイメージが強い。
…が、儀礼的なものを除けば、本来の大剣は「威力・間合いの広さ・取り回しやすさに優れたバランスの良い武器」である。
西洋の大剣
ヨーロッパの歩兵用大剣は重心が手元に近くなるよう工夫されており、熟練者が扱えば扇風機もかくや、という勢いでブンブンと振り回すことができる。
当時の一般的な歩兵用の防具(革や金属片で補強した布鎧)では、たとえ盾を持っていたとしても片手剣のリーチでは対抗できない。
なんとか大剣のリーチの内側に潜り込んでも、大剣の戦法の中には刃の部分を握って近距離の間合いに対抗する技術があるため、一切油断できない。
では大剣よりリーチのある槍はというと、重心が矛先に寄っているため取り回しが大剣ほど効かず、矛先をそらされたり、熟練者になると槍をたたっ斬ってそのまま突っ込んでくるため片手剣より分が悪い。
ただし、甲冑そ装備し斬撃が通用しない相手にはやや分が悪いとされる。
大剣は重量があるため創作物のイメージ通りにぶん殴ってもかなりの威力が出るが、刃物で強引にぶん殴れば当然刃こぼれや刃が潰れたり、最悪の場合は剣自体が折れたり曲がってしまって二度と使い物にならない。
重装甲の相手と戦う場合は、大剣の刃の部分を両手で持って、柄や鍔の部分でぶん殴るといった戦法が取られた。
なお、ヨーロッパの場合、騎兵(騎士)の場合はそもそも大剣を装備していないか、装備していても馬に乗っている間は使わない。
理由は色々あるが、そもそも両手で振り回すことが前提のヨーロッパの大剣を馬上で扱えば、バランスを崩して落馬したり、自分の馬を切りつけてしまう可能性があるので当然か。
東洋の大剣
アジアの場合、西洋ほど大剣は発達せず、日本という例外を除けばインドや中国で一時期使われた程度である。
(中国の「大刀」や「斬馬刀」は分類上、長柄武器に入る)
その例外たる日本では鎌倉時代に従来の太刀より長大な「野太刀」、その野太刀よりさらに大きな「大太刀」が腕力自慢の豪族たちの間で流行した。
当初は馬上から振り下ろすための武器として使われていたが、従来の太刀より重く、扱いが難しいため自在に振り回せるのはごく一握りだった。
時代が下り、歩兵集団が槍を構えて騎馬武者に対抗し始めても、日本ではパイクのような長大な槍が作られなかった(西洋ほど頑丈な木材がなかった)ため、野太刀や大太刀は非常に重く高価で扱いも難しいが、最も威力とリーチがある武器として騎兵・歩兵を問わず戦国時代まで使われ続けた。
有名な例では織田信長・徳川家康連合軍が朝倉義景と戦った姉川の戦いで、朝倉方の客将・真柄直隆が、大太刀を振るって徳川軍相手にリアル戦国無双をかました逸話が残っている。
他にも、三間半槍を装備した信長軍が大太刀を装備し槍衾を突破してくる朝倉軍に苦戦したという記録もあり、戦国時代頃にはヨーロッパと同じように歩兵が槍衾を突破するための武器として使われていたようだ。
江戸時代になると、戦争がなくなったこともあり、神社への奉納用以外で大太刀は殆ど見られなくなった。
なお、太刀は本来騎馬で扱うことを前提とした武器であり、初期の野太刀や大太刀も例にもれず基本的に"片手"で用いる。
実際には普段片手で振るい、一騎打ちなどここぞという場面では一時的に手綱から手を離して両手で振っていたと思われる。
鞘
ヨーロッパの大剣の場合、刀身が長いため、鞘は柔らかい皮製のものが多く、また肩に担ぐ際に触れる部分に布を巻いたのみ等、鞘が無い場合も多く見受けられる。
野太刀のような日本刀タイプのものも例外ではないが、「反り」が付いているため硬い鞘でも両手を使えば抜くことが出来、さらに特殊な抜き方をすることで居合が可能であり居合自体も元々は長い刀を素早く鞘から抜き放つ技法であった。
とはいえ大太刀ほど長大になると、通常の刀のように腰に佩くと腕の長さが足りず抜けないため、背負うか鞘ごと手に持って運んでいた。
また、豪族や武士の場合、疲労軽減や抜刀をやりやすくするため、従者に持たせて連れ歩いていた。
ただし、どのタイプの大剣も長期保管用に木製などの硬い「休め鞘」が用意されている場合もある。