キリル文字
きりるもじ
歴史等
キリスト教の正教会の神父のキュリロスとメトディオスがスラヴ系の民族へ布教する際、2人の出身地であるマケドニア地方周辺のスラヴ系言語(のちに「古代教会スラヴ語」と呼ばれる言語)を表記するために開発したグラゴル文字を、二人の弟子がギリシア文字をベースとして変化させたものとされる。
また、スターリン時代の政策(ラテン文字やアラビア文字からの切り替え)により、旧ソビエト連邦領内の非スラヴ諸語を表記するのにも使われており(ただしアルメニアのアルメニア語やグルジア(現ジョージア)のカルトリ語のような例外もある)、当時ソ連の衛星国であったモンゴルでも、スターリン時代にモンゴル文字(ソグド文字の流れを引くウイグル文字を基にモンゴル語を表記できるようにしたもの、ただし横書きができないという問題がある、ちなみにパスパ文字とは異なることに注意)からこの文字の表記へと切り替えられた。ただし、中華人民共和国領となっていた内モンゴルでは、そのままモンゴル文字を使用している。
文字の種類等
大文字と小文字の2系列が存在するが、小文字の大部分は大文字を小さくしただけのものであり、ローマ字のように大文字と小文字の形が著しく異なる例は少ない。
また、ラテン語より発音の種類が多いスラヴ語派のために作られた字であるため、ラテン文字より字の数も多く、アルファベットの数は言語により異なる。
現在もキリル文字を使っている言語
東スラヴ語群
南スラヴ語群
ブルガリア語、セルビア語(クロアチア語・モンテネグロ語を含む)、マケドニア語
非スラヴ語
上記の通り、旧ソ連の中央アジア諸国や、ソ連の影響下にあったモンゴル、現在でもロシア領に属するシベリア・極東の諸民族の言語がその多くを占める。系統としては突厥系、蒙古系、ツングース系、ペルシャ系が多い。
テュルク語族:カザフ語、キルギス語、タタール語、トゥバ語、サハ語など
モンゴル語族:モンゴル語、ブリヤート語、カルムイク語など
ツングース語族:エヴェンキ語、ナナイ語、ウィルタ語など
上記以外:ニヴフ語(孤立した言語)、ドンガン語(シナ・チベット語族シナ語派)など
議論や例外
旧ソ連崩壊後に独立した中央アジア諸国の非スラヴ語においては、ラテン文字への移行や、旧来使っていたアラビア文字・モンゴル文字などの復興が議論されている。
また、スラヴ語派でも西スラヴ系(ポーランドやチェコおよびスロバキア)や南スラヴ系の一部(クロアチア、スロベニア)などは、キリスト教の布教主体が異なりカトリックが布教されたこともあり、ラテン文字(ローマ字)表記となっているため注意が必要である。
ルーマニアにおいては正教会であったため過去この文字を用いたが、19世紀半ばにラテン文字化している。一方、ほぼ同じ言葉を話すモルドバでは一時期ソ連に組み込まれていた事から20世紀半ばからソ連崩壊にかけて再びキリル文字を採用していた(ソ連崩壊後は沿ドニエストルを除き再びラテン文字化)。
文字一覧と読み方
以下は、ロシア語にて用いられる読み方を表にまとめてある。現用されない文字は除く。
母音
大文字 | 小文字 | 読み方 |
---|---|---|
А | а | アー |
О | о | オー |
У | у | ウー |
Ы | ы | ウィー |
Э | э | エー |
大文字 | 小文字 | 読み方 |
---|---|---|
Е | е | イェー |
Ё | ё | ヨー |
И | и | イー |
Ю | ю | ユー |
Я | я | ヤー |
子音
大文字 | 小文字 | 読み方 |
---|---|---|
Б | б | ベー |
В | в | ヴェー |
Г | г | ゲー |
Д | д | デー |
Ж | ж | ジェー |
З | з | ゼー |
Й | й | イー・クラートコエ |
Л | л | エル |
М | м | エム |
Н | н | エヌ |
Р | р | エル |
大文字 | 小文字 | 読み方 |
---|---|---|
К | к | カー |
П | п | ぺー |
С | с | エス |
Т | т | テー |
Ф | ф | エフ |
Х | х | ハー |
Ц | ц | ツェー |
Ч | ч | チェー |
Ш | ш | シャー |
Щ | щ | シシャー |
その他
大文字 | 小文字 | 読み方 |
---|---|---|
Ъ | ъ | トヴョールドィイ・ズナーク |
Ь | ь | ミャーフキー・ズナーク |