「何故忘れていた?」
「錆兎とのあのやりとり」
「大事なことだろう」
概要を見るんだ 義勇
漫画『鬼滅の刃』の冨岡義勇が、深い後悔と悲しい現実から心に傷を負い忘却してしまった「思い出」で、これは亡き親友・錆兎の言葉(せりふ)。
それは修業時代、互いに切磋琢磨していた義勇が錆兎から“繋いでいく”の「約束」であった。
お前も繋ぐんだ 義勇
より激化すると予期される鬼との闘いに備え、組織力強化を図る修練「柱稽古」を拒否していた水柱・冨岡義勇。これを心配した産屋敷の頼みで彼の元に訪れた竈門炭治郎へ、義勇は自身が秘めていた意思と過去を語り、依然として不参加の意をみせていた。
これを聞かされた炭治郎は、自身も似た境遇に遭った事、その失っても生きていく現実に「自分が死ねば良かった」と思っている悲しい義勇の背中、それでも彼が血反吐を吐くような努力を重ねて自分を叩き上げてきた事を察して、凪のように静かな男へ一つ問いかける。
「義勇さんは錆兎から託されたものを 繋いでいかないんですか?」
この言葉を受けて義勇は、親友から頬を張り飛ばされた衝撃と傷みが鮮やかに蘇る。
炭治郎の言葉「繋いでいかないんですか?」をきっかけに義勇は、記憶から遠ざけてしまった「思い出」を取り戻す。
それはまだ狭霧山で、鬼殺隊の育手(そだて)・鱗滝左近次の元で義勇と錆兎が互いに切磋琢磨していた頃。この時の義勇は自分を庇って命を落としてしまった姉・蔦子の事をずっと後悔していた。
彼女は祝言の前日に鬼の襲撃に遭い、当時は幼かった弟・義勇を護って逝ってしまったのだ。その事をずっと悔い、どうせなら「自分が死ねば良かった」と言葉を溢した義勇を、錆兎は彼の頬を張り飛ばす。
「自分が死ねば良かったなんて二度と言うなよ もし言ったらお前とはそれまでだ。友達をやめる」
「翌日に祝言を挙げるはずだったお前の姉も そんなことは承知の上で鬼からお前を隠して守っているんだ 他の誰でもないお前が… お前の姉を冒涜するな」
「お前は絶対死ぬんじゃない 姉が命をかけて繋いでくれた命を 託された未来を」
「お前も繋ぐんだ 義勇」
失っても失っても生きていく世界へ立ち向かう指針と篤さをくれた、親友との大事な「思い出」と「約束」だった。
鬼から自分を守って死んだ2人、姉の蔦子と親友の錆兎から託された想いを受け継ぐ決意を固めた義勇は、これまでの態度を改めて、真に"水柱"としての責務を果たすべく、遂に柱稽古へ参加を表明する。
関連作品だ 義勇
余談もあるんだ 義勇
本稿にある「お前も繋ぐんだ」は、本作『鬼滅の刃』を象徴する言葉(せりふ)の一つであろう。残酷だが失っても失っても自分が生きる事は失われず、どんなに打ちのめされようと進む世界の在り方。
だがまだある。
去ってしまった者から託されたもの、これを“繋ぐ意志”を持てるか気づけるかで、残された人はその後の成長・生き方が大きく変わる。本作『鬼滅の刃』では、見えない形でも託された幾人もの絆や幾星霜の想い重いの思いを繋ぐ場面が随所で描かれている。
「お前も繋ぐんだ」の台詞・一幕は、はっきりと“繋ぐ意志”を言葉で表された一場面であろう。
義勇が決意を固めた後の話
炭治郎との対話を経て柱稽古への参加を決意した義勇だったが、勘違いした炭治郎の提案で何故かざる蕎麦の早食い勝負する事になってしまい、その後からちょくちょくと実弥と和解する為に、おはぎを懐に入れて行こうとするなど、天然ボケが入るようになる。
ただし、これは炭治郎の影響というよりは、今まで他人と積極的に関わらなかった為、それまで表に出てこなかった義勇のちょっとズレた気遣いや気の回し方が、人と接しようとした結果浮き彫りになったものと思われる。そしてさらに言えば、それらの行動を肯定してしまうくらい、唯一の相談相手である弟弟子の炭治郎もまたズレていたのも要因である。
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