概要
かつてパキスタンやスリランカ、バングラデシュ(東パキスタン)ともに英領インドであったインドでは、ルーツや宗教の異なる多数の民族が混在し、それぞれに個別の言語を話している。しかし、これでは公的な場での異なる民族同士の意思疎通に困難が生じるため、共通語として旧宗主国の言語たる英語が用いられている。しかしながら、この英語はヒンディー語などの土着語の影響を受けて大きく訛りを伴うものとなっており、国際標準語である英米の英語の話者にとっては、たとえネイティブであっても聞き取り困難なものとなっている。これがヒングリッシュである。似たような英語がパキスタンの上流階級やバングラデシュの高等教育の場でも用いられており、これらをインド英語と同系統の別の方言英語とみなすのか、インド英語のさらに下位の区分として「インド英語パキスタン方言」「インド英語ベンガル方言」のように言う(河内弁を「大阪弁東部方言」と言うようなイメージ)のかは言語学者により見解が異なっている。
別名
インド英語、英語インド方言など
特徴
英語、とりわけ基幹方言である容認発音は、一般に音韻が美しい言語であると言われ、国際的に行われるアンケートにおいては毎回フランス語やアラビア語、日本語と並んで上位を争う言語である。これは、子音が曖昧に消えて余韻を残し、鮮やかな母音が結合して耳に余韻が残りやすいために、妖艶でノスタルジックな雰囲気を残すという特徴に由来する(音節語である日本語やリエゾンにより子音が消失するフランス語やアラビア語が上位に来ているのも同様の理由)。
しかし、インド英語は本来曖昧化、もしくは消失する子音をはっきり発音する(例:Wednesday:ウェンズデー→ウェドゥネーズダイ)ため、まるでロシア語のような重苦しい音になり、一聞して英語であることすら判断しずらいものとなっている。同様の特徴はアメリカ英語、とりわけスペイン語訛りのテキサス方言やオクラホマ方言にも少なからずみられるものではあるものの、インド英語においてはアメリカ英語の比ではないほどにその特徴が先鋭化される。
一般に日本人などの非欧州圏の非ネイティブはピングリッシュやマングリッシュなどの方言英語の理解に苦しむと言われるが、インド英語は相当に英語に堪能な人であってもまず聞き取りできず、筆談を余儀なくされるほどに理解困難である。
ヒンディー語の影響で進行形を多用し、単純な現在形や過去形はまず用いられない。
例)
I have a donkey.(英)→I'm havin' ei donki.(印)
I thought that was terrible.(英)→I waz tyinkin' dhat bii-in' terribell.(印)
また、shopの代わりにshoppeを用いるなど、入植当時の古風な英語表現が残存している。
長幼の序ではなく出自に応じる身分制度を重んじる現地事情を反映して、"Would you~""Can you please~"などの敬語表現を完全に喪失しており、よほど格式高い場でもない限り使われることはない。ヒンディー語を経由して借用したサンスクリット語由来の語彙をふんだんに含むため、単語レベルでも理解困難なものが多い。
疑問系の倒置は行われず、語尾に「no?」もしくは「correct?」を付加することで表現する(例:Is he our new teacher? → Hii's awaar niu tiicheir, no?)。イメージとしては信州弁の「〜するしない」(例:そろそろ晩飯するしない?)に近いかもしれない。
地位
イギリス英語やアメリカ英語を標準に考える日本などの非英語圏の英語教育では、未だに訛りの強い誤った英語と評価されているが、21世紀現在、話者数は本場のイギリス英語を上回り、アメリカ英語に次いで二番目に多い話者数を有する英語方言になっている。今後、インドの経済発展に伴いいよいよその地位を向上させていくと考えられ、近い将来、英米の英語に代わって国際標準語の地位を獲得してもおかしくはない。若い世代は今のうちに慣れておくのが好ましい。