概要
「この宇宙には、より絶対的な破壊の力が潜んでいる…」
かつて、エクシフの母星「エクシフィルカス」を滅ぼしたという怪獣。
名前だけでも強い力を持つ存在であるとして、現在においてはエクシフの間でも濫りにその名を口に出すことは禁忌とされていたが、ゴジラの圧倒的な力を体感したことでゴジラへの拭いようのない恐怖心を抱いてしまったハルオ・サカキに、エクシフのメトフィエスがゴジラ以上の存在を知っていればそれに囚われるのを防げるとその恐怖を和らげるためとしてその名を伝えた。
※ ここから先は『GODZILLA 星を喰う者』に関する重大なネタバレを含みます。
「さあ、伏して拝むがいい…黄金の終焉を」
その正体は、時空の狭間にある異空間に潜む高次元エネルギー生命体。
「黄金の終焉」、「終焉の翼」、「この世ならざる虚空の王」、「王たるギドラ(King Ghidorah)」などの多くの異名を持つ。エクシフがゲマトリア演算を用いて接触した「神」の正体であり、彼らの信仰の対象である。
エクシフのシンボルである七芒星はギドラの3本の首、2枚の翼、2本の尾を表しており、エクシフの右手を2回振り下ろす告解の動作は「身体を3つに割ってギドラに捧げる」という意味が隠されている。
2035年の報告書ではスラブ民族やテュルク系民族の伝承に登場する多頭龍ズメイや、多くの文明で魔除けや吉祥として重んじられる雷紋とも関係があると指摘されていた。
当初は10万年前に、エクシフの故郷である惑星エクシフィルカスを滅ぼした怪獣であると語られていたが、実際にはエクシフの方が自分たちと母星をギドラに供物として差し出していた。
未来をも見通せるテクノロジーを手に入れた結果、この宇宙に永久など存在せず、全ては必ず滅び消えていくという未来を見てしまった彼らは、この宇宙より高次元の存在であるギドラに取り込まれ同一化することで、滅びや生きることで生じる苦しみから解放されることが救いと考えるようになったのである。
それ以降、神官として僅かに残されたエクシフが宇宙を渡り歩き、さまざまな惑星文明を融和して発達を促し、その果てに摂理からの復讐者たる怪獣「ゴジラ」が生まれると、その「ゴジラ」や文明を惑星もろとも喰らうことで数多の星を滅ぼしてきた。
メトフィエスは惑星を種、人と文明を花、ゴジラを果実に例えており、この宇宙の森羅万象は最後にその果実を収穫して喰らうギドラのためにあると捉えている。人類文明を前座として生まれる究極の生命「ゴジラ」を更に捕食する存在であり、いわばアニゴジ世界における宇宙規模の食物連鎖の頂点である。
憎しみがゴジラを怪獣たらしめるように、ギドラを神たらしめるのは祈りであるとされ、エクシフが用意した「供物」がギドラを信仰し、ギドラの到来を願った上で「来たれ、ギドラよ!」と祈りを捧げることでこちらの宇宙に降臨する。この際、エクシフの神器であるガルビトリウムとゲマトリア演算結晶体も降臨の祭具として用いられる。
また、供物のなかでもゴジラに強い憎しみをもつ「英雄」の祈りは特別であるようで、劇中ではメトフィエスに見出されたハルオがその役目に選ばれた。もしハルオが供物としてギドラを呼び寄せていた場合、ギドラの全身がこの宇宙に降臨し、地球そのものをあっという間に滅ぼしていたという。
デザイン
黄金色で3つ首の竜のような怪獣、という部分では原典のキングギドラと同じだが、空に空いた異空間からワームのような極めて長大な3本の首が伸びる、という従来のイメージを覆すデザインで描かれている。
胴体や翼に当たるものがなく、それぞれが分離している状態にも見えるためギドラというよりは3体のマンダのようにも見えるが、作中のシルエットではキングギドラ同様に胴体と2枚の翼、2本の尾を持つ姿も見られる(パンフレットでは全身のCGモデルも掲載されている)。
つまり、異次元にある超巨大な体のうち3本の首だけを異空間からこちらの宇宙に伸ばしているというのが正しい(下のイラストがそのおおよそのイメージの)ようだ。
その一方で、全身が降臨した瞬間に惑星が滅ぶ(全身を見たら必ず死ぬ)ほどの力を持つために首から下の全ての姿を見た者はエクシフにもいないとされており、劇中のシルエットはその姿を断片的に見てきたエクシフ達が伝承し、神話上の姿として形作ってきた想像上のギドラ像であるという。ブラックホールを通してこちらの世界に現れた首も、その実態は向こう側の世界にある実体の投影存在であり、エクシフの精神の中で造形された姿が他の観測者に見えているに過ぎない。
- 瀬下監督はBDのオーディオコメンタリーにおいて、上記の理由から「ゴジラから見たギドラの形は(人間視点とは)違うかもしれない」と述べている。また、瀬下監督の「全部出たらその時は地球が食われちゃうから全部出ないのが条件」という発言に対し、脚本の虚淵玄は「ぎりぎり出せる首の数がたまたま3つ」と発言しており、本当の首の数は3本どころかそれ以上である可能性が仄めかされている。
コンセプトは「全く別の進化を遂げたゴジラ」であり、イメージボードには「G生物が数億年かけて超進化するとこうなるかも?」というト書きがある。そのため製作陣はゴジラの派生種であるセルヴァムからの進化を想定し、セルヴァムのCGモデルをベースにしたデザインを模索したという。鱗にあたる全身の棘はゴジラ同様に植物がモチーフであり、薔薇などの棘だらけの植物が持つ「触ったら怪我をする」というイメージを与える事で攻撃性を表現している。また、「稲妻」もデザイン上のテーマになっている。
スケールは文字通り桁違いで、異空間から伸ばす首だけでも体高300m以上のゴジラ・アースが豆粒のように見えるほどの長さがあり、パンフレットによれば画面に映る首だけでも20kmもあるらしい。
また、鳴き声はVSシリーズのものに似た本作独自のものが使われているが、エクシフがガルビトリウムを使ってテレパス交信する際には昭和版キングギドラの「ピロピロピロ」という鳴き声が響くという演出がされている。加えて、メトフィエスがガルビトリウムを使ってハルオを洗脳する際には引力光線の音が響いている。
能力
降臨に先だって、まず「供物」である信者をギドラが喰らう。この際、ギドラの首の影が伸びて来て信者の影に噛み付き、噛み付かれた部分の肉体が実際に欠損するという描写がある。空間や存在を削り取る形で喰うため、欠損した部分から血は出ず、その部分だけが異空間へ消えたかのように断面が青白く光る(物理的に抉られているわけでないためか噛まれた瞬間に意識が取り込まれてしまうためか、信者は苦しむどころか抉られたことに気付く描写もなくただの人形の様に倒れていった)。
ギドラは凄まじい重力制御能力を備えており、降臨の際には歪曲重力波と共にエルゴ領域を伴った特異点、つまりブラックホールが自然発生する。これだけでも異常なのだが、そのブラックホールから伸びるギドラの首は特異点よりも異常な質量体として観測されており、これはギドラがブラックホールをも凌ぐ超重力の塊であることを示している。
その重力で時空が歪むため、ギドラの周囲では時間的な整合性が失われる。外部からのモニター信号はループを始め、40秒前に圧潰したはずの部屋から通信が届き、生きた人間が自身の生命反応が途絶したのを観測するなど不可解な現象が頻発し、機械は情報を正しく認識できなくなる。
また、確固たる能力かは不明ながらアラトラム号に巻き付く際には金色の稲妻のような光線がギドラの体から迸り、着弾地点を破壊している。
加えて、ギドラは生物の眼と耳なら姿と声を捉え、認識することができるが、機械的なセンサーではどんな手段を用いても観測できず、ブラックホールから伸びる首も重力場の輪郭が変形しているとしか認識されない。つまりこの世界の法則では「そこに怪獣がいる」ということが立証できないのである。
これらはギドラが別の次元または宇宙の、全く別の法則によってこちらの宇宙に干渉している為であり、この状態のギドラはこちらの宇宙の法則を受け付けない。さらにギドラを起点に時空と物理法則が完全に歪められるため、次に上げられるような不可思議な現象が発生する。
- ゴジラの熱線が捻じ曲げられ、地面を抉っているにもかかわらず、センサーでは「直進」している。
- ゴジラはギドラに触れられないが、ギドラは一方的にゴジラに噛み付ける。
- 物理干渉不能なゴジラの非対称性透過シールドが発生を阻害されていないにもかかわらずギドラの噛み付きを全く防げない。
- 体表に全く干渉の痕跡がないにもかかわらず、噛まれたゴジラが大きなダメージを受ける。
- 分子振動が激しくなっているにもかかわらず温度は逆に低下する、つまり熱が消滅する。
- 10万t以上の体重を持つゴジラ・アースが宙に浮く。
- 噛み付かれたゴジラの実存が曖昧になり消滅していく。
ゴジラ・アースにしてみれば熱線は効かず、手や尾での物理攻撃もすり抜け、メカゴジラシティを焼き尽くした全身からの超高熱波も易々と無効化され、なのにギドラの攻撃は全く防御できず一方的にダメージを受け続けるということであり、戦闘においては「絶対的」としか表現できない優位性をもつ。事実、数多の怪獣と人類を駆逐し、2万年にわたって最強無敵の存在であったゴジラ・アースがまったく手も足も出ないまま消滅寸前まで追い込まれる事態になった。
ただし、こちらの宇宙の法則ではギドラの実在を観測できないように、ギドラ側の異次元法則もそのままではこちらの宇宙の存在を観測できない。異次元の法則によってこちらの宇宙に干渉し、上記のような異常現象を引き起こすには、こちらの宇宙の存在がギドラの「眼」になり、喰らう対象を観測する必要がある。もしこの「眼」が破壊された場合、ギドラの優位性の源たる異次元法則の恩恵が失われ、ギドラ自身がこちらの宇宙の法則に捕まって実体化し物理攻撃が有効になってしまうという大きな弱点がある。
なお、劇中で描かれるギドラは完全な降臨を遂げていない所謂「不完全体」であり、データの項目で述べたようにハルオが「英雄」としてギドラを呼びよせ、全身が降臨した場合はその瞬間に地球が丸ごと喰われていたとされる。
- アラトラム号がギドラに襲撃されている最中、アラトラム号のメインフレームに搭載されたゲマトリア演算結晶体からハッキングでない非認証コマンドが発せられ、操舵・航行システムを上書きし、虚数の座標を目標地点に設定するという描写がある。これがギドラ由来の現象であるかは不明だが、そうである場合ギドラがゲマトリア演算結晶体を介して機械のコントロールを奪ったということであり、ギドラに明確な知性があることを仄めかす証拠になる。
活躍
最後の希望であったメカゴジラシティが敗れ、絶望しきった地球人類をメトフィエスが自身のカルトに取り込み「供物」としたことで降臨の条件が整えられた。メカゴジラの一件で地球人とビルサルドが倫理観の齟齬をこじらせた隙も利用し、フツアの村でメトフィエスが、アラトラム号でエクシフ族長エンダルフが儀式を行ったことで遂に降臨する。
始めにフツアの村の「供物」である地球降下部隊残党を影の姿で喰らい尽くし、その後はアラトラム号の近辺にブラックホールを発生させて出現。アラトラム号に巻き付いて数々の異常現象を引き起こした末に撃沈する(しかも一つの頭だけでこれを成し遂げていた)。
更に地球の大気上空に3つのブラックホールを生み出して出現し、ゴジラ・アースと対峙。こちらの宇宙の干渉を受け付けず、自らは一方的に干渉できるという絶対的優位性でゴジラ・アースを抵抗すら許さずに敗北寸前まで追い込み、自分自身の次元法則で侵食して食らいつくそうとした。
しかし、その様子を分析したマーティンがギドラを手引きする観測役がこちらの宇宙にいることを突き止め、その弱点を知らされたハルオによってメトフィエスが右目に埋め込んでいた観測装置「ガルビトリウム」を破壊されたことで、地球側の物理法則に引き込まれてしまい実体化。ゴジラ・アースの攻撃が通用するようになったばかりか、力の供給源すら失ったのかブラックホールのエルゴ領域も急速に縮小し始めてしまう。
その後はゴジラ・アースの猛反撃を受け、1本の首が尻尾に千切られて、もう1本の首が両手で顎を裂かれて消滅。残った1本の首はブラックホールに逃げ込もうとするも、熱線でブラックホールごと撃ち抜かれて消滅し、残った2つのブラックホールもまた熱線によって破壊され、撃退された。
ただし、ギドラは死んだわけではなく元の次元に戻っただけで、これから先も降臨の条件、つまり「文明」とそれが生み出す「ゴジラ」、ゴジラを憎む「英雄」が揃えば遅かれ早かれ、再びこの宇宙に降臨することをメトフィエスが語っている。
この事実が「英雄」であったハルオにある決断を強いることになる…。
- なお、ヴァルチャー修復後にハルオが聞いたのは『メトフィエスの声を借りたギドラの言葉』ではないかというのが、ファンの間では有力な説とされている。真偽は不明だが、ノベライズ版『星を喰う者』においてその説を示唆するような描写がある。
「時は、我らの味方だ……。我々はただ焦らず、待つだけでいい……」
余談
- ゴジラシリーズ、ひいては東宝を代表するヴィランでありながらスピンオフ作品も含めて一切出番がなく、存在を匂わす要素もなかった。強いて言えばX星人をモチーフにしたエクシフの存在そのものがフラグと言えたことと、キングギドラほどの人気怪獣が全く言及されないのが逆に怪しいという見方もあった。そして第二章の『決戦機動増殖都市』のラストにおいてメトフィエスの口から遂にその名が語られ、大きな話題となった。
- 過去作におけるギドラは侵略者などに操られる都合の良い生体兵器として扱われることが多かったのだが、本作のギドラは“逆に宇宙人を隷属させている神の如き怪獣”という今までとは全く正反対の位置にいる存在として描かれている。
- もっとも、このギドラにそこまでの意識と知性があるかは定かではなく、見方によってはエクシフが自らの思想を実現するためにその生態を利用しているだけ(エクシフが長時間かけて充分に準備した上で儀式を行わないと出現できない、こちらの宇宙にいる間はエクシフのサポートがないと本領を発揮できない等)とも考えられ、召喚の儀式では「供物」にされた人間を喰らい、出現後もあくまで捕食目的で行動していたことを考慮するとただ単にエクシフに「餌付け」されていただけともとれる。
- その一方で、エクシフがいなくても文明が再興したら再びギドラが現れてしまう事が事実として語られることと、上述のノベライズ版で「ハルオが聴いたメトフィエスの囁きはギドラのもの」であることが示されていることから、ギドラが惑星を滅ぼそうとする明確な意思を持ち、エクシフはその都合の良い足掛かりとして利用されていた可能性も否定できない。宇宙人がいなくなっても地球を滅ぼす機会を虎視眈々と狙い、それによって主人公の命運を変えてしまう全ての元凶っぷりは、侵略用の生体兵器として利用されるだけで終わっていた従来のキングギドラとは明らかに一線を画している。
- なお、どちらにしても「自分を利用している者を失うと弱体化する」、「窮地に陥ると逃走することが多い」という従来のキングギドラに見られた欠点や性質はそのまま受け継いでいると言える。
- 過去作でのゴジラとギドラは力の差や立場の在り方こそ様々だが、互いが互いにとって「強力な敵対者」故に争うという関係は一貫していた。一方で今作のゴジラとギドラは明確な捕食-被食関係にあり、ギドラにとってのゴジラは敵どころか餌にすぎない。また、メトフィエスの発言が正しければ地球以外の惑星文明でも最終的に「ゴジラ」が生まれ、例外なくギドラに捕食されてきたことになる。ゴジラ最強のライバルであり、たびたび「ゴジラ以上の怪獣」とされてきたギドラの歴史でも、ここまで明確に本来ゴジラが敵わない存在であると設定されたのは本作が初となる。
- ゴジラ・アースをその名の通り地球という惑星の化身と見るならば、超重力を操る本作のギドラは言うまでもなくブラックホールの化身であり、宇宙規模での星同士の捕食-被食関係に対比しているともいえる。
関連タグ
- ギャラクタス : 文字通り"星を喰う者"であること、高次元の存在であること、かつて自身が攻撃した惑星に住んでいた宇宙人を従えていることなど、共通する部分が多い。
- ゾーリム : その見た目また別次元から現れる点が共通する。
- グリーザ:「無」の怪獣。最終的には実体化して敗れ去った点も共通する。
- ルーゴサイト:"星を喰う"性質を持つ怪獣。こちらも実態化していないガス状態時は無敵そのものであり、惑星を包み込んであらゆる物質を原子崩壊させて消し去ってしまう。
- 外なる神:クトゥルフ神話における強大な邪神たち。宇宙の外から現れる、宇宙の法則にさえ干渉できる、人間の理解の及ばない超常の存在である、実体がない、など本作のギドラと共通点が多い。
- ユニコーンガンダム3号機 フェネクス(NT):アニゴジと同時期に公開された映画『機動戦士ガンダムNT』が(謎の)コラボをした際、理由となる共通項として「金色の強い奴」が上がった。こじ付けも好い所だろうと思って蓋を開けてみたら、「奇蹟」「現象を捻じ曲げる力」「進化」「高次元存在」等、ネタバレレベルの情報で驚くほど共通項を併せ持つ。
- ユニクロン:惑星を喰う破壊の神。メインカラーが黄色で2枚の翼と角を持ち、異次元を超える力も持つ。特にマイクロン伝説に登場した際には 目が赤く爪状の足先であるデザインであり、櫻井孝宏が演じる者の暗躍により姿を現し、代弁者を務めさせた。敗れるも死亡には至らず遥か遠くへ消息を断つ。登場人物達が憎しみを抱く限り再び現れうる脅威であることも共通している。