いまさら翼といわれても、困るんです。
概要
米澤穂信の推理小説シリーズ「〈古典部〉シリーズ」第6弾。2016年11月にKADOKAWAより単行本が、2019年6月に角川文庫より文庫本がそれぞれ刊行された。
前作『ふたりの距離の概算』から6年ぶりとなる新作にして、シリーズ2作目となる短編集。
前作に引き続き、主要人物である古典部員たちは高校2年に進学しているという設定。1学期から夏休みまでを描いた全5作の短編が収録されている。
記事概要の「Last seen bearing.」は文庫版刊行に当たって付けられた英題。由来はヒラリー・ウォーの推理小説『失踪当時の服装は』(Last Seen Wearing...)か、 もしくはコリン・デクスターの推理小説『キドリントンから消えた娘』(Last Seen Wearing)とされている。
なお収録作品のうち、『連峰は晴れているか』のみアニメ化されている。
収録作品
箱の中の欠落
――「お前は相変わらずだな。陰で正義の味方をやりたがる」
前会長の任期満了に伴い実施された神山高校の生徒会長選挙において、開票時に票が水増しされていたことが発覚。水増しされた票は大勢に影響を及ぼす程の量ではなかったが当然選挙はやり直しとなり、犯人として選挙管理委員会の1年生が疑われてしまう。選挙の投票立会い人として参加していた福部里志はこの一件を不審に思い、推理を行き詰まらせて折木奉太郎に相談する。里志からの突然の電話に困惑する奉太郎だが、里志が“立会い人として”ではなく、1年生を疑った選管の委員長に一泡吹かせてやりたいと考えていることを知り、推理に協力する。
鏡には映らない
――「わたし、折木くんはヒーローにしていたいの」
伊原摩耶花はある日偶然、中学で同級生だった池平と会う。積もる話の中、鏑矢中学での卒業制作で作った“鏡のフレーム”の話題になり、摩耶花は奉太郎絡みの一件を思い出す。各班が分担されたパーツを作り、最後に組み合わせて完成するフレームは、奉太郎の班がデザインを無視した明らかに手抜きのパーツを提出したことで歪な仕上がりとなり、結果として多くの生徒の恨みを買ってしまったのだ。摩耶花は事の真相を奉太郎に尋ねるがはぐらかされてしまい、彼と同じ班だった芝野の話から、鳥羽麻美という人物が関わっていることを知る。さらに調べていくうちに、摩耶花は意外な真実を知ることとなる。
連峰は晴れているか
――「折木さんの好奇心をくすぐるものがこの世に存在するなんて、それって何なのか……」
ある日の部室、神山市上空を飛ぶヘリコプターの音に、奉太郎は中学時代の英語教師・小木がヘリ好きだったことを思い出す。しかし、同じく鏑矢中出身の里志も摩耶花もそんな話は耳にした事がない。里志が持ち出した小木教諭のエピソードからある事柄に思い当たった奉太郎。図書館に行く、とやる気を見せる彼を心配する里志、摩耶花に対して、ひとり同行を申し出た千反田える。省エネの奉太郎が放課後を費やしてでも知ろうとしたこととは……。
わたしたちの伝説の一冊
――「伊原、あたしたちで伝説を作るよ。神山高校に残る伝説の一冊を。そして……」
文化祭の一件以降、摩耶花の所属する漫画研究会は"漫画を読みたい派"と"漫画を描きたい派"に分断されていた。摩耶花は"描きたい派"である浅沼から、神山高校漫画研究会名義での同人誌制作への助力を請われる。同人誌を出したという既成事実を作り、"読みたい派"に「漫画研究会は漫画を描くところだ」と示そうとする浅沼は作品のテーマに「漫研」を指定、摩耶花は渋ったものの最終的に手伝いを承諾する。しかし計画が"読みたい派"に露見してしまい、浅沼・摩耶花は漫研で吊し上げられてしまう。次期部長で"読みたい派"に属する羽仁に「同人誌を完成させられたら、読みたい派は退部して別の部を作る。その逆だったら描きたい派は出て行け」という条件を半ば強引に飲まされてしまう二人だったが、今度は漫画のネームを描いていた摩耶花のノートが盗まれてしまう。
長い休日
――「きっと誰かが、あんたの休日を終わらせるはずだから」
ある日、目覚めた奉太郎は、珍しく自分の調子が良いことに気づく。昼食をとり終え、散歩がてら本を読むために荒楠神社へと向かった奉太郎は十文字かほと出くわし、「えるもいる」と詰所内のかほの部屋に案内される。成り行きでえると一緒に神社の清掃を手伝いながら、自身のモットー「やらなくていいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に。」の由来を尋ねられた奉太郎は、きっかけとなった小学校時代の出来事を話し始める。
いまさら翼といわれても
――殴って、自分の手も怪我して、血を流したいような気になった。
2年生の夏休みの初日、折木家に摩耶花から「ちーちゃんの居場所を知らない?」という電話が掛かってくる。市の合唱祭でソロパートを歌うはずだったえるが、出番が近づいても会場に現れないというのだ。取りあえず現場に向かった奉太郎は、僅かな手がかりからえるの居場所と、彼女が来ない理由を推理していく。
『いまさら翼といわれても』で初登場の人物
小幡春人
「箱の中の欠落」に登場。
次期生徒会長として選挙に立候補した人物の1人。
常光清一郎
「箱の中の欠落」に登場。
次期生徒会長として選挙に立候補した人物の1人。
池平
「鏡には映らない」に登場。
鏑矢中出身で元3年5組、伊原や奉太郎と同じクラスだった。
鳥羽麻美
「鏡には映らない」に登場。
奉太郎達と同じく鏑矢中出身で、現在は神山高校の写真部所属。
鷹栖亜美
「鏡には映らない」に登場。
鏑矢中で卒業制作のデザインを行った。
芝野めぐみ
「鏡には映らない」に登場。
鏑矢中出身で現在は神山高校の生徒。鳥羽麻美とは旧知。
小木正清
「連峰は晴れているか」に登場。
鏑矢中の英語教師。
小木高広
「連峰は晴れているか」に登場。
2年D組の生徒。
浅沼
「わたしたちの伝説の一冊」に登場。
漫画研究会所属。漫画描きたい派。
羽仁真紀
「わたしたちの伝説の一冊」に登場。
漫画研究会の新しい部長。漫画読みたい派。
篠原
「わたしたちの伝説の一冊」に登場。
漫画研究会所属。漫画読みたい派。
千反田鉄吾
「いまさら翼といわれても」に登場。
えるの父。
横手篤子
「いまさら翼といわれても」に登場。
神山混声合唱団の一員。
段林
「いまさら翼といわれても」に登場。
神山混声合唱団の仕切り役。